遺伝子編集テクノロジーのCRISPR(クリスパー)は、ヒトの赤ちゃんの遺伝子の修正や、動物の改変、そして鎌状赤血球症を患う人々の治療に利用されてきた。
今、科学者たちは新しい用途に挑もうとしている。HIV患者の完全な治療に、CRISPRを使おうというのである。
驚くべき実験に挑んだのは、エクシジョン・バイオセラピューティクス(Excision BioTherapeutics)というバイオテクノロジー企業である。同社は、HIVを抱える患者3人の体に遺伝子編集ツールを入れ、どこに潜伏しているウイルスであろうが、すべてを切断し破壊するように命令したと発表した。
同社には、遺伝子編集薬を1回静脈注射するだけで、HIV感染症を完治させるという最終目標がある。初期段階にあるこの研究は、この目標に向けた探求的な第一歩だ。サンフランシスコに拠点を置くエクシジョン・バイオセラピューティクスによれば、1人目の患者はおよそ1年前に治療を受けたという。
研究に参加した医師たちは2023年10月25日、ベルギー・ブリュッセルで開催された「欧州遺伝子細胞治療学会(European Society for Gene & Cell Therapy)」の年次総会で、この治療は安全であるように見受けられ、大きな副作用は出ていないと報告した。しかし、治療効果についての初期のデータは公開されなかった。そのため、外部の専門家はその有効性に疑問を抱いている。
「これは非常に野心的で重要な試験です」と、カリフォルニア大学バークレー校の教授で、ゲノム編集の専門家であるフョードル・ウルノフは言う。ウルノフ教授は、その効果がどういったものなのか、「効果なしという可能性も含め、すぐにでも知りたい」と考えている。
多少でもHIVに関する知識を持つ人なら、失敗であっても驚かないだろう。1983年にウイルスが特定されて以来、40年が経った今でもワクチンは存在しない。人類にとって手強い敵であることが証明されているのだ。
それでも製薬会社は、ウイルスの自己複製を止める抗レトロウイルス薬を開発した。この薬を服用すれば、HIV感染者は普通に暮らすことができる。しかし薬の服用を止めると、ウイルスはすぐに自己複製を始める。そしてそのままにしておくと、後天性免疫不全症候群(AIDS:Acquired Immuno Deficiency Syndrome)として知られる感染症やがんなどの致命的な症候群を引き起こす。
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