熱電池で重工業を脱炭素化、スタートアップが初の大規模製造施設
熱電池スタートアップ企業のアントラ・エナジーが初の大規模製造施設をサンノゼに建設し、モジュラー式熱電池の生産を開始する。世界のエネルギー需要の約20%を占める重工業の脱炭素化を推進する一歩だ。 by June Kim2023.10.30
カリフォルニアに拠点を置く熱電池スタートアップ企業のアントラ・エナジー(Antora Energy)は10月24日、同社初の大規模製造施設をサンノゼに建設する計画を明らかにした。この発表は、エネルギー貯蔵分野の主要プレイヤーを目指す熱電池産業にとって、大きな一歩だ。
アントラの電池は再生可能エネルギーを熱として貯蔵し、セメントやガラスといった工業製品の製造に利用できるようにする。工業熱の生産は全世界のエネルギー需要の約20%を占めている。その理由のひとつに、製品の製造に必要な高温を発生プロセスが化石燃料に大きく依存しているということがある。アントラは、必要に応じてスケールアップ可能な同社のモジュラー式熱電池が、重工業の脱化石燃料、カーボン・フットプリント低減の後押しになると考えている。
「これは当社と工業の脱炭素化にとって大きな一歩です」。アントラの共同創業者で最高執行責任者(COO)のジャスティン・ブリッグスはそう話す。
アントラの新工場では、2024年にモジュラー式熱電池の生産を開始する予定となっている。生産した電池は、全米の工業生産地に出荷する。アントラは、この工場で何個の電池を生産予定なのか、見込まれる取引先はどこなのかについては明かしていない。
アントラの熱貯蔵に使われているテクノロジーは驚くほど単純だ。同社のモジュラー式熱電池システムの外見は鋼鉄製の輸送コンテナに似ていて、中には、数時間、さらには数日間にわたって非常に高い温度を維持できる固形炭素のブロックが詰まっている。 高さ90センチメートルほどのとても熱い立方体を思い浮かべると良いだろう。
この電池は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーが豊富にあるときに作られた電力を使って、炭素ブロックを1800℃以上に熱する。鉄鋼など大きな熱を必要とする産業でも使用できる十分な熱さだ。このブロックは厚みのある断熱素材に入っており、さらに鋼鉄の層に覆われているため、中の材料が極めて高い温度になっていても安全に触れられる。そして、必要になったときに、貯蔵した熱を直接供給したり、熱光起電力セルを通じて電気に変換したりできる。
固形炭素を熱貯蔵に使うことには複数の利点がある。炭素は天然に豊富に存在し、安価に手に入る。長期にわたって高温に耐えることも可能だ。アントラは、同社の電池は数十年間使用できると断言している。
現状の熱電池は、まだ誕生したばかりの産業だ。しかしながら、巨大な未開拓の市場と将来的な成長への期待があるとジェフリー・リスマンは話す。リスマンはサンフランシスコに拠点を置くシンクタンク、エナジー・イノベーション(Energy Innovation)の産業部門でシニアディレクターを務める人物だ。欧州連合(EU)の排出取引制度やその他の規制により、温室効果ガス排出量の多い材料の生産・販売コストが高騰するなか、「工業生産を安価に脱炭素化する方法への関心が高まっています」とリスマンは言う。
この分野には他にも競合する企業がある。ロンド・エナジー(Rondo Energy)は若干異なるテクノロジーと貯蔵媒体を用いて、同様の熱電池を開発している。ロンド・エナジーは製造施設を既に稼働させており、生産能力を拡大させる計画を最近発表した。
工業熱の脱炭素化に取り組む連合組織、リニューアブル・サーマル・コラボレーティブ(Renewable Thermal Collaborative)の事務局長を務めるブレイン・コリソンは、数年にわたって熱電池分野を注意深く追っており、「大きな初期段階のスケーリングが起こる寸前」だと考えている。
コリソンによると、重工業の大規模な脱炭素化という課題に対する単一の解決策は存在しないものの、熱電池は複数の問題を同時に解決できるため、とりわけ役に立つという。熱電池は余った再生可能エネルギーを貯蔵することで送電網への負荷を減らし、これまで化石燃料に依存してきた産業に、よりクリーンな熱源を提供できる。
「多くの問題を解決できる、単純かつ安価なテクノロジーです」とコリソンは言う。「それだけで成功と言えます」。
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- june.kim [June Kim]米国版
- I’m an Editorial Fellow at MIT Technology Review, reporting on the intersection of climate, energy, and technology. I’m passionate about using data and graphics to tell compelling human stories. Previously, I produced broadcast and multimedia news at various media organizations in the United States and South Korea, covering topics ranging from immigration to music to public health.