宇宙で子どもを作ることはできるのだろうか? 精子提供者として活動していたエグベルト・エーデルブルックはこう考えた。
オランダの起業家であるエーデルブルックは、提供した精子のさまざまな用途に興味を持ち、体外受精が地球外でも可能なのか、あるいは地球外という条件で体外受精を改善できる可能性があるのか推測し始めた。無重力の宇宙空間は、実験室の平らなシャーレよりも優れているのだろうか。
現在、エーデルブルックは、地球外におけるヒト生殖研究のパイオニアとなることを目指すバイオテクノロジー・スタートアップ企業であるスペースボーン・ユナイテッド(SpaceBorn United)の最高経営責任者(CEO)を務めている。エーデルブルックCEOは2024年、ミニラボをロケットに載せて地球低軌道に送り、そこで体外受精(IVF)を試みようと計画している。もし成功すれば、エーデルブルックCEOは自身の研究が将来、人類の宇宙移住への道を開くことになるかもしれないと期待している。
「人類には代替案が必要です」と、エーデルブルックCEOは言う。「持続可能な種でありたいなら、複数の惑星に住む種でありたいものです」。
将来のスペース・コロニーだけでなく、宇宙が人間の生殖システムに与える影響を理解することも急務だ。まだ宇宙で妊娠した人物はいない。しかし、スペース・ツーリズムの勃興により、いつかは宇宙での妊娠が現実となりそうだ。エーデルブルックCEOは、人類はそれに備えるべきだと考えている。
深宇宙探査や移住への関心は、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスのような億万長者によって刺激されたこともあり、急激に高まっている。ヒトが宇宙の軌道にいるときに、生殖生物学的に何が起こるかについては、まだほとんど分かっていない。全米アカデミーズが2023年9月に発表した報告書は、宇宙空間での人間の生殖に関する研究はまだほとんど例がないと指摘し、宇宙空間が生殖にどのような影響を与えるかについての理解は、「長期的な宇宙探査に不可欠であるが、これまでほとんど調査されてこなかった」と付け加えている。
動物を対象とした一部の研究は、交配、受精から胚の発生、着床、妊娠、出産に至るまで、生殖の各過程が宇宙でも正常に機能する可能性を示している。例えば、1994年にスペースシャトル・コロンビア号で実施された最初の実験では、8匹の日本のメダカが卵から孵化するまで成長した。8匹はすべて地球に生還し、異常は無かった。
一歩ずつ進む
しかし、ほかの研究では、潜在的な問題を指摘するエビデンスが見つかっている。1983年にソ連の人工衛星で妊娠第3期の大部分(合計5日間)を過ごした妊娠ラットは、陣痛と分娩の際に合併症を発症した。地球に帰還した宇宙飛行士と同様、ラットも疲労し衰弱していた。分娩が通常より長引いたのは、おそらく子宮筋が萎縮したためだろう。同じ母体から生まれたすべての子が出産時に死んでしまったのは、母体の衰弱が一因と思われる閉塞症の結果だった。
エーデルブルックCEOは、これらのまだ結論が出ていない結果から、低重力や高い放射線被曝などの条件によって生殖過程がどのような影響を受けるかをよりよく理解するために、生殖過程の各段階を系統的に分離する必要性を指摘している。エーデルブルックCEOの会社が開発したミニラボは、まさにそのために設計したものだ。靴箱ほどの大きさで、マイクロ流体工学を利用して精子の入った部屋と卵子の入った部屋をつないだものだ。また、地球や月、そして火星の重力環境を再現するために、さまざまな速度で回転させることもできる。ロケットの上部に搭載して宇宙に打ち上げられるカプセルに収まるほど小さい。
卵子は装置内で受精した後、2つの細胞に分裂し、それぞれがまた分裂して4つの細胞になり、これが繰り返される。5~6日後、胚は胚盤胞という段階に達し、中空のボールのようになる。この時点で、ミニラボ内にある胚は極低温で冷凍され、地球に戻される。
しかしまず、スペースボーン・ユナイテッドはこの装置が宇宙で機能することを実証する必要がある。エーデルブルックCEOのテスト計画は、2023年3月のSXSWフェスティバルで公表された。
「私たちは最初のプロトタイプを完成させました。今年、6カ月以内にロケットに載せるつもりです」と、エーデルブルックCEOは聴衆に語った。
しかし、それは楽観的すぎることが明らかになった。8月のスペースボーン・ユナイテッド諮問委員会のズーム会議で、エーデルブルックCEOは、アイスラン …