ブルーベリーほどの大きさの錠剤を飲み込むことで、医師が炎症性腸疾患(IBD)の兆候を調べ、早期発見とリアルタイムで進行を評価することができるようになるかもしれない。
米国では年間約7万人が、クローン病や潰瘍性大腸炎などのIBDと診断されている。この自己免疫疾患の症状としては、疲労、腹痛、直腸出血、下痢などが挙げられる。治療せずに放置すれば、結腸がんを発症する可能性もある。IBDの症状はそれぞれ共通しており、強くなったり落ち着いたりを繰り返すため、診断が遅れることが多く、それが治療を難しくしている。「腸はブラックボックスのようなもので、非常に手が届きにくいのです」。マサチューセッツ工科大学(MIT)の合成生物学者で、この錠剤を開発したチームの共同主任であるマリア・インダ博士研究員は話す。「現時点では結腸内視鏡検査以外の方法はありません。これは侵襲的な手法で、短期間で繰り返すことができず、腸のマイクロバイオームを破壊します」。他の検査は便の健康状態など腸機能の代わりとなるものに依存するため、リアルタイムでの状況は分からない。
インダ研究員らは、大腸菌を含む錠剤を開発した。この大腸菌には、一酸化窒素や過酸化水素、その他IBDを抱える人の腸内で過剰に生産される分子を検知できるよう遺伝子操作を加えている。また、遺伝子クラスターが追加されており、上記の炎症分子に触れると光を放つ。さらにこの錠剤には、その光を検知できるフォトダイオード、体外に信号を送信できる無線チップも入っている。研究チームは今年、ネイチャー誌で初期の研究結果を報告した。
チームにとって最大の課題は、飲み込めて胃を痛めずに済むほど小さな物体に、装置一式を収める方法を見つけることだった。「十分な信号を送りつつ、人体に安全な大きさで機能する機器の開発が目標でした」。MITの化学者で、インダ研究員のパートナーとして機器を開発したミゲル・ヒメネス研究員は言う。「当然ながら、理想は顕微鏡サイズでしたが、電池とダイオードのサイズには物理的限界があります」。
研究チームは有効な信号を発するのに必要な細菌の最小数を割り出し、その信号をできる限り少ない電力で検知、処理、送信できる電子装置を開発することで小型化を実現した。次のステップは、その細菌センサーと電子装置を一体化させ、中身すべてを小さなパッケージにまとめることだった。細菌を湿潤な環境に保ちながら、電子装置を乾燥した状態に維持しなければならなかったため、より解決が困難な課題だった。研究チームは、可視光を透過させる接着フィルムをレーザー裁断し、その両面に細菌と電子装置を貼り付けることで課題を解決。システム全体を3Dプリントで作ったケースに収め、1.4立方センチメートルに満たない体積のバイオエレクトロニクス錠剤が生まれた。
錠剤の有効性を検証するため、研究チームは麻酔をかけた豚の腸に手術でこの錠剤を挿入し、閉腹した。「豚にこの錠剤を飲み込むよう訓練することはできません。錠剤を口から取り込ませようとすれば噛み砕いてしまう」(ヒメネス研究員)ためだ。同チームはこの錠剤がIBDのバイオマーカーを捕捉し、豚の体外に信号を送れていることを確認した。錠剤は現在、病気の兆候を示す濃度のバイオマーカーをセンサーが検知できることを証明し、ヒトへの有効性を実証すべき段階にあるとインダ研究員は補足する。
ボストンにあるマサチューセッツ総合病院の消化器専門医であり、ハーバード大学医学大学院の教授を務めるアレッシオ・ファサーノは、このバイオエレクトロニック錠剤を「未来的」だと表現する。ファサーノ教授のチームは、「ピルカム(pill-cam)」と呼ぶビデオカプセルの開発に取り組んでいる。飲み込めて、腸全体の画像を撮影でき、炎症が見られる部位をモニタリングできるというものだ。
炎症の変化を非常に早い段階でモニタリングできる非侵襲的手法があることは、非常に有益だとファサーノ教授は話す。症状が出る前に患者の炎症の再燃が頻繁に起こっていることを発見できれば、早期の治療介入が可能になる。
「これは臨床的に切実な需要がある分野における、非常に革新的な貢献です」とファサーノ教授は話している。