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中国テック事情:気候変動対策が儲かることを証明した中国企業
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These Chinese companies prove green tech can be profitable

中国テック事情:気候変動対策が儲かることを証明した中国企業

MITテクノロジーレビューが選んだ「気候テック企業15 2023」に2社の中国企業が入った。この2社は、気候変動対策が事業として成り立ち、利益を生むということを証明して見せた。 by Zeyi Yang2023.10.20

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

数週間前にニューヨーク市で大規模な洪水を引き起こした記録的豪雨は、気候危機への取り組みがいかに急務であるかということを、否応なく思い知らせるものだった。

MITテクノロジーレビューが10月上旬に開催した「クライメート・テック(ClimateTech)」カンファレンスの焦点は、まさにそのことだった。このカンファレンスでは学者や起業家、政治家、投資家たちをMITのキャンパスに招き、気候変動との闘いに不可欠となるテクノロジーについて議論した。

イベントでは、本誌が数カ月前から取り組んできた、まったく新しいリストも発表された。気候テック企業15 2023』である。気候の未来に大きな影響を与えるであろう世界中の企業の中から、注目すべき15社を選出した。リストに入った15社は、太陽光や原子力などの新たなエネルギー源の普及や、電気製品の多用途化や効率化、食品やセメントなど私たちの生活の中で最もありふれた商品の改良などに取り組んでいる。

その中に、知っておくべき中国企業が2社ある。まずは、世界トップ級の電気自動車(EV)メーカーの比亜迪(BYD)だ。同社の累計生産台数はつい最近、5億台に達した。そしてGEMだ。Green Eco-Manufactureの頭文字からなるこの会社は、電池に含まれる鉱物資源をリサイクルすることで、EVバッテリーのサプライチェーンをより環境に優しいものにしている。

気候テック企業15の特集記事では、この2社の歴史、主力製品、技術的優位点、両社が直面する潜在的な課題などを掘り下げて解説している。この記事では、2社の紹介記事の簡単なプレビューをお届けする。特集ページで、もっと詳しい解説を読むことをおすすめしたい。

🚗 BYD

事業内容:BYDの代表的な製品である「ブレード・バッテリー(Blade Battery)」は、他社製品よりも安価で、安全性が高く、耐久性に優れている。その性能の高さから、同社のEVだけでなくテスラのEVにも採用されている。またBYDは、原材料の鉱物から自動車用半導体に至るまで、EVサプライチェーンにおけるほぼすべての材料や部品を取り扱っている、あるいは製造している点で、飛び抜けた存在である。競合他社に比べて技術や製造能力の面で優位に立っており、信頼性が高く、何よりも手頃な価格のEVを提供する、競争力の高い企業の1つになっている。

重要な理由:世界は化石燃料の需要の代替するために、さまざまな種類のEVを必要としており、BYDは乗用車からバス、列車まで製造している。その製品の多様さと手頃な価格が、世界の多くの地域でクリーンエネルギーへの移行をより現実的なものにしている。

 


♻️ GEM

事業内容:中国では毎日何トンもの電子機器やバッテリーが廃棄されている。GEMはそれらを回収して新しい製品に作り替えたり、重要な鉱物資源を取り出して再利用したりしている。ここ数年、GEMの事業の大きな部分を占めているのは、数千トンものEV用バッテリーのリサイクルだ。回収したEV用バッテリーは、エネルギー貯蔵装置など、要求がそれほど厳しくない用途で再利用されるか、あるいは粉砕されて、新しい電池の材料として使える粉末の鉱物にリサイクルされる。

重要な理由:EVは気候変動対策としてはすばらしいものだが、その製造工程は必ずしもそうではない。特に、電池原料の採掘工程は、環境と労働者の両方にとって危険であることが多い。そのため、バッテリーの効率的なリサイクルは、EV産業をより気候に優しいものにするために不可欠となる。

本誌のエネルギー担当編集者であるジェームス・テンプルが序文で書いているように、気候テック企業15はめずらしく未来への楽観的な見通しを示している。気候変動について語るとき、人類は絶滅の運命にあると感じてしまいやすい。政治や惰性が問題解決の妨げになっているように感じられるからだ。だがそれでも、どのようなものが解決策になる可能性を秘めているのかを語ることは、重要である。

特にBYDとGEMは、気候変動の解決策が利益をもたらす未来を垣間見せてくれる。BYDは昨年、24億ドルの純利益を上げた。GEMの経営規模はBYDとは大きな差があるが、それでも2022年に1億6700万ドルとなり、前年比60%以上の急成長となった。

このことは、中国以外の国のプレーヤーにとって刺激になるかもしれない。一般消費者がガソリン車よりもEVを選択する可能性があることを、中国のEV市場が証明したのなら、世界中の起業家や政府は、自分たちも「BYD」や「GEM」を育てられると分かっているはずだ。その結果、さらに多くの人材と投資を気候テクノロジー分野に引き付ける可能性がある。

もちろん、企業による解決策は世界的な気候変動対策の一部に過ぎず、このリストでは各企業が直面する課題にスポットライトを当てるようにした。しかし私は、「気候テック企業15」のリストが、世界が気候変動に立ち向かう姿を見たいと願う人々を勇気づけてくれるだろうと感じている。特集ページで他の企業についても詳しく知ってほしい。

中国関連の最新ニュース

1.ワグネル・グループ(Wagner Group)は2022年に中国企業から高解像度観測衛星を2機購入し、ロシアの傭兵がウクライナやアフリカでの作戦行動のため、監視画像を利用できるようにした。(AFP通信

2.米国の半導体企業はバイデン政権との会談を重ねる中で、さらなる半導体規制に反対し、米国に新しい半導体工場を建設する計画の妨げになる可能性があると警告してきた。(ニューヨーク・タイムズ紙

3.中国の半導体製造業者SMIC(中芯国際集成電路製造、Semiconductor Manufacturing International Corporation)は、米国政府のブラックリストに載っているにもかかわらず、2022年に米国の半導体設計企業から、全売上高の5分の1にあたる15億ドルの収益を得た。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙
米商務省は、ウクライナでの戦争でロシアを支援したとして、さらに42社の中国企業を輸出ブラックリストに追加した。(サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙

4.中国のEVスタートアップ企業ニオ(Nio)は、1台の車両が売れるごとに3万5000ドルの損失を出している。しかし、政府の支援により、ニオのような企業はそのような損失に耐え、成長を続けることができる。(ニューヨーク・タイムズ紙

5. 中国のファストファッション企業シーイン(Shein)が、ソフトバンクグループの元幹部を副会長に任命した。この新任副会長には、同社のサプライチェーンを中国国外にも拡大する任務を負っている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

6. 香港のある男性が、「扇動的な」児童書を輸入したとして禁錮4カ月の判決を言い渡された。この児童書は、香港の民主化支持者を、狼から村を守る羊として描いている。(ザ・ストレーツ・タイムズ紙

PCR検査から食品企業への転身

およそ1年前に中国がゼロコロナ政策を緩和して以来、PCR検査キットを提供する多くの中国企業が進化を余儀なくされてきた。しかし、ある企業は、調理済み食品の市場に参入するという不可解な決断をした。

中国メディアの『藍鯨財経(Lanjing Caijing)』誌によると、中国全土に30以上の検査ラボを有する企業、深セン核子基因科技(Shenzhen Nuclear Gene Technology)は昨年、検査結果の捏造と技術基準の不遵守により地方政府から繰り返し罰金を科され、論争の的となった。その後同社は、2023年5月に武漢核子農業科技(Wuhan Nuclear Agriculture Technology)という名前の子会社を設立し、現在は米穀を基にした冷凍食品を製造している。

PCR検査と調理済み食品の唯一の接点は、どちらも非常に流行に乗ったビジネスであるということだ。中国ではここ数年、調理済み食品(魚の丸焼きのような手間と時間がかかる料理が多い)の人気が、料理を好まない若者の間で非常に高まっている。中国国内の市場規模は現在約580億ドルに達しており、2026年までに1480億ドルまで成長すると予想されている。しかし、レストランが独自のレシピを開発せずに、調理済みのパッケージ食品に頼るという短絡的なやり方が許容されることなのかどうか、人々は疑問に思ってもいる。

あともう1つ

中国の研究者によるある新しい研究が、株式ファンドの運用成績とファンドマネージャーの「顔の魅力」との間の関係を分析している。もちろんこの論文には、「顔の美しさ予測」のための深層学習モデルが低い点数を付けた実際のマネージャーの顔が、例としていくつか掲載されている。それで、結論は?「マネージャーの顔が魅力的ではないファンドの成績は、マネージャーの顔が魅力的なファンドを、年率で2%以上上回る」。

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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