遺伝子編集で鳥インフルの蔓延を防ぐ、概念実証に成功

How gene editing could help curb the spread of bird flu  遺伝子編集で鳥インフルの蔓延を防ぐ、概念実証に成功

鳥インフルエンザのせいで毎年何百万羽もの鳥が死に、最近では哺乳類の間にも感染が広がり始めている。英国の研究チームは、ニワトリの特定の遺伝子をクリスパーで編集すると、鳥インフルエンザにかかりにくくなることを実証した。 by Abdullahi Tsanni2023.10.16

ある概念実証研究によると、遺伝子編集はニワトリの鳥インフルエンザ感染・蔓延防止に役立つ可能性がある。

研究チームは遺伝子編集ツール「CRISPR(クリスパー)」を用いて10羽のニワトリのDNAを改変し、鳥インフルエンザウイルスに抵抗力を持たせてから全羽を低用量の鳥インフルエンザウイルスに曝露させた。結果、ウイルスに感染したのは10羽のうち1羽だけで、その1羽も他のニワトリに感染させることはなかった。

「この結果が示しているのは、ニワトリのウイルス耐性を高めるために使用できる概念が実証されたということです。しかし、まだ実用段階には達していません」。共同研究を率いたウイルス学者であるインペリアル・カレッジ・ロンドンのウェンディ・バークレー教授は記者会見で述べた。この研究の成果は10月10日に、ネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された。

近年、鳥インフルエンザのせいで、世界で数百万羽もの野生鳥や飼育鳥が死んでいる。哺乳類への感染も増えており、ウイルス学者の間では「人間に感染するようウイルスが適応するかもしれない」との懸念が高まっている。

今回のニワトリの研究では、研究チームはニワトリの精子と卵子に含まれるタンパク質遺伝子に変更を加えた。「ANP32A」と呼ばれるタンパク質は、インフルエンザウイルスがニワトリのシステムを攻撃するのを助ける。研究チームは、このANP32Aタンパク質のDNA配列を変更することにより、ニワトリのインフルエンザウイルス感染を抑制することに成功した。

研究に参加したエディンバラ大学ロズリン研究所(Roslin Institute)のアレウォ・イドコ・アコー研究員は、「この遺伝子変更がニワトリの細胞内でウイルス増殖を抑制できることは分かっていました」と言う。

研究チームは、遺伝子編集されたニワトリの回復力をさらにテストするため、高用量の鳥インフルエンザウイルスに対する2回目の曝露を実行した。結果、10羽中5羽が感染した。それでも、遺伝子編集による一定の防御効果は確認された。同チームはさらに、この介入によるウイルス拡散の抑制効果も確認した。同じ孵卵器に入れられた遺伝子編集されていないニワトリ4羽のうち、感染したのは1羽だけであり、遺伝子編集されたニワトリへの感染は見られなかった。

しかし研究チームは、遺伝子編集されたニワトリにおいて、鳥インフルエンザウイルスが2種類の関連タンパク質(ANP32BとANP32E)を利用して複製できるよう適応したことを発見した。

「このことは、研究チームが今回のターゲットとした単一遺伝子の編集が、さほど強力な手法でない可能性を示するものです」。カリフォルニア大学デービス校の動物遺伝学者であるアリソン・ヴァン・イーネンナーム教授は言う(同教授は研究に参加していない)。

研究チームも、ヴァン・イーネンナーム教授に同意する。次回の研究では、3種類の遺伝子すべてを編集したニワトリの開発を試みる予定だ。必要な技術上・規制上の段階を踏むと数十年かかるかもしれないが、「クリスパーで遺伝子を編集することにより、最終的に無数の鶏の命が救われ、畜産業に革命をもたらす可能性があります」と言う。ヴァン・イーネンナーム教授は、「このテクノロジーを使用して、病気にかかりにくい家畜を生み出せたら本当に素晴らしいです」と話している。