ディープマインド、医療記録にブロックチェーン応用
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DeepMind’s New Blockchain-Style System Will Track Healthcare Records ディープマインド、医療記録にブロックチェーン応用

ディープマインドは、医療記録にブロックチェーンを応用し、改ざんや無断使用を監査できるようにした。保健医療分野への進出が進むグーグル(アルファベット)によるデータ蓄積の懸念を払拭する狙いもありそうだ。 by Jamie Condliffe2017.03.10

アルファベット(グーグル)の人工知能系子会社ディープマインドは、ブロックチェーン型システムの開発を計画中だ。新システムは、患者のあらゆるデータがどのように使われたのかを詳細に追跡する。

保健医療分野での事業を急拡大させているアルファベットは同社が「検証可能データ監視(Verifiable Data Audit)」と呼ぶツールを年内に構築予定だ、と発表した。誰がどんな目的で医療記録を使っているのかを病院(将来的には患者も)が正確に把握できるようにするのが目的だ。

ブロックチェーンのように、過去の出来事を正確に記録するため、ディープマインドは暗号数学を使ったシステムを開発する。システム内のデータの一部が使われるたびに、過去の全ての操作に基づいて新たなコードが生成される仕組みだ。たとえば、何かの事情(医療ミスの証拠など)で、あるデータを使った事実を隠蔽するために、ユーザーの誰かが以前の記録を後から更新すると、その操作以降の全ての記録は意味不明となり、不正がすぐに判明する。

開発中のツールは、ザ・ロイヤル・フリー・ハムステッド病院(ロンドン)など、ディープマインドとすでに協力関係にある複数の英国の病院で試験導入される。ディープマインドによれば、病院職員は医療記録がディープマインドでどう利用されているかをリアルタイムで把握できるほか、異常なデータの利用があったことを知らせる自動アラートも設定できるという。病院は将来、ツールへの利用を患者に解放するかもしれない。

システムの処理は非常に複雑になるだろう。英国の医療記録はほうぼうに分散している問題があり、将来のどんな拡張にもシステムを対応させるに、ディープマインドは、システムがさまざまなデーベースシステムを介して確実に動作できるようにする必要がある。また、一回しか利用しないデータをソフトウェアが何らかの形で他のプログラムに転送できる場合は、ディープマインドはデータの利用が適切に記録されていることを保証する方法を考える必要があるだろう。

こうした課題があるものの、今回の研究はディープマインドにとって意義がある。ディープマインドは患者の病気の初期徴候を医療スタッフに通知可能なソフトウェアや眼病を診断するAIシステム、がん治療を指導する機械学習手法など、さまざまな保健医療ツールを矢継ぎ早に開発している。だが、医療分野への研究を始めて間もなく、英国国民保険サービスは、英国民に案内していた以上のデータをディープマインドと共有していたことが判明し、ディープマインドは非難にさらされたことがあるからだ。

ディープマインドの共同創業者であるムスタファ・スレイマンは、新しいデータ監視ツールはこうした問題が発生する前から開発されていた、とガーディアン紙に述べた。それでも、ディープマインドの新システムは、将来確実に清廉潔白であろうとしている証拠であり、その結果、非常に明瞭で消えることのない監査用の証跡が積み重なるわけだ

今回のニュースによって、ブロックチェーンが、ビットコイン(有名なだけで影響力は大したことのない暗号通貨)用の分散データベースとの位置付けから急速に脱却していることが示された。ブロックチェーンはビットコインを支えるテクノロジーだが、デジタル取引台帳は他の多くのことに応用できる。たとえば、世界最大の海運企業A.P. モラー・マースクは、貨物の追跡にブロックチェーン・テクノロジーを実験中であり、ウォルマートは安全衛生基準を向上させるため、農産物の産地情報の表示と記録のためにブロックチェーンを使っている。そして今、ブロックチェーンの活用法のリストに医療記録が追加されたのだ。

(関連記事:DeepMind, Guardian, New Scientist, “囲碁の次はがん治療 ディープマインドが英で提携,” “世界最大の海運企業マースク、ブロックチェーンで貨物を追跡中,” “グーグルの人工知能子会社、160万人分の医療記録を正式取得”)