生成AI時代に価値を創造する
「ソリューションデザイン」の現場
AIの進化はめざましく、ChatGPTに代表される生成AIがさまざまな領域で活用されつつある。ただ企業での導入状況をみると、その多くがまだ単なるコスト削減や業務効率化にとどまっているようだ。そうした中、株式会社大広(以下「大広」)と株式会社Laboro.AI(以下「Laboro.AI」)は新たな価値創造につながる革新的な対話型AIシステムを開発した。 by MIT Technology Review Brand Studio2023.10.27Promotion
問いかければ、瞬時に答えを返してくれる。しかもその回答はネット上にある膨大な情報に基づいていて、驚くほど的確だ。大手広告会社の大広は、こうした生成AI/大規模言語モデル(LLM)の可能性に、かなり早くから着目していた。
「3年ほど前からGPT-2を使った、新しいコミュニケーションシステムの開発にチャレンジし始めましたが、なかなか思ったような成果をあげられませんでした」。『Brand Dialogue AI』開発当初の状況を大広の内田 徹ディレクターはこう振り返る。
BtoCビジネスの成否を大きく左右するCRM(顧客関係管理)では、顧客一人ひとりとの密接な関係性構築が重要な課題となる。顧客を知ると同時に、自社を深く理解してもらう。このような顧客との関係性を深めるツールとして、3年前の時点で大広は、対話型のAIシステムを活用できると考えた。実に先見性に富んだ着眼だが、現実問題としては技術の進化が、求められるレベルにまだ追いついていなかった。
大広の鷲北雄介チームリーダーは、「プロジェクトを立ち上げたものの、そもそもGPTの技術レベル自体が現在のGPT-3.5あるいはGPT-4とは大きく異なりましたし、そのギャップを埋める方法が分からなかった。そのため成果物も実際に運用できるレベルには程遠いものだったのです。ところが2022年11月にGPT-3.5を搭載したチャットGPT(ChatGPT)が登場して、状況が一変しました。そしてちょうどそのタイミングでLaboro.AIさんと出会えたのが、プロジェクトを一気に加速できた要因です。おかげで約半年後の2023年7月には『Brand Dialogue AI』をリリースできました」と急展開した経緯を語る。
『Brand Dialogue AI』をひと言で表すなら「企業やブランドに合わせて最適化した人工知能」となる。企業やブランドの考え方、商品知識、顧客データなどを反映しつつ、相手に合わせて臨機応変に対話できるチャットボットであり、チャットGPTを利用して大広とLaboro.AIが開発したシステムだ。
通常のチャットGPTがネット上にある情報を元に対話するのに対して、Brand Dialogue AIでは企業のブランド情報や商品知識に加えて、対話相手となる顧客の情報などを踏まえた上での対話が繰り広げられる。
大広ではこのシステムを活用する実証実験プログラムを、オーダーメイドのビジネスウェアブランド『FABRIC TOKYO』と開始している。プログラムではFABRIC TOKYOのブランドや商品情報を取り込んだAIが、顧客と対話する。
「Brand Dialogue AIを相手にお客様は、店舗にいる自分の好みを分かってくれているスタッフと気軽に話をする感覚で、いつでも、どこからでもファッションについて相談できます。しかも相手が生身の人ではない分、より気軽に本音で話せるでしょう。その結果は、メルマガなど一方向の施策と比べれば高い購買率につながると同時に、顧客についてもより掘り下げた情報を得られます」
内田氏は、企業と顧客との新たなOne to Oneコミュニケーションスタイル構築への期待をこのように語る。
顧客の要望✕AI=ソリューション提供へ
チャットGPTをカスタマイズし、企業特有の商品やコンテンツデータに加えて、顧客データに基づいた会話を実現する。そのために今回開発された独自技術が「ダイナミックプロンプト」だ。
独創的な技術開発は、Laboro.AIのシニアソリューションデザイナである中野達之氏率いるチームによって実現した。
「顧客の要望に適したAI技術を組み合わせ、新たなソリューションを創造して提供する。これが私たちソリューションデザイナの仕事です。実は最先端のテクノロジーとビジネスニーズの間には根深い断絶があり、その隙間を埋めるために当社は設立されました。今回のプロジェクトでも、最新鋭のチャットGPTを顧客サービスに活用したいのに、思い通りの結果を得られていませんでした。そうした状況に対するソリューション、今回で言えばダイナミックプロンプトの提供が私たちの大きな役目となりました」。
ダイナミックプロンプトとは、ユーザーの属性と質問内容に応じて独自のデータベースから最適なデータを検索し、チャットGPTに送信するプロンプト(指示文)に反映するシステムである。新たなパートナーとしてLaboro.AIと開発を始めた大広を驚かせたのは、対応のスピード感であり、課題に対する解像度の高さだった。
「中野さんたちとのミーティングで、GPT-3.5を活用したシステムを創りたいと話をしたところ、わずか1週間程度でデモ版をプレゼンしてくれました。もちろん単に速いだけではなく、私たちの問題意識を細部まで的確に理解した上で、いわばかゆいところに手が届く提案をしてもらえた。まさに私たちの求めていたAIが、あっという間に誕生したのです」(鷲北氏)
なぜ、そのようなクイック・レスポンスを実現できたのか。Laboro.AIのリード機械学習エンジニアの内木賢吾氏は、「GPTには我々も早くから注目していて、エンジニアチーム内でも相当数の論文に目を通していました。この知識のバックグラウンドを踏まえた上で、ソリューションデザイナが課題解決までの道筋を的確に示し、さらに『とにかく1週間で提案しよう』とチームをリードしたからだと思います」と語る。
システム開発とソリューションデザイン、その決定的な違い
何らかの課題解決のために情報システムを新たに構築、活用する。これだけ聞くといわゆる一般的なシステム開発と似ているようだが、Laboro.AIが提唱する「ソリューションデザイン」は一体どこが違うのだろうか。
「システムを開発するのではなく、最先端のものも含め最適な技術を活用して、顧客が必要とするソリューションを創り上げていく。当社のミッションでもある『テクノロジーとビジネスを、つなぐ。』、そのためのプロセスを当社ではソリューションデザインと表現しています。今回のBrand Dialogue AIがまさにその好例ですが、チャットGPT自体は誰もが手軽に使えるAIです。だからといってチャットGPTを使いさえすれば何でも思い通りにできるかといえば、決してそうはいきません。ビジネスニーズを実現するためには、必要な技術を組み合わせてチューニングし、望む結果を得られるソリューションに仕立て上げる必要があります」(中野氏)
そのためソリューションデザイナには、営業とコンサルタント、プロジェクトマネージャーと3つの役割が求められる。まず顧客と会話をし、信頼関係を醸成しながらニーズを聴き出す。その上で、顧客の問題解決策を考案し、プロジェクトが始まるとプロマネとしてエンジニアをリードして、モデル構築から実験を重ねて精度を高めていく。
「プロジェクトを進める上で欠かせないのが虫の目・鳥の目・魚の目の3つの視点です」と中野氏は強調する。虫の目とは、まず顧客と同じ視点に立ち、同じ目線で問題を共有して理解する見方である。鳥の目とは、そのひとつ上の次元から俯瞰的に全体を広く捉える見方であり、顧客の顧客までを見通す幅広い視覚が求められる。魚の目とは、流れを読んで未来を見通す深い視野だ。常にこのような視点を意識しながら物事を見ていれば、自然と問題に対する解像度も高まるはずだ。
だから「中野さんの話は、課題が明確に切り分けられていて、とても分かりやすい。その前段階として、私の中でうまく言語化できていない、モヤッとした疑問を的確に引き出す質問力も備えています」と大広の鷲北氏は評価する。
AI時代のファーストペンギンを相次いで生み出す
『Brand Dialogue AI』のプロジェクトでは、共同で研究開発に取り組むFABRIC TOKYOとLaboro.AIの中野氏が接する機会もあった。
「プロジェクトの入口から関わってくれて、出口となる回答に至るまでが速い。背景となる高い技術レベルの裏付けを踏まえながら、FABRIC TOKYOの方たちにも分かりやすく説明してもらえました」と大広の鷲北氏は話す。
中野氏のようなソリューションデザイナは、かなり特殊な能力とスキルを兼ね備えていなければなれない職種なのだろうか。Laboro.AIのソリューションデザイナには、その出自に3つのパターンがあるという。
「今のところコンサルタント、データサイエンティスト、AI開発プロジェクトマネージャーなどが主ですが、これが絶対条件というわけではありません。もちろん情報系出身でなければならないわけではなく、実は私は農業経済学出身という謎の経歴だったりします。それより最新のAIが好きで、ゼロイチでソリューションを創っていくのが何より楽しい、そんなモチベーションを持っている人に向いている仕事です」(中野氏)
エンジニアチームとも距離が近いため、彼らがキャッチアップした最新の論文からも常に学ぶ機会がある。またソリューションデザイナ同士でも事例を共有して知見を深め合うのだという。
「エンジニアと一緒に活動して、新しいソリューションを提供する。言ってみれば何らかのソリューションを求められる特定のビジネス領域で、いつもファーストペンギンを目指すような革新的な仕事。これがソリューションデザインの何よりの魅力だと思います」と中野氏は結んでくれた。
(提供:Laboro.AI)
文:竹林篤実 写真:伊東武志
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