気候危機についての楽観的な知らせが入るには、奇妙なタイミングだと思うかもしれない。地球上では、観測史上最も暑い夏が終わったばかりだ。それどころか、今年は史上最も暑い年になる可能性が非常に高い。
地球の気温上昇は、世界の数多くの地域で日常生活をより危険なものにし、生命に関わる熱波、干ばつ、飢きん、山火事を深刻化させている。世界各国が温室効果ガスで大気を満たし続ける限り、こうした脅威は悪化の一途をたどるだろう。
だが、ささやかな朗報もある。大まかに言えば、排出量削減に必要な手段は揃っているということと、有意義な気候変動対策への機運が高まっていることだ。排出量の多い業界の変革に向けて、各国政府や企業が必要な技術、政策、資本、インフラの開発・導入を進めてきたおかげで、世界はすでにかつての最悪の温暖化シナリオを回避している。
MITテクノロジーレビューはこの進展を評価し、変化の加速に最も貢献しうる企業とテクノロジーを称えるために、新しい年次リスト「気候テック企業15(15 Climate Tech Companies)」をスタートする(第1回となる2023年度の選出企業はこちら)。
多種多様な気候変動テクノロジーに取り組む多数の候補を選出するに当たって、MITテクノロジーレビュー[米国版]編集部は、産業専門家、投資家、学術関係者、そして本誌各国版の編集者など数十人の助言を得た。また、各社の資料に目を通し、技術的手法を比較し、さまざまな主張の科学的信憑性について多くの専門家に聞き取りを実施した。こうしたプロセスを経て内部で討議した結果、まとまったのが今回発表した最終的なリストだ。
「気候テック企業15」は、各社によるイノベーション、ソリューション実用化の実績、あるいは両方を鑑みて、排出量の大幅な削減や気候危機対策に有望だと本誌が判断した企業を選んでいる。特に重要かつ差し迫った課題に取り組む、スタートアップと既存企業の両方を網羅した。いずれの企業も、発電、エネルギー貯蔵、食料生産、製造、輸送の分野においてより持続可能な手法の開発を進めており、地球温暖化の影響に適応するための新たな方法を探っている。
リストの選定にあたっては、誇大広告、奇抜なアイデアやニッチな取り組みを避けるように注意し、大規模な産業の変革に十分なコストの削減と規模拡大を実現できるテクノロジーを開発している企業を選ぶように努めた。
MITテクノロジーレビューは、科学技術における重要かつ新たな展開を紹介する大型特集として、これまで「ブレークスルー・テクノロジー10」と「35歳未満のイノベーター」を毎年発表しており、「気候テック企業15」がそこに新たに加わることになる。
企業の未来を予言できるというつもりはない。旧来の産業を覆すことは困難であり、企業はさまざまな理由で破綻する。現在生き残っている企業も破綻しないとは限らない。今回のリストでは、各企業が今後直面する可能性がある課題を具体的に指摘することにも留意した。また、各社の企業戦略、慣行、沿革を全面的に支持するわけでもない。企業によっては、指摘すべき粗は山ほどある。それでもなお、これらの企業はいずれも、世界がよりクリーンでより優れたビジネスのあり方を求めて競争する中で、検討に値するテクノロジーを追求している。
今も続く温室効果ガスの排出により、気温はさらに高まり、気候変動による悲劇は今後も起こるだろう。我々が直面する生死に関わる難題を認識することには、重大な意義がある。だが、気候変動に関する悲観的なメッセージを受け、若者の半数は人類は滅亡する運命にあると信じ込んでしまっている。その考えは、温暖化の予測に裏付けられているわけでも、動機付けられているわけでもない。
だから本誌は、現に対策を実行に移している世界の歩みに目を向けることもまた必要だと確信している。それは、敗北主義への特効薬となり、進歩を早める模範を示し、いまだに行動を起こさないことへの言い訳に対する痛烈な批判を加えることにもなる。