ピコの新型無線ゴーグルは、VRの不人気を打破できるか?
VRゴーグルの販売が不振だ。原因は未熟なテクノロジーと魅力的コンテンツの不足とケーブルにあるのではないか?と考えられている。スタートアップ企業ピコ・インタラクティブは、ゴーグルからケーブルをなくし、位置センサー内蔵の製品を開発中だ。 by Rachel Metz2017.03.10
現実世界でコードがまとわりついてくる状態では、バーチャルな世界には没頭しにくい。だが、市販の製品で最も高性能なVRゴーグルでも、パソコンとケーブルで接続しなければ使えない。ところが、スタートアップ企業のピコ・インタラクティブ(Pico Interactive、本社・中国とサンフランシスコ)は、新手法によりゴーグルから接続ケーブルを取り除き、ユーザーの動きに合わせて位置情報をトラッキングできる機能を内蔵した、独立型の無線ゴーグルを開発した。
ピコ・インタラクティブが年内発売を目指して開発中の製品は布張りのVRゴーグル「Pico Neo CV 」だ。Neo CVはクアルコムの参照設計(リファレンスデザイン)に基づくVRゴーグルで、ディスプレイのリフレッシュ・レートはオキュラス・リフトやHTC Viveと同じ90Hzだ。また、Neo CVは外部センサーの補助なしでユーザーの位置と頭の向きの両方を捉える「完全な」トラッキング機能と、一体型スピーカーを搭載し、バッテリーは2時間半から3時間持続する。
ピコ・インタラクティブのプロダクト・デザイン部門を率いるエニン・フアン副社長は、Neo CVはVRの利用を簡易化する手段だと考えている。手軽さで消費者を惹きつけ、より多くの人に製品を試してもらうのがピコ・インタラクティブの狙いだ。
フアン副社長は「ユーザーは自分が使いたいとき、すぐにゴーグルを装着できます。コンピューターやゲーム機を起動する必要はありません。待たなくていいのです」という。
ピコ・インタラクティブはNeo CVの販売価格まだ発表していない。フアン副社長は、既存の製品と比べて「全く引けを取らない」価格になるだろう、とだけ述べた。今のところ、消費者向けに販売されている最も高性能なVRゴーグル、コントローラー、トラッキング装置の合計価格はプレイステーションVR(ソニー)の499ドルからオキュラス・リフトの598ドル、HTC Viveの799ドルまで、かなり幅がある(価格は動作に必要なゲーム機や高性能コンピューターの費用を含まない)。
消費者向けの実質現実は登場からまだ日が浅く、市場規模は小さいままだ。市場調査会社カナリスは、2016年に出荷されたVRゴーグルの台数を200万台以上と見積もったが、この台数は、たとえば同じ期間に販売されたビデオゲーム機に比べれば、ほんのわずかでしかない。テクノロジーの導入コストや、利用できるコンテンツの不足、ケーブルの煩わしさなど、大衆への普及を阻む課題はいくつもある。
ピコ・インタラクティブ以外も、多くの企業(クアルコムのような半導体メーカーやフェイスブックの子会社オキュラスのようなゴーグル・メーカー)が、無線VRゴーグルを実質現実の究極のゴールとみなしている。しかし、現在市販されているケーブルなしモデルは、サムスンのGear VRやグーグルのデイドリームなど、スマホをディスプレイ代わりに使う低機能な製品がほとんどだ。
私は、サンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議(Game Developers Conference)に出展されたNeo CVを試してみた。映画『エントラップメント』に出てくるレーザー光線型侵入センサーを避けて進むシーンをもっと簡単にしたようなゲーム(つまり視界に写し出された赤いレーザー光線をまたいだり避けたりしながら薄暗い工業用倉庫のような場所を進んでいく短いゲーム)をプレイしたのだが、ゴーグルのトラッキング機能はきちんと動作していたし、ぐるぐる動き回ってもグラフィックが崩れることはなかった。ゴーグルのバンド部分にはパッドがついており、後ろの部分にバンドのきつさを調整するための簡素なホイールがあって、オキュラス・リフトやHTC Vive と比べてかなり軽く、装着感は驚くほど快適だった。
ただし、Neo CVはコンピューターやゲーム機に接続するタイプのVRゴーグルほど高性能ではなく、ゲーム用の大容量ストレージもない(メモリーカードで対応できる最大容量は128GB)。
ガートナーのアナリスト、ブライアン・ブラウは、VRゴーグルにどのようなテクノロジーが用いられるかはさして重要でないという。結局のところ、大切なのは、ユーザーに価値ある体験をもたらせるかでしかない。
「VRは現在のところ、誇大宣伝されたテクノロジーです。皆とてもワクワクしていますが、機器は人々の期待に応えられていないし、多くの不満があります。ユーザーを納得させられるかどうかは、ピコ・インタラクティブと競合企業の頑張り次第です」
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クレジット | Image courtesy of Pico |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。