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マスクも署名した「AI開発6カ月停止」で何が変わったか?
Stephanie Arnett/MITTR | Getty
What's changed since the "pause AI" letter six months ago?

マスクも署名した「AI開発6カ月停止」で何が変わったか?

人類に対する脅威になるとして、GPT-4よりも高度なAIの一時開発停止を求める公開書簡が発表されて6カ月が経った。イーロン・マスクら著名人が署名したこの書簡をまとめたMITのマックス・テグマーク教授が、この半年間を振り返った。 by Melissa Heikkilä2023.10.02

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

人工知能(AI)を取り巻く実存的リスクを考える非営利団体、生命の未来研究所(Future of Life Institute)が、イーロン・マスク、スティーブ・ウォズニアック、ヨシュア・ベンジオら著名人が署名した書簡を2023 年3月22日に公開してから、6カ月が過ぎた。テック企業に対し、オープンAI(OpenAI)の「GPT-4」よりも高度なAI言語モデルの開発を6カ月間「一時停止」するように呼びかけた書簡である。

結果はどうだったか。もちろん、停止されなかった。

FLIの創設者兼代表でマサチューセッツ工科大学(MIT)のマックス・テグマーク教授とともに、この半年間の経過を振り返ってみた。以下はテグマーク教授との会話の抜粋である。

AIリスクのオヴァートンの窓をずらす

テグマーク教授によれば、以前からAI研究者やテック企業のCEO(最高経営責任者)と話す中で、AIがもたらす実存的リスクに大きな不安があることは明白になっていた。だが、「ラッダイト運動の扇動者だと嘲笑されるのを恐れて」公に声を上げようとする人はいなかったという。 「書簡の主な目的は、この話題をメインストリームにし、人々が恐れずに懸念を表明できるようにオヴァートンの窓をずらすことでした」とテグマーク教授は語る。「6カ月経って、その点については確かに成功しました」。

だが、それだけだった

「問題は、どの企業も今も全速力で突き進んでいるのに、米国にはまだ意義ある規制がないことです。米国の為政者は、口ではいろいろ言いますが、最も危険なものを有効に抑制する法律を年内に可決させる気はありません」。

政府が介入すべき理由

テグマーク教授は、AIに関するルールを施行する米国食品医薬品局(FDA)型の機関の設立と、テック企業にAI開発の一時停止を強制できる政府機能を求めてロビー活動をしている。「(サム・アルトマン、デミス・ハサビス、ダリオ・アモデイのようなAIのリーダー)自身が深刻に懸念していることも明らかです。ただ、こうした人々は、自分だけが一時停止することはできないとわかっています」とテグマーク教授は言う。一人で一時停止するのは「自身の企業にとっては災難ですからね。単に競争に負けて、そのCEOは一時停止をしない誰かに挿げ替えられるのはわかり切っています。一時停止を実現させる唯一の手段は、世界各国の政府が介入して、全関係者に一時停止を強制する安全性基準を導入することです」 。

ではイーロン・マスクはどうなのか ?

マスクは一時停止を求める書簡に署名した。だが、結局は「宇宙の本質を解明する」AIシステムを構築するため、エックス・ドットAI(X.AI)という名前のAI企業を新たに設立した。(マスクはFLIの顧問である。)「他の多くのAIリーダーと同じように、マスクも一時停止を望んでいることは明らかです。しかし、それが実現しない限りはゲームを続けるしかないと考えているのです」。

テック企業のCEOたちの本性は善だと考える理由

「AIと共存するうえで、こうしたCEOたちは悪い未来ではなく、良い未来を心から望んでいると私は考えています。その理由は、彼らをずっと前から知っているからです。定期的に話をしており、たとえ私的な会話の中であってもそう感じます」。

実存的リスクに注目すると、目前の害が蔑ろにされるとの批判に対して

「現在起こっている問題を憂慮する人と、目前に迫る害悪を懸念する人が、内輪もめをするのではなく協力することが重要です。私は、今ある害を問題視する人を批判するつもりは一切ありません。素晴らしい取り組みだと思いますし、その問題をとても心配しています。その種の内輪もめにとらわれると、巨大テック企業を抑制したかったはずが、むしろ巨大テック企業による分断と征服を助長することになります」。

テグマーク教授が考える今、回避すべき3つの過ち

1つ目は、.テック企業に制度づくりを任せること。2つ目は、.論点を西側対中国の地政学的な争いに変えてしまうこと。そして、3つ目は、実存的な脅威のみ、あるいは現状のみを考えることである。すべての問題が、人間が無力化される危機と地続きであることを認識しなければならない。全員で団結してこの脅威に立ち向かう必要がある。

AIビジョンシステムのバイアスを軽減する新ツール

ソーシャルメディア・フィード上の画像の分類やタグ付け、写真・動画内の物体や顔の検出、画像の関連要素の強調表示など、コンピュータービジョン・システムはいたるところで使われている。しかし、コンピュータービジョン・システムにはバイアスが多く含まれ、画像に黒人や褐色人種、女性が写っている場合は正確さが下がる。

そして、もう一つ問題がある。それは、研究者がこうしたシステムのバイアスを発見する現在の方法は、それ自体が偏っており、人間に存在する複雑性を適切に考慮せずに、人々を大まかなカテゴリーに分類しているということだ。

ソニーは、肌色の尺度を2次元に拡張し、肌の色(明るい色から暗い色まで)と肌の色相(赤色から黄色まで)の両方を測定するツールを開発。MITテクノロジーレビューに独占公開した。メタは、地理的位置や膨大な種類の個人的特性まで考慮した公平性評価システム「ファセット(FACET)」を構築し、そのデータセットを自由に利用できるようにしている。 続きはこちら。

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メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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