グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)は、人工知能(AI)を訓練し、ヒトゲノムのどの遺伝子変異が病気を引き起こす可能性が高いかを予測できるようになったと発表した。こうした予測によって、希少疾患の診断が迅速化されるとともに、医薬品開発の糸口が得られるようになるかもしれない。
ディープマインドはロンドンで設立され、10年前にグーグルに買収された企業だ。ビデオゲームをプレイできるAIプログラムを開発し、囲碁のような複雑なボードゲームの数々で勝利を収めたことで知られている。さらには、同社開発のプログラム「アルファフォールド(AlphaFold)」が、生物学における「グランドチャレンジ」とされるタンパク質の形状を正確に予測できるようになったと発表し、医学分野にも進出を果たした。
今回、同社はこのタンパク質モデルに微調整を加えることで、ヒトのDNAに見られる変異のうち、無視しても問題ないものと病気を引き起こす可能性の高いものを予測することに成功したという。9月19日には、「アルファミスセンス(AlphaMissense)」と名付けられたこの新たなソフトウェアについて記した論文が、サイエンス(Science)誌に掲載された。
ディープマインドの説明によると、このプロジェクトの一環として、数千万件の予測結果を一般公開しているが、他者が同モデルを直接ダウンロードできる形にはしていないという。この手法が他の生物種に適用された場合、バイオセキュリティ上のリスクが生じる恐れがあることが理由だ。
医師たちは、直接の診断は目的としないものの、すでに原因不明の疾患の遺伝的要因を突き止めるために、さまざまなコンピューター予測を活用している。ディープマインドはブログの中で、今回の結果は「病気の根本的原因」を解明するための取り組みの一環であり、「より迅速な診断と生命を救う治療法の開発」につながる可能性があると述べている。
この3年がかりのプロジェクトは、ディープマインドのエンジニアであるジュン・チェンとジガ・アヴセックが中心となって進められた。同社の発表によると、同プロジェクトでは、7100万種類もの起こりうるバリアント(多様体)についての予測結果を公開している。今回公開されたバリアントはミスセンス変異と呼ばれる種類のものだ。つまり、DNAの一塩基が他の塩基に置換されることで、遺伝子によって作られるタンパク質も変化する。
「このプロジェクトの狙いは、タンパク質の形状を予測するのではなく、タンパク質に変化を与え、その変化がヒトにとって害になるかを予測することです」とミシガン州立大学の物理学者で、AIテクノロジーを使って遺伝子関連の問題に取り組んでいるスティーブン・シュー教授は説明する。「こうした置換のほとんどは、それによって病気が引き起こされるかどうか、分かっていないのです」。
外部の専門家によれば、ディープマインドの発表は、商業的価値があいまいなテクノロジーを大々的にアピールするという同社のこれまでの流れを汲んだ、最新の事例だという。「まさにディープマインドらしいやり方です」と、医薬品開発専門のAI企業、インシリコ・メディシン(Insilico Medicine)の創業者であるアレックス・ザボロンコフCEO(最高経営責任者)は語る。「見事なPRですし、AIのすばらしい …