ジョン・ファブローは、ハリウッドの映画監督としては珍しく、実質現実(VR)に踏み込んでいる。『エルフ 〜サンタの国からやってきた〜』(2003年)や『アイアンマン』(2008年)で大成功した後、ファブローは2016年のヒット作『ジャングル・ブック』でモーション・キャプチャーによるデジタル映画制作の限界に挑んだ。ファブローの最新作『ノームとゴブリン』は360度パノラマ映画の短編インタラクティブ体験で、現在、HTC Viveゴーグル用に提供されており、もう間もなくオキュラス・リフトでも再生できるようになる。ファブローは、VRで物語を語る方法についての考えを、映画評論家のタイ・バーの質問に答える形で、MIT Technology Reviewの読者に語った。
ハリウッドの映画監督はどのようにVR体験を作るのでしょうか?
どんなメディアにも、物語を語るのに最適な方法がそれぞれあるのです。観客が映画に期待していることは、約100年間かけて、観客や映画制作者が映画というメディアに関わることで形作られてきました。映画は、巨大なスクリーンをみんなで一緒に見る、という舞台装置を利用します。また、カメラワークと編集によって、監督が見せたいものに観客を導き、確実に注目させるようにしています。
どの手法もVRには使えませんね。
そうですね。観客が従来の映画制作の手法で作られたVR体験にいつの間にかイラついてしまうことがあるのは、その種の映画固有の性質を新しいメディアに押し付けてしまうからです。映画やテレビやビデオゲームを、VRに切り貼りしようとするのです。私の考えでは、最高のVRとは没入することであり、VRがもたらす臨場感を最大限に活用することです。
実質現実で感性に訴える体験をどのように作るのでしょう?
よくできた映画で、観客は主体的に映画の世界に参加しているように感じます。代理人の目を通して物語を体験しているように感じるのです。恐ろしい映画なら手に汗を握り、悲しい映画なら涙を流します。どの体験も、物語の中に自分が投影されていると感じることで味わうのです。私たちは映画に引き込まれ、巧みな物語の運びに我を忘れます。VRでも、監督が見せる場面を観客に主体的に体験して欲しい点では、課題は同じです。しかしもし、体験の進行を作り出せるなら、必ずしも従来の物語技法を使わずに、映画制作者は観客を引き込み、何かが起きている、何かが変化している、という体験につながる物語の横糸があると感じさせられるでしょう。
VRというテクノロジーは、表現を深められるほど機が熟しているでしょうか? 観衆は受け入れるでしょうか? ハリウッドは準備ができているでしょうか?
私は語り手として、VRを実現する機器やVR体験というメディアから受ける感覚は他では味わえないとわかっていますし、どうすれば成功するかのモデルがなくても、私はやる気をかき立てられます。今はVRの黎明期です。映画でいえば、カメラをどう動かすか、セットをどう配置するか、ライトをどこから当てるか理解しようとしている段階なのです。もし誰かが、VRにふさわしい物語をふさわしい手法で語れば、地殻変動が起きるでしょう。映画ビジネスはそうして動いてきたのです。映画制作者は、映画というメディアで物語を語る方法を学び始め、やがて映画的手法や特殊効果、編集手法が開発されました。こうしたことのすべてが、観客にどんな物語を見せようか、以前より挑戦的なことをしようとするとき、問題解決の糸口になったのです。
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