中国テック事情:ついに解禁、チャットGPT風AIを使ってみた
バイドゥのAIチャットボット「アーニー・ボット」がついに中国国内で一般向けに公開された。実際に使ってみると、チャットGPTなどの先行サービスに比べて、ユーザーを支援する工夫を随所に盛り込んでいることが分かる。 by Zeyi Yang2023.09.13
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
中国のチャットGPT(ChatGPT)風ボットが勢いを増している。
8月末に報じたとおり、バイドゥ(Baidu:百度)は中国規制当局の認可を受け、中国のテック企業として初めて、大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)を一般向けに公開した。その名は「アーニー・ボット(Ernie Bot:文心一言)」。それまでは別途アプリケーションが必要だったり、企業顧客のみに利用が限定されていた。このニュースについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してほしい。
中国の大衆が、予想以上に熱狂的な反応を示したことは認めざるを得ないだろう。バイドゥによると、アーニー・ボットのモバイル・アプリは、発表後19時間でユーザー数が100万人に達し、アーニー・ボットは24時間でユーザーからの3342万件以上の質問に回答したという。平均すると1分当たり2万3000件の質問に回答した計算になる。
それ以降、顔認識テック企業大手のセンスタイム(商湯科技)、スタートアップのZhipu AI(智譜AI)、Baichuan AI(百川智能)、MiniMaxの計4社が、LLMチャットボット製品を一般向けに公開した。アリババやアイフライテック(iFlytek:科大訊飛)といったベテラン企業は、まだ認可待ちの段階だ。
私もアーニー・ボットのアプリをダウンロードして試してみた。チャットGPTのような先行のアプリとどう違うのか知りたかったからだ。
最初に気づいたのは、アーニー・ボットがより懇切丁寧にサポートしてくれる点だ。チャットGPTの一般向けアプリやWebサイトが、単なるチャット欄しか持たないのとは対照的に、バイドゥのアプリには、新規ユーザーを取り込み興味を抱かせるように設計された、さまざまな機能がある。
アーニー・ボットのチャット欄の下には、「赤ちゃんの名前を考えて」や「業務報告書の作成」といったプロンプト(指示テキスト)の例がずらりと並んでいる。「発見(Discovery)」と名付けられたまた別のタブもあり、そこにはゲーム形式のチャレンジ(「給料を上げてくれるようAI上司を説得する」)やカスタマイズされたチャット・シナリオ(「私を褒めて」)など、事前選択済みの190種類以上のトピックが表示されている。
政府の一般公開許可が下りた今、中国AI企業にとっての大きな課題は、実際にユーザーを獲得し、興味を持たせ続ける必要があるということだろう。多くの人にとって、チャットボットは現在のところ目新しい存在だ。しかし、こうした目新しさは薄れゆくものであり、アプリ側はユーザーを引き留める別の動機を用意する必要がある。
バイドゥによる巧みな試みのひとつに、アプリ内にユーザーが生成したコンテンツを表示するタブを設けた点が挙げられる。コミュニティ・フォーラムでは、ほかのユーザーがアプリに質問した内容や、それに対する文章や画像による回答を確認できる。的確で楽しい回答もあれば、的外れなものもあるが、これが自分でもプロンプトを入力してみようとユーザーを触発し、回答の改善に取り組むきっかけになっているのが見て取れる。
私が注目したもうひとつの特徴は、アーニー・ボットがロールプレイングの導入を試みた点だろう。
「発見」タブのトップ・カテゴリのひとつは、チャットボットに事前訓練済みのペルソナで応答するよう求めるもので、たとえば秦の始皇帝のような歴史上の人物、イーロン・マスクのような存命中の有名人、アニメのキャラクター、架空の恋人などのペルソナを指定できる(マスクのボットに「あなたは何者なのか」と尋ねてみたところ、「私はイーロン・マスクです。情熱的で、集中力があり、行動的で、仕事中毒で、夢を追いかけ、怒りっぽく、傲慢で、辛辣で、頑固で、知的で、感情を表に出さず、目標意識が高く、ストレス耐性が強く、学習能力が高い人間です」と答えた)。
これらのペルソナは十分に訓練されているものとは思えず、「秦の始皇帝」も「イーロン・マスク」も、中国のAI開発事情といった真剣な質問についてコメントを求めると、すぐに人格が崩壊し、ウィキペディア風の当たり障りのない回答を返すようになった。
ただ、このアプリいわく、すでに14万人以上が使用している一番人気のペルソナは、「気配り上手なお姉さん」と呼ばれるものだ。「彼女」に自身がどんな人物かを尋ねると、優しくて、大人っぽくて、人の話を聞くのが得意な人だと答えた。誰が彼女のペルソナを訓練したのかと尋ねると、彼女は「心理学の専門家とAI開発者からなるグループ」によって「大量の言語データと感情データの分析に基づいて」訓練されたと答えた。
「私は、並のAIのように質問に対して機械的に答えることはしません。あなたの人生を、そしてあなたの感情が求めていることを心から気にかけることで、より思いやりあるサポートを提供します」とも語ってくれた。
私は中国のAI企業が、ユーザーを精神的に支援する機能を持ったAIをとりわけ好んでいることに気づいた。中国初のAIアシスタントのひとつであるシャオアイス(Xiaoice:小冰)は、ユーザーが完璧な恋人を作れるようにカスタマイズ可能にしたことで、その名を知らしめた。また別のスタートアップ企業であるタイムドメイン(Timedomain)は今年、AIによるボーイフレンド音声サービスを停止し、ユーザーに失恋の痛手を植え付けた。バイドゥは、アーニー・ボットを同様の用途で使えるように準備を進めているようだ。
このようなチャットボットの一分野がどう成長していくか、興味半分、不安半分で見守っていくつもりだ。私にとって、この分野はAIチャットボットで最も興味深い用途のひとつだ。しかし、それはコードを書いたり、数学の問題に答えるよりも難しいことでもある。ユーザーを精神的に支援し、人間のように振る舞い、常にキャラクターを演じ続けることをチャットボットに要求するのは、まったく異なる種類の処理が必要になる。そして、もし企業が実際にそれを実現できたとしたら、考慮すべきリスクはさらに増えるだろう。人間がAIとの間に本当に深い感情的なつながりを築いたら、一体何が起こるだろうか?
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中高年に人気のインフルエンサー、垢バンされる
中国のおばあちゃんたちに愛されるインフルエンサーが、ソーシャルメディアから追放された。安徽省亳州市出身の「シウツァイ(Xiucai:秀才)」を名乗る39歳の男性は、中国の田舎で照れくさそうに振る舞ったり、カメラに向かってさりげなくアピールしたり、古い歌を口パクで歌ったりといった動画を何百本もドウイン(Douyin:抖音)に投稿していた。若い世代は動画にドン引きしていたが、そのルックスとスタイルが中高年女性に受けた。わずか2年余りで1200万人以上のフォロワーを獲得し、うち70%以上が女性で、半数近くが50歳以上だった。5月には、72歳のファンがシウツァイに実際に会おうと、故郷まで1000マイル(約1600キロメートル)の距離を列車で単独移動したこともある。
だが最近、プラットフォームの規約に違反したとして、この男性はドウイン・アカウントを突如削除された。中国地元紙が報じた税務当局の話では、男性は脱税容疑で通報されたものの、捜査はまだ完了していないという。この男性が消え去ったことで、多くの若いソーシャルメディア・ユーザーがそのカルト的人気を知ることになった。ソーシャルメディアの使い方を覚え、依存する人まで出るようになったことで、中国のシルバー世代はコンテンツ制作者たちにとっても収益性の高いターゲットとなった。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。