この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
米国のメキシコ湾岸近くで育った私は、子どもの頃、ハリケーンで学校が休校になることが多かった。だからなのだろう。今は米国北東部に住んでいるのに、8月下旬になると、常にハリケーンに目を光らせている。今シーズンはこれまでのところ比較的穏やかだったが、イダリア(Idalia)と名付けられた嵐で状況は一変した。カテゴリー3のハリケーンが8月30日にフロリダ沿岸を直撃したのだ(また、珍しく予想外の展開でカリフォルニアを襲ったハリケーン・ヒラリー(Hilary)もある)。
これらの嵐が米国に接近するのを追跡しながら、私は気候変動とハリケーンの関連を深掘りすることに決めた。先日の記事で書いたように、これは考えている以上にはっきりしないものだ。しかし、記事の執筆を通じて、ハリケーンがどれほどの被害をもたらすかには、他にも多くの要因が影響していることも学んだ。以下に、ハリケーンに関する良いニュースと、悪いニュース、そして複雑な点を掘り下げてみよう。
良いニュース
「良いニュースは、ハリケーンの予報精度とハリケーンについての警報が改善されたことです」。ハリケーンの専門家でマサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授のケリー・エマニュエルは言う。このことについては数年前に、米国立気象局が採用した新しいスーパーコンピューターについての記事の中で書いた。
米国では、ハリケーン進路を予測する際の平均誤差が、2005年の約100マイル(160キロメートル)から2020年には65マイル(105キロメートル)にまで下がった。暴風雨の強さを予測するのはより難しいが、気象局が2021年に納入した2台の新しいスーパーコンピューターは、こうした予測を改善し続けるのにも役立つかもしれない。このコンピューターは最近、今年のハリケーンシーズンの気象局の予報モデルをアップグレードするのに使われた。
予報モデルを改善するために気象予報士が使用しているツールは、スーパー・コンピューターだけではない。同僚のメリッサ・ヘイッキラがこの夏に書いたように、一部の研究者は、人工知能(AI)が気象予報のスピードアップにつながると期待している。
予報は、嵐が直撃するまでに人々を危険な場所から遠ざけるための効果的なコミュニケーションと組み合わせる必要があり、多くの国が災害時のコミュニケーション方法を改善している。バングラデシュは世界で最も災害の多い国の1つだが、国の早期警報システムのおかげで異常気象による死者数は減少に転じている。
悪いニュース
「悪いニュースは、人々が海岸に集まっているため、以前よりも多くの人や家屋が暴風雨の進路に入っていることです」と、コロラド州立大学のハリケーン研究者で気象予報士のフィル・クロッツバッハ博士は言う。
フロリダの海岸線沿いの人口は過去60年間で倍増し、全国的な伸びを大きく上回る。この傾向は全国的なもので、米国の海岸沿いの郡の人口は、国内の他の地域よりも速いペースで増加している。
すでに複数の保険会社が、リスクの増加を理由にフロリダ州での事業を停止しており、今年のハリケーン・シーズンは、住民が保険に加入しにくくなるかもしれない。
また、災害による予想される被害は、さまざまな集団にさまざまな形で影響を与える。NPR(米国の非営利のラジオ・ネットワーク)の調査によると、米国全土で、白人や裕福な人々は、そうでない人々よりも災害後に連邦政府からの援助を受けやすいという。
複雑な点
気候変動は、ほとんどの異常気象に影響を与えている。しかし、ハリケーンと具体的にどのようなつながりを見い出せるだろうか。
いくつかの影響は、過去のデータでも気候モデルでもかなりよく実証されている。
気候変動の最も明確な影響の一つは、気温の上昇である。温暖化した海水はより多くのエネルギーをハリケーンに移送できるため、世界の海水温度がさらに高くなると、ハリケーンが大型化する可能性が高くなる。
暖かい空気はより多くの水分を保持できる(涼しい日と比べて、暑い日にどれほど空気が湿っているように感じられるか、考えてほしい)。空気がより暖かく湿っているということは、ハリケーン時に降水量が増加するということだ。そして、洪水は嵐の最悪の被害の一つだ。
また、海面水位の上昇により高潮はより深刻になり、沿岸の洪水はより一般的で危険なものになっている。
しかし、それほど明確ではないその他の影響や、未解決の問題もある。私にとって最も印象的なのは、毎年発生する暴風雨の数に気候変動がどのような影響を及ぼすかについて、研究者らの意見がまったく一致していないことだ。
気候変動とハリケーンについて分かっていること(そして分かっていないこと)についての詳細は、先日の記事をご覧いただきたい。
MITテクノロジーレビューの関連記事
予報は難しい仕事だが、スーパーコンピューターとAIは、科学者があらゆる種類の天候の予測精度を上げるのに役立っている。2021年の予報スーパーコンピューターに関する記事と、この夏のメリッサ・ヘイッキラ記者のAI予報に関する記事を確認いただきたい。
2021年に書いたように、洪水はハリケーンで最も死者を出す災害であり、各都市はそれに対処する準備ができていない。ニューヨーク市は2012年のハリケーン・サンディ(Sandy)の後、沿岸部の洪水対策に力を入れた。だが、ハリケーン・アイダ(Ida)には役に立たなかったことは、嵐の後の記事で書いたとおりだ。
ハリケーン・アイダの後は、数百万世帯が停電した。ジェームズ・テンプル編集者は、災害時に電力を維持することがいかに重要で困難であるか、記事を書いている。
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気候変動関連の最近の話題
- 熱波から山火事、洪水など、今年は異常気象の夏だった。猛烈な季節を総括する10のデータ・ビジュアライゼーションはこちら。(ワイアード)
- ウェストバージニア州の古い製鉄所跡地に、フォーム・エナジー(Form Energy)の新しいバッテリー製造施設が建設中だ。この工場は、この地域の低迷する経済の活性化に役立つかもしれない。(ガーディアン紙)
- 米国の電気自動車(EV)充電事情は複雑になっている。さまざまなプラグやケーブルについて知っておくべきことをひも解く記事だ。(ニューヨーク・タイムズ紙)
→ 多くの自動車メーカーがテスラ(Tesla)の充電規格に切り替えつつあるため、状況は変わりつつある。(MITテクノロジーレビュー) - メキシコ湾で初の洋上風力発電所建設計画では、3カ所中2カ所で入札がなく、かなり低調な結果となった。さえない結果によって、特にテキサス州で洋上風力発電が直面している課題が露呈した。(ガーディアン紙)
- 中国のある大手石油会社は、国内のガソリン需要が、これまでの予測よりも早い今年にピークに達すると予測している。電気自動車がガソリン需要減少の背景にある。(ブルームバーグ)
→ 「避けられないEVシフト」 は、2023年のブレークスルー・テクノロジー10に選ばれている。(MITテクノロジーレビュー) - バーモント州の小型バッテリー設備に対する主要な補助金プログラムが拡大している。(カナリー・メディア)