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温暖化でハリケーン被害は増えるのか? いま分かっていること
AP Photo/Rebecca Blackwell
Here’s what we know about hurricanes and climate change

温暖化でハリケーン被害は増えるのか? いま分かっていること

地球温暖化に関連付けられている異常気象はたくさんある。だが、ハリケーンの頻度や強度と地球温暖化の関係は、一般に考えられるよりも複雑だ。 by Casey Crownhart2023.09.01

今や、干ばつ、洪水、山火事といったあらゆる異常気象は、気候変動に関連付けることができる。

ハリケーンも例外ではない。科学者たちは、気温上昇が原因で、より強力かつ予測しづらい嵐が発生していることを突き止めた。これは懸念すべき事態だ。ハリケーンはすでに、世界中で最も致命的・破壊的な異常気象のひとつとなっているからだ。米国だけでも、2022年には3つのハリケーンがそれぞれ10億ドル以上の被害をもたらした。温暖化が進む世界では、その総額はもっと増えることが予想される。

しかし、気候変動とハリケーンの関係性は、大半の人々が思っているよりも複雑だ。大型ハリケーンの「イダリア(Idalia)」が米国のフロリダ沿岸を襲う中、嵐の今後について何が予想されるのか、分かっていることは以下の通りだ。

ハリケーンはより頻発するようになっているのか

過去よりもはるかに多くの嵐が発生しているように思えるが、実際のところは不明だ。

「歴史的記録は限られており、数十年以上前の信頼できるデータはほとんどないからです」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)のケリー・エマニュエル大気科学名誉教授は語る。そのため、熱帯サイクロン(地域によってハリケーン、サイクロン、台風などと呼ばれる嵐の総称)の発生頻度が時の経過とともにどう変化していくのか、結論を出すのは難しい。

エマニュエル名誉教授によると、北大西洋地域のデータが一番分かりやすく、そこでは確かに以前よりハリケーンの数が増えているようだという。しかし、世界的には過去数十年に熱帯サイクロンの総数が減っていることを示す研究もある

循環発生、つまり嵐が形成される状況は、時の経過とともに変化してきたのか、そして将来的には気候変動の影響を受けるのか。科学者たちの意見は割れている。パシフィック・ノースウェスト国立研究所の気候およびデータ科学者であるカルティク・バラグル博士によると、「気候変動による嵐の発生総数増加」を示す気候モデルもあれば、その逆を示すモデルもあるという。

ハリケーンは強大化しているのか

「世界的には、過去 40年の平均値をみるとハリケーンは強大化しています。気候変動について分かっている内容から判断すると、その傾向は今後も続く可能性が高いでしょう」と、エマニュエル名誉教授は言う。

研究者たちが1979 年から 2017 年までの衛星画像を調査した研究では、風速110マイル(時速177キロメートル)を超えると定義される「大型ハリケーン」に達する嵐の割合が増えていることが分かった。

嵐の強大化というこの傾向は、「海洋が温暖化すると、より強大なハリケーンが発生する」と予測したエマニュエル名誉教授ら気候科学者の1980 年代にまで遡った理論研究と一致する。水温が上昇すると、嵐への供給エネルギーが増え、結果として風速が増す。

気温が上昇すると「より深刻な異常気象の発生率も上がります」と、コロラド州立大学の大気科学者でありハリケーン予測の専門家でもあるフィル・クロッツバッハ博士は言う。

これは「北大西洋におけるハリケーンの発達速度が増している」という最近の研究結果と一致する。つまり、ハリケーンが温暖化した海上を通過すると風速が増すのだ。

この傾向は北大西洋で最も顕著だが、世界中に該当する可能性もある。最近の別の研究では、24時間以内に風速が時速104キロ以上に達するという「非常に急速に発達する嵐」の数が世界的に増えていることが分かった。

嵐が急速に強まると、とりわけ沿岸部では危険が増す。嵐に備えたり避難する時間が少ないためだ。

気候変動がハリケーンに及ぼすその他の影響

「気候変動による『複合的な影響』が、将来ハリケーンに影響を及ぼす可能性があります」と、バラグル博士は言う。

気候変動により海面が上昇し、深刻な高潮や沿岸部の洪水が発生しやすくなることで、被害が増えるだろうというのだ。さらに、空気は温まるとより多くの水を含むことが出来るようになるため、気候変動によって地球の気温が上昇するにつれて、嵐による雨が増えることになる。こういった要因が全て積み重なると、ハリケーンで洪水が発生する可能性は高まるだろう。

気候変動が将来嵐に及ぼす影響については、他にもあまり知られていない内容がある。2017 年にハリケーン・ハービー(Harvey )がヒューストンを襲った時のように、嵐が1カ所に停滞し、狭い範囲で集中豪雨が発生しやすくなっているのだ。バラグル博士によると、この影響も気候変動に関連付けている研究はあるが、他の影響のように確実な関連性は確認されていない。大気循環の地域的な変化は、どの地域が嵐にあう可能性が高いかにも影響する可能性がある。 

ハリケーンはますます強力かつ予測不能になりつつあるが、ここ数年でハリケーンの進路と強度の予測精度は向上している。スーパー・コンピューター人工知能(AI)の予測性能の向上により、当局は嵐をより正確に予測し、嵐に備える時間を増やせるだろう。しかし、今のところ得られた進化はそれだけだ。

「警告の質は向上しましたが、無限に向上し続けることは残念ながらできません」と、エマニュエル名誉教授は言う。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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