5000億ドルの資金が米国経済を動かし、気候テクノロジーを変革しようとしている。
米連邦政府による過去最大規模の気候変動対策である「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act)」が成立してから1年が経過した。同法では数千億ドルの予算を投じて、太陽光パネルやヒートポンプ、電気自動車(EV)用バッテリーに至るまでのさまざまな新技術と既存技術を支援する。その目的は、クリーンテクノロジーのコスト削減と、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量削減だ。
専門家によると、インフレ抑制法はすでに米経済全体にその影響を与え始めており、とりわけ顕著なのは、米国内での製造工場の新設を発表する企業が相次いでいることだという。しかし、同法で提供されるプログラムは10年以上継続するように作られているものが多いため、最も大きな効果が現れてくるのはまだ先のことだ。そもそも、同法の主要部分の実施方法について、まだ解決されていない課題がいくつかある。たとえば、どのようなプロジェクトが水素燃料の税額控除対象となるのかについては、激しい議論が繰り広げられている。
インフレ抑制法が成立して1年が経過した今、米国の気候テクノロジー政策がどのような状況にあるのか、そして今後注目すべき点について確認していこう。
これまでの 展開:民間企業が相次ぎ参入
インフレ抑制法には、エネルギー、運輸、農業などの産業を変革する数千億ドルの補助金、融資、税額控除が含まれている。この資金は開発のさまざまな段階にあるテクノロジーに投入され、新しい研究を支援すると同時に、すでに確立されたテクノロジーの製造や展開を支援していく。
2022年7月下旬にインフレ抑制法案の詳細が初めて報道されたとき、同法案に基づく気候変動対策資金の総額は3690億ドルと見積もられ、米国史上最大の気候テクノロジーへの投資になるとされた。2023年4月に両院合同租税委員会が発表した最新評価では、2023年から2032年までの政府によるインフレ抑制法への総投資額は5150億ドルと見積もられている。だが、この数字にはEV購入者に対する税額控除など、同法のプログラムがすべて含まれているわけではない。
予定されている数千億ドルの支出の財源のほとんどはまだ調達されておらず、そのすべての資金を世に送り出すのにはしばらく時間がかかるだろうと語るのは、政策研究非営利団体ロジウム・グループ( Rhodium Group)のエネルギー・気候部門副所長、ベン・キングだ。
税額控除の多くは、2023年の法人税申告後に適用が始まる。風力発電所や太陽光発電所のようなクリーン・エネルギー・プロジェクトを導入する企業に対する税額控除は推定300億ドル、太陽光パネルやEV用バッテリーのような機器を製造する企業に対する税制優遇措置は600億ドルなど、巨額の資金がこのカテゴリーに投じられる。
公共政策シンクタンクであるサード・ウェイ(Third Way)の気候・エネルギープログラム担当上級常駐研究員、エレン・ヒューズクロムウィックによると、企業に対する税額控除で米国でのビジネスがより有利になる可能性があり、結果として民間資金が刺激され、雇用が創出されるはずだという。
インフレ抑制法には、新工場建設のような大規模投資にかかる費用の一部を補助する税額控除と、バッテリーのような製品の生産を補助する税額控除の両方が含まれている。つまり、同法には、初期コストの低減を支援する条項もあれば、企業が生産する各製品の一定割合を負担することを約束する条項もある。
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