米国エネルギー省は8月11日、気候変動対策として、少なくとも年間100万トンの二酸化炭素を削減・貯留できる地域拠点の開発に12億ドルを拠出すると発表した。
この動きは、いわゆる直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)装置を使うことで、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを大気中から除去するための市場を確立する取り組みにおいて、大きな一歩となる。
最初の助成先に選ばれたのは2件のプロジェクトだ。
1つは、ブリティッシュコロンビア州スコーミッシュを拠点とする大手石油企業「オキシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)」がテキサス州クレバーグ郡で計画している二酸化炭素除去プロジェクト「サウス・テキサスDACハブ(South Texas DAC Hub)」。
もう1つは、オハイオ州の非営利研究機関「バテル記念研究所(Battelle Memorial Institute)」、スイスのスターアップ「クライムワークス(Climeworks)」、カリフォルニア州の直接空気回収開発企業「エアルーム(Heirloom)」がルイジアナ州南西部で開発を進めている共同事業「プロジェクト・サイプレスDACハブ(Project Cypress DAC Hub)」だ。
この2件に約11億ドルが配分され、さらに約1億ドルが19件の米国各地における初期段階のプロジェクトの実現可能性調査や、初期設計調査に充てられる。
今回の発表は、超党派によるインフラ法に基づき割り当てられた35億ドルの資金拠出の第一弾であり、少なくとも4地域の大気から直接二酸化炭素を回収をする拠点の設置を目的としている。二酸化炭素の除去・再利用を推進する非営利団体「カーボン180(Carbon180)」の試算によると、これらのプロジェクト全体で、世界の二酸化炭素除去能力は400倍になる可能性があるという。
「直接空気回収テクノロジーを大規模に導入すれば、私たちが掲げる二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標に向けて大きく前進することができます。同時にクリーン・エネルギーの導入をより幅広く展開することに注力していきます」。エネルギー省のジェニファー・グランホルム長官は、8月10日の記者団との電話会見でこのように述べ、プログラムの詳細を明らかにした。
しかし、オキシデンタル・ペトロリアムが選ばれたことで、物議を醸すことになりそうだ。同社のヴィッキー・ホルブ最高経営責任者(CEO)は、3月に開催された石油・ガス関連の会議において、直接空気回収テクノロジーは「我々の産業を長期的に維持する」ことにつながるものだと述べた。二酸化炭素除去により石油・ガス企業がこの先何十年と事業を継続するのに必要な社会的免罪符を得たと示唆したこの発言は、環境保護団体の間での懸念を強めた。
根本的なバランス
一般的に、直接空気回収施設は、大型のファンで周囲の空気を取り込み、液体溶媒や固体吸着剤を使って二酸化炭素分子を回収する。発電所や産業施設からの排出を防ぐ二酸化炭素回収テクノロジーとは異なるが、しばしば混同される技術だ。
地球温暖化の原因となる二酸化炭素を世界中が大気中に放出していることを踏まえると、気候変動を食い止めるには各国が年間数十億トンの二酸化炭素を削減する必要があるという研究結果が相次いで報告されている。しかも、温室効果ガスの排出量を徹底的に削減した上でだ。
世界がどのくらい排出量を削減する必要があるのかは、今後世界がどれだけ排出量を増やしていくのか、そして気候がどのように反応するかにかかっている。しかし、複数の試算によると、地球温暖化を2℃未満に抑えるには、今世紀半ばまでに世界全体で年間100億トンを削減する必要があるとされる。
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