オースティン・バーグストロム国際空港(テキサス州オースティン)から宿泊場所までの移動に、ウーバーやリフトは使えない。2大配車サービスはオースティンで営業してないのだ。オースティンは、ウーバーやリフトが配車サービスを営業していない市場として、米国有数の規模がある。ターミナルに到着した旅行者は、ファスン(Fasten)やフェア(Fare)、ウィングズ(Wingz)、ゲットミー(GetMe)、ライド・オースティン(Ride Austin)といった無名ブランドの広告を探して、配車アプリのインストールから始めなくてはならない。
ウーバーとリフトが2016年5月にオースティンから撤退したのは「プロビジョン1(1号議案)」の住民投票(犯罪歴の確認のため、タクシー会社にドライバーの指紋提出を義務づける市条例の撤廃を目指した)の成立を目指し、オースティン史上最大規模の政治闘争に820万ドルを投入して失敗した後のことだ。住民投票が成立すれば指紋提出義務が廃止され、ウーバーとリフトが設立した政治行動委員会の定める規則に入れ替わるはずだった。しかし住民投票は11ポイント以上の票差で否決。条例が廃止されなければオースティンでの事業は存続できないと宣言したウーバーとリフトは、その後36時間以内にオースティンでの事業を停止した。
住民投票には、2013年に投票された同様の特別選挙よりも16万人多い、約58万7000人が投票した。しかし住民投票の結果は、二極化しつつあったオースティン市民に亀裂をもたらした。アメリカで最も成長しているオースティンには、急成長を遂げるハイテク企業の文化があり、市の国際的評価と生活費の両方を高めている。家賃と財産税は過去最高になり「わが道を行くオースティン」を掲げる政治的リベラル派の市民とハイテク業界の新住民間で緊張が高まっているのだ。
オースティン市議会の主流派(組合や地元住民、環境団体、オースティン・クロニクル紙等)は住民投票に反対だった。支持を表明したのはトラビス郡共和党とオースティン不動産協議会のわずか2団体だ。
投票までの数週間、オースティン市民の自宅ポストは、ウーバーとリフトの資金で作られたピカピカの郵便物で一杯になった。住民投票に反対すればどうなるか警告し、2社の提案のメリットを説明していた。さらに気鋭の政治活動家を採用し、テレビやラジオを広告漬けにし、ついにはテレビドラマ『プライド 栄光への絆』に主演して脚光を浴びた地元在住の俳優テイラー・キッチュを起用し、配車サービスのメリットを説明する広告まで流した。テキサス大学のキャンパスをキッチュが訪問し、記念写真を撮ったり、ファンに賛成票を呼びかけたりさせた。
しかし、住民投票に賛成する意義を感じた人はいなかった。むしろ宣伝攻勢により、よそ者が、自分は街の規則に縛られないと考え、オースティンを脅していると人 …