トヨタの自動運転「守護天使」の概念はどこが優れているのか?
トヨタは、自動運転システムを「守護天使」の概念に基づいて開発しようとしている。完全自律運転よりも早期の実用化が期待でき、機械単独よりも事故を防止できる確率が高くなる、優れたアイデアだ。 by Tom Simonite2017.03.08
対向車線を横切るのは、ドライバーによる毎日の運転でもかなり危険を伴う操作のひとつだ。トヨタの研究者は、自動車が危険な状況にあるとき、自動車内蔵の守護天使(ガーディアン・エンジェル)ソフトウェアが命を救えると考えている。
トヨタは、米国にある自社専用試験場で、人間が危険なミスを犯しているかを判断する「ガーディアン」と呼ばれるシステムの概念を実証するために、左折(米国で対向車線を横切る運転操作、日本いえば右折)等の危険シナリオから実証した。
車外に設置したレーダー等のセンサーが車両周辺の状況を監視し、車内のカメラはドライバーの頭の動きや視線を追跡する。ソフトウェアは、センサーのデータにより、人間にいつ危険な状況だと気付かせるか、回避させるか、あるいは放っておくのかを算出する。
現時点でトヨタは、車に差し迫る危険や、人間のドライバーが危険を察知しているか、ソフトウェアが理解できるのかを試験しているだけだ。しかしトヨタは、最終的には、人間が危険に対処しそうにないとき、守護天使を発動させ、危険を回避させるつもりでいる。
トヨタ研究所(TRI、2015年にロボット工学と自動運転を研究するために設立されたトヨタの子会社、“Toyota’s Billion Dollar Bet”参照)のライアン・ユースティス副社長(自律運転担当)は「交差点を直進する場合を考えてみましょう。真横から衝突されそうなとき、自動車が取るべき行動は、事故を避けるためドライバーにアクセルをふませることです」という。TRIは設立時に、守護天使を開発することから始める、と宣言していた(「トヨタ、自動運転で「守護天使」を開発中」参照)。
ユースティス副社長の主張によれば、守護天使の研究は人間が自動車を運転しなくてもよくなる時代が到来するよりも早く、交通行政や自動車事故の捜査・救命活動に多大な影響を与えるはずだ。トヨタはこの種のテクノロジーをアルファベットやフォード、ウーバー等の競合他社とともに開発しているが、衆目を集める試験プログラムが公道で実施されているとはいえ、ユースティス副社長も同業他社の同様の立場の人物も、本当の無人運転車が一般的に利用可能になるまでにはまだ数年はかかるし、当初は無人運転の走行が認められる道路も地域も限定的だと考えている。
完全自律型の自動車とは異なり、守護天使ソフトの実現には自動運転用の詳細地図は不要だし、市販されている従来型の自動車にも簡単に搭載できるため、ユースティス副社長はバックシート・ドライバー(ドライバーの後ろから運転について指図する人のことで、通常は邪魔な人を指す)の手法について「弊社は、早めに幅広く展開することで有利になると考えています」という。
カリフォルニア大学バークレー校のスティーブン・スラドーバー研究員は、守護天使が完全自律自動車よりも早く命を救える話はその通りだ、という。「もしドライバーも自動化システムも99%の確率で危険を察知できれば、ドライバーとシステムを組み合わせることで、事故を99.99%の確率で防止できます。単独で事故を99.99%防止できる完全自動化システムを設計するよりも、ずっとシンプルで簡単なのです」
ただし、守護天使と人間はいい関係になることが重要だ。人間が状況を正しく把握しているのに、ソフトウェアが介入したり警告を出したりすれば、人間はシステムを信頼しなくなり、起こさなくても済んだはずの事故につながる可能性さえある、とスラドーバー研究員はいう。
ユースティス副社長は、そうした課題があることをトヨタはよく理解しており「人間がテクノロジーをどう受容するのか、多くの研究が必要なのです 」という。ユースティス副社長は、システムが道路上の出来事や運転についてドライバーと会話することで、システムの中味を透明化する、といったアイデアを検討している。
「自動車が運転に介入した場合、ドライバーに介入理由を説明することが重要です。あるいは危険な状況が去ってから『あのう、さっきは介入しませんでしたけど、実は危機一髪でしたよ』と伝えるのです」
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- MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。