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需要急増のバッテリー、原材料で今何が起きているか?
John Moore/Getty Images
Want to know where batteries are going? Look at their ingredients. 

需要急増のバッテリー、原材料で今何が起きているか?

気候変動問題の今後を見通すうえで、電池(バッテリー)の果たす役割は極めて大きい。リチウムイオン電池の需要が急増する中、原材料の不足が問題となっており、新たなイノベーションが必要となるだろう。 by Casey Crownhart2023.07.27

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

気候変動に対処する上で何より重要なテクノロジーは何か? 最近、あるグループとチャットをして、そんな話をした。本気で課題に取り組むならばいくつものテクノロジーが必要になるのはもちろんなのだが、その上で、私自身が1つ選ぶのであれば、電池(バッテリー)になるだろう。

本誌では電池についての記事をいくつも掲載しているので、驚くべきことではないかもしれない。電池の動向について読みたいなら、たとえばこの記事この記事、そしてこの記事から読み始めるのがいいだろう。

電池は今後、輸送のあり方を変えていき、風力や太陽光での発電ができない時に備え、再生可能エネルギーを貯蔵しておく鍵にもなる。エネルギーと輸送は排出量が最も多い業界だが、ある意味で電池は、両方の業界における中核テクノロジーといえる。

電池の今後を理解するためには、原材料の動向に目を向ける必要がある。国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)はつい最近、電池に関連する重要な鉱物の現状に関する新たな報告書を発表した。報告書には電池に関する興味深い情報も含まれている。そこでこの記事では、電池の原材料に関するいくつかのデータについて掘り下げることにしよう。 

電池の原材料に今何が起こっているのか?

ご存知のとおり、電気自動車(EV)の販売は急成長している。IEAによれば、2022年の世界の新車販売台数の14%をEVが占めており、2023年には18%に達するとみられる。MITテクノロジーレビューが2023年のブレークスルーテクノロジーの一つに「避けられないEVシフト」を挙げた理由のひとつには、このような世界的成長もある。

安定した市場拡大に加えて、世界中でEV用バッテリーが大型化しているという事実もある。確かにその通り。自動車の車体が大きいことで悪名高い米国以外でもそうなのだ。米国は今でもバッテリー平均容量が世界で一番大きいが、バッテリーサイズの大型化は世界各地で起こっている現象であり、近年ではアジアや欧州でも米国並みかそれ以上のペースで進んでいる。

EV需要の増加、世界的なバッテリー容量の増加、そして送電網用の蓄電池として使えるという役割まで合わせて考えると、電池製造に必要な原材料の需要が間もなく激増することは明らかだ。 

現在のリチウムイオン電池の主要な原材料の1つであるリチウムについて見てみよう。排出量実質ゼロの実現に必要なだけのEVを製造しようとするなら、今から2040年までの間にリチウム需要はおよそ10倍に増加する。リチウムは特に上げ幅の大きい例だが、銅やニッケルなどその他の金属も今後数十年で需要増が見込まれる(ここからアクセスできるIEAのデータ検索機能を使えば自分でチェックできる)。

こちらの記事に書いたとおり、再生可能エネルギーを作り出すために必要な原材料が枯渇することはないだろう。電池については比較的厳しい状況になるかもしれないが、全体で見れば、必要な量の電池を製造するのに十分な資源が地球上にあるというのが専門家の意見だ。また、電池のリサイクルが推進されていけば、やがては古い電池から安定して原材料を得られるようになるはずだ。

しかし、原材料の需要が劇的に増加したことで電池市場に及ぶ短期的な影響はすでに現れ始めている。最近では、電池メーカーが直近の需要を満たすべく奮闘している影響で、リチウムを含む一部の金属の価格が高騰している。これにより、リチウムイオン電池の価格は昨年初めて上昇した

これらの意味することとは? 

需要は大幅に増加しただけでなく今後も増え続けていく。長期的に見れば十分な原材料はあるものの、短期的には精製済・処理済の電池原材料の奪い合いが起こる可能性がある。電池を取り巻く状況はこうした影響を受けて変化していく。そして、今後はいくつかの展開が考えられる。

まず、自動車メーカーはバッテリー製造に必要な原材料への関与を深めていくだろう。自動車メーカーのビジネスは製品の原材料を安定して得られるかどうかにかかっているため、すでに各社は供給確保に動き出している。

2023年現在、世界のEVメーカートップ10のうち、8社が原材料確保を目的とした何らかの長期取引契約を締結している。5社は採掘に投資し、精錬に投資している企業も5社ある。これらの契約はほぼすべて、2021年以降に結ばれたものだ。

供給面の制約は電池の新たなイノベーションも促進していくことだろう。

その始まりを私たちはすでに目にしている。コバルトは長年にわたってリチウムイオン電池のカソード(正極)製造に欠かせない原材料だった。だがコバルト採掘はそのかなりの部分が強制労働や児童労働と結びついており、厳しい視線が注がれるようになった。

近年になって大手テック企業やEVメーカーは、責任を持って採掘されたコバルトのみを使うという誓約を立てるようになった。同時にバッテリーメーカーもコスト削減の一環として、コバルトの含有が少ない化学物質や、コバルトを一切使わない製造方法に切り替え始めた。

リン酸鉄リチウムイオン電池はコバルトを一切含まない。EVバッテリーにおけるそのシェアはごくわずかだったが、わずか数年で市場の30%を占めるまでに拡大した。コバルト使用量の少ない電池もまた2019年以降勢いを増している。

こうした原材料面の制約が一因となって、目をみはるような新型電池がこれからも現れ続けると私は考えている。たとえば鉄ベースの電池は送電網用蓄電池として大きな役割を果たしうる。また近いうちにナトリウムベースの電池が安価なEVに使われることが増えてくるかもしれない。

気候に関するテクノロジーはどれも等しく重要だと私は考える。ただ私は、電池を取り巻く状況にはいつでも熱心な視線を注いでいる。なので、電池の未来を形作る上で原材料が果たす重要な役割について、さらなる情報を楽しみに待っていてほしい。その間に、最近の話題に関する記事にもぜひ目を通してみてほしい。

MITテクノロジーレビューの関連記事

私は1月に、EV向けのバッテリーが今年どうなるかについての記事を書いた。これまでのところ、かなり予想通りになっている。

2月の記事で書いたように、リン酸鉄リチウム電池は、EVの価格を大幅に下げる助けになりうる。

私は気候関連のテクノロジーと原材料にまつわる伝説を数多く見てきた。そして2月の初めの記事で、そのいくつかを打ち破った。 

気候関連の最新の話題

  • 米国、中国、そして欧州で記録的熱波。ニューヨーク・タイムズ紙
    →2021年の記事で、極端な高温下での人体の限界について紹介している。(MITテクノロジレービュー
  • 暑さといえば、科学者グループがひときわ白い塗料を開発した。太陽光の約98%を反射できるものだ。これを使えば建物を涼しく保てるかもしれない。ニューヨーク・タイムズ紙
  • 多くの核融合炉にとって最重要となる部品は磁石だ。コモンウェルス・フュージョン・システムズ(Commonwealth Fusion Systems)はトカマク式核融合炉内部で使うための超伝導テープを開発している。その役割について詳しく述べた素晴らしい記事がある。(IEEEスペクトラム
  • ディアブロ・キャニオン(Diablo Canyon)発電所はカリフォルニア州最後の原子力発電所であり、突出した発電量で同州最大の電力供給源となっている。同発電所は2025年の運転停止が予定されている。ただ、予定通りに運転が停止されるかどうかは未定だ。(ロサンゼルス・タイムズ紙
  • 複数の石油企業が二酸化炭素除去への取り組みを始めている。石油企業が関与することで、排出量削減における二酸化炭素除去テクノロジーの立場が複雑になってしまう可能性が生じた。(E&Eニュース
  • バイデン政権は「クライメート・スマート」な作物に多額の投資をしている。これによって、大気中からこれまでより多くの炭素を回収して貯蔵できるようになるかもしれない。しかし批判的な人は、この計画の有効性を判断するには不透明な部分が多く測定も不十分なのではないかと懸念を抱いている。(イェール E360
  • 汚染の激しいディーゼル発電機をバッテリーに置き換えようとしている企業がある。カナリー・メディア
  • 一部のeバイクに搭載されている低品質のバッテリーは時として危険であり、ここ数カ月の間にニューヨーク市で複数件の火災が起こっている。このようなeバイクに頼るフードデリバリー業界の働き手は、彼らに仕事を斡旋しているウーバー(Uber)やドアダッシュ(DoorDash)などのアプリを利用して危険を避けられるかもしれない。(テッククランチ
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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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