KADOKAWA Technology Review
×
【3/14東京開催】若手研究者のキャリアを語り合う無料イベント 参加者募集中
The World’s Largest Shipping Company Trials Blockchain to Track Cargo

世界最大の海運企業マースク、ブロックチェーンで貨物を追跡中

ブロックチェーンでコンテナ輸送の書類仕事を簡素にできないか、世界最大の海運企業マースクがIBMと協業で実証している。IBMはさまざまな業種でブロックチェーンの導入を進めており、ブロックチェーンのビットコイン以外の活用例が広がっている。 by Jamie Condliffe2017.03.07

世界中で数百万個の巨大コンテナを移動させるのは大変な仕事だが、関連する書類を回覧させるのはもっと大変だ。そこで、世界最大の海運企業A.P. モラー・マースクはビットコイン有名なだけで影響力は大したことの無い暗号通貨)を支えるデジタル・テクノロジーを活用して、書類作成に関わる業務を簡素化できないか試している。

ビットコインの基礎はデジタル取引台帳の「ブロックチェーン」だ。台帳に記録される各取引は、前回の取引を基に暗号化して記録されるため、ある取引を事後に改変することはほぼ不可能だ。ブロックチェーンは中央コンピュータに保存されるのではなく、複数のユーザーが個々の取引データである「ブロック」が正確だと合意することで、世界中に分散して保存される。したがって、ブロックチェーンの正確さを保つことは、全てのユーザーの利益になる。つまりブロックチェーンは金融取引の記録にふさわしく、他の多くのことの記録にも適合する。

マースクは、海上を移動する貨物の追跡にブロックチェーンを活用できないか、IBMと協力して実証中だと発表した。ただし、マースクが追跡するのは金属製のコンテナそのものではく、中味のほうだ。マースクによると、ひとつのコンテナを東アフリカからヨーロッパに輸送するには、立場の異なる30人が書類作成に関わる必要があり、200回も書類をやり取りすることになるという。

そこでマースクは、IBMとブロックチェーンに基づくツールを開発し、サプライチェーン各所の関係者が、貨物の現在位置や記録状況など、輸送の進行状況を確認できるようにした。目標は、荷主による書類作成の負担軽減と、税関職員や顧客が貨物の現在位置を常に把握できるようにすることだ。すでに、ロッテルダム港(オランダ)に出荷されるケニアの花、カリフォルニア州から出荷されるマンダリン・オレンジ(ミカンの一種)、コロンビアから出荷されるパイナップルが、このツールで追跡されている。

貨物の追跡にブロックチェーンを使うのはマースクだけではない。IBMのブロックチェーン事業を紹介するニューヨークタイムズ紙の長い記事によれば、同社はブロックチェーンをさまざまな状況に適用するため、400社と協業している。ウォルマートもその一社で、安全衛生基準を向上させるため、農産物の産地情報の表示と記録にブロックチェーンを使っていると昨年発表した

IBMは明らかに、ブロックチェーンの一大勢力としての支配力を誇示したがっているが、他社も負けていない。実際、マイクロソフトもブロックチェーンに関わっているし、ブロックチェーンのオープンな性質により、企業金融向けの暗号通貨システムの構築からプライバシーを重視したインターネットの創設まで、ブロックチェーンを使ったより小規模な実証実験がすでに多く実施されている。ブロックチェーンはビットコイン用に作られたテクノロジーだが、その応用範囲はビットコイン以外に拡大しているのは明らかだ。

(関連記事:New York Times, “Why Bitcoin Could Be Much More Than a Currency,” “イングランド銀行が作らせたビットコイン風のデジタル通貨,” “マイクロソフトはなぜブロックチェーンに投資するのか?”)

人気の記事ランキング
  1. AI crawler wars threaten to make the web more closed for everyone 失われるWebの多様性——AIクローラー戦争が始まった
  2. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 好評につき第2弾!研究者のキャリアを考える無料イベント【3/14】
  3. From COBOL to chaos: Elon Musk, DOGE, and the Evil Housekeeper Problem 米「DOGE暴走」、政府システムの脆弱性浮き彫りに
  4. What a major battery fire means for the future of energy storage 米大規模バッテリー火災、高まる安全性への懸念
  5. A new Microsoft chip could lead to more stable quantum computers マイクロソフト、初の「トポロジカル量子チップ」 安定性に強み
タグ
クレジット Photograph by Loic Venance | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
▼Promotion
U35イノベーターと考える 研究者のキャリア戦略 vol.2
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る