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中国テック事情:激化する米中半導体戦争、今後の展開は?
Stephanie Arnett/MITTR | Getty
The US-China chip war is still escalating

中国テック事情:激化する米中半導体戦争、今後の展開は?

ハイテク技術を巡る米中の争いは激化する一方だ。米国やその同盟国による半導体に関する輸出規制が続く中で、中国が報復措置としてゲルマニウムとガリウムの輸出規制を始めるなど、争いが解決する兆しは見えない。 by Zeyi Yang2023.07.25

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

米中テック摩擦は過熱する一方だ。

7月上旬、中国商務部は、コンピューターチップや光ファイバー、太陽電池、その他のハイテク機器の製造に使用される2つの元素、ガリウムとゲルマニウムに関して、新たな輸出許可制度を発表した。

ほとんどの専門家は、この動きを、西側の半導体技術封鎖に対する中国の最も重要な報復と見ている。2022年10月に米国が、最先端チップとそれを製造する能力のある装置について、中国への輸出を制限したことにより、このような報復の動きが大きく広がった。

中国は今年に入って、対抗措置としてレイセオン(Raytheon)とロッキード・マーチン(Lockheed Martin)を「信頼できない」企業リストに登録すると共に、国内企業が米国企業マイクロン(Micron)からチップを購入することを禁止した。しかし、それらの動きのいずれも、ガリウムとゲルマニウムの輸出規制がもたらす世界的な影響には及ばない。中国は、これら2つの原材料の供給を締めつけることによって、欧米のテクノロジーシステムを苦境に陥れ、中国への規制措置を見直すよう、他国に迫れることを示しているのだ。

しかし、私が7月10日の記事で伝えたように、中国の新たな輸出規制は、長期的には大した影響がないかもしれない。「他の市場でも入手可能なテクノロジーの場合、輸出規制はあまり効果的ではありません」と、インディアナ大学ブルーミントン校で国際的な研究に携わるサラ・バウアーレ・ダンツマン准教授は話す。ガリウムとゲルマニウムの生産は非常に成熟した技術なので、他国の鉱山が生産を拡大するのは、それほど難しいことではない。ただし、それには、時間、投資、政策的インセンティブ、そしておそらく生産プロセスをより環境に優しいものにするための技術改良が必要になるだろう。

では、現在はどのような状況なのか? 2023年も半ば過ぎ、これまでに米国当局からアントニー・ブリンケンやジャネット・イエレンが中国を訪問するなど、米中関係の緊張緩和を示す外交的なイベントがいくつかあった。しかしそれでも、テクノロジーの最前線では、緊張関係が悪化する一方である。

米国が2022年10月にチップ関連の輸出制限を導入したとき、それがどれくらいの影響を及ぼすのか、はっきりとは分からなかった。米国が半導体サプライチェーン全体をコントロールしているわけではないからだ。アナリストたちによれば、解決されていない最大の問題の1つは、米国が同盟国を説得し、どれくらい封鎖措置に参加させることできるかということだ。

現在、米国は主要な関係国を仲間に引き入れることに成功している。5月には日本が、さまざまなチップ製造工程で使用される23種類の機器の輸出を制限すると発表した。それは、当初のアメリカの規制よりもさらに踏み込んだものだった。米国が輸出を制限したのは、14ナノメートル世代以降の最先端チップを製造するツールである。日本の規制は、最新型ではないより古い世代のチップ(45ナノメートルレベル)にまで及ぶもので、自動車などの日常製品に使われる基本的なチップの生産にも影響が出るのではないかと、中国の半導体業界は心配した

6月末にはオランダが後に続き、チップのパターニングに使われる深紫外線(DUV)リソグラフィー装置の中国への輸出を制限すると発表した。これは、2019年から最先端の極紫外線(EUV)リソグラフィー装置の輸出のみを制限していた、従来の規則を強化するものでもある。

このような規制の拡大に刺激された中国が、敵のやり方を手本にして、ガリウムとゲルマニウムの規制導入に踏み切ったものと思われる。

イエレンらの訪中は、中国と米国主導のテック封鎖の報復措置の応酬が、すぐには終わらないことを示している。イエレンも中国の首脳たちも、会談の際に相手側の輸出規制について懸念を表明したが、緩和に関する発言はどちらからも一切なかった。

近日中にもっと攻撃的な措置がとられるようなことがあれば、このテクノロジー戦争は半導体分野を越えて拡大し、バッテリー技術なども巻き込んでいくことになるかもしれない。7月10日の記事で説明したように、そうなった場合は中国の方が有利になるだろう。

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ロスト・イン・トランスレーション

7月5日、香港の有名歌手ココ・リーが自殺した。ここ数年間、うつ病で闘病中だった。この悲劇的な事件は、中国では利用できないことが多いうつ病治療の重要性を、改めて浮き彫りにした。中国メディア『新快報』が報じたように、中国でうつ病と診断された患者のうち、何らかの医療を受けている者は10%にも満たない。

しかし、近年、欧米ブランドの有名なうつ病治療薬の特許がいくつか切れたため、中国の製薬会社は、現地でジェネリック代替品の生産を強化してきた。また、国産治療薬の開発競争も熾烈である。2022年11月には中国初の国産うつ病治療薬の販売が承認され、この産業の新時代を切り開いた。現在はさらに17の国産治療薬の臨床試験が実施されている。

あともう1つ

米国の著名人が中国を訪れるたびに、中国のソーシャルメディアはいつもあることに注目する。彼らが食べたものだ。どうやら、ジャネット・イエレンは、中国南西部の国境付近で採れる野生のキノコがお気に入りのようだ。彼女の訪中グループは、1回の夕食で4度もこのキノコを注文した。中国では「ジャン・ショウ・チン」と呼ばれるこのキノコは、適切に調理しないと幻覚作用があることでも知られている。クォーツ(Quartz)によると、このレストランは現在、イエレンがディナーで選んだメニューをセットにして「ゴッド・オブ・マネー」というメニュー名で提供し、儲けている。

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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