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どうなる米国のAI規制、押さえておきたい3つの視点
Sarah Rogers/MITTR | Getty
Three things to know about how the US Congress might regulate AI

どうなる米国のAI規制、押さえておきたい3つの視点

米国議会においてAIを規制しようとする動きが活発になっている。そうした動きは多岐にわたっているが、すべての話に共通する3つの重要な主題がある。 by Tate Ryan-Mosley2023.07.11

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

チャック・シューマー上院多数党院内総務(ニューヨーク州選出の民主党議員)は6月21日、ワシントンD.C.での講演で、人工知能(AI)政策立案のための大戦略を発表した。同戦略は米国テクノロジー政策の新時代を導く可能性がある。シューマー議員はAI規制のためのいくつかの重要な原則を概説し、連邦議会は新たな法律を迅速に導入すべきだと主張した。

シューマー議員の計画は、より小規模な他の多くの政策行動の集大成である。6月14日、ジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州選出の共和党員)とリチャード・ブルメンタール上院議員(コネチカット州選出の民主党員)は、(ユーザーが作成したコンテンツに対する責任からオンライン・プラットフォームを保護する法律である)米国通信品位法第230条から生成AI(ジェネレーティブAI)を除外する法案を提出した。6月22日には、下院科学委員会がAI企業数社を招き、AIテクノロジーと、それがもたらすさまざまなリスクおよびメリットについて質問した。下院民主党のテッド・リュー議員とアンナ・エシュー議員は共和党のケン・バック議員と共に、AI政策を管理するため国家AI委員会を設置することを提案した。上院の超党派議員グループは、特に中国との競争を促す目的で、連邦局の創設を提案している。

このような活発な動きは注目に値するが、米国の立法者たちは実際のところ、AI政策に関してゼロから始めているわけではない。「多くの省庁が、AI政策の特定の一部分に対して個別に取り組みを進めています。その大部分は、以前から存在する問題をいくらか拡大した範囲内に収まるものです」と、ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のアレックス・エングラー特別研究員は言う。連邦取引委員会(FTC)商務省米国著作権局などの個々の政府機関は、ここ半年の熱狂に対してすばやい対応を見せ、特に生成AIに関する政策綱領、ガイドライン、警告を発表してきた。

もちろん、議会に関しては、話されていることが実行されるかどうか、実際のところわからない。しかし、AIに関する米国議員たちの考えは、いくつかの新たな原則を反映している。この記事では、それらすべての話に共通する3つの重要な主題を紹介する。どれも、米国のAI立法がどのようなものになる可能性があるか理解するために、知っておくべきものだ。

1. 米国にはシリコンバレーがあり、イノベーションの保護に対する誇りがある

最大手のAI企業の多くは米国企業であり、議会が人々やEU(欧州連合)にそのことを忘れさせることはない。シューマー議員は、イノベーションを米国のAI戦略の「北極星」と呼ぶ。つまり、規制当局はおそらく、テック企業の最高経営責任者(CEO)たちを呼び集め、彼らが望む規制方法を尋ねることになるだろうということだ。ここで興味深くなるのは、テック系ロビー団体がどのような働きを見せるかということである。こうした類の言説は、EUの最新の規制に対応して生まれたものだ。それらの規制については、一部のテック企業や反対派から、イノベーションを阻害することになるとの声が上がっている。

2.テクノロジー、特にAIは「民主主義的価値観」に沿ったものでなければならない

シューマー議員やバイデン大統領らは、そのように話している。この言葉の根底にあるのは、米国のAI企業は中国のAI企業とは異なるということだ(中国の新たなガイドラインは、生成AIが作り出すアウトプットは「共産主義的価値観」を反映していなければならないと義務付けている)。米国は、中国のテック業界に対する既存の優位性を維持する形でAI規制をパッケージ化しようとしている。同時に、AIシステムを動かすチップの生産と管理を強化し、激化している貿易戦争を続けようともしている。

3.一大疑問:通信品位法第230条は改正されるか

米国のAI規制に関するまだ答えの出ていない大きな疑問は、第230条が改正されるのかどうかということだ。第230条は、1990年代に制定された米国のインターネット法であり、プラットフォーム上のコンテンツをめぐる提訴からテック企業を守っている。しかし、AIが生成したコンテンツに対しても、テック企業は同じように「免罪符」を持つべきなのだろうか? これは大きな問題である。テック企業はAIが作成したテキストや画像を特定し、ラベル付けする必要が出てくるだろう。最高裁判所が最近、第230条に関する裁定を拒否したことを考えると、この件は押し戻され、現在は議会で議論されている可能性が高い。第230条を改正すべきかどうか、またどのように改正すべきか、議員たちが決定を下せば、その時はAIの状況に大きな影響が及ぶ可能性がある。

それで、これからどうなるのか? 短期的にはどうにもならないだろう。政治家たちが夏休みに入るためだ。しかし、シューマー議員はこの秋にも、AIの特定の側面について検討するため、議会で招待制の討論グループを立ち上げる計画だ。

一方、エングラー研究員は、感情分析や顔認識など、AIの特定の応用の禁止について、EUの規制の一部と同じような議論がいくつか起こるかもしれないと言う。議員たちは、包括的なテクノロジー規制法に関する既存の提案、例えば「アルゴリズム説明責任法」を復活させようとするかもしれない。

現在のところ、注目されているのは、シューマー議員が振り下ろす「大なた」だ。「非常に包括的なものを考案し、非常にすばやく実行することを考えています。かなりの注目を浴びることになると期待しています」と、エングラー研究員は言う。

テック政策関連の気になるニュース

誰もが「バイデノミクス」の話をしている。現米大統領独自の経済政策のことだ。テクノロジーはバイデノミクスの中核であり、何十億ドルもの資金が次々とテック産業に注ぎ込まれている。それによって現場では何が起こっているのか。ニューヨーク州シラキュースに建設予定の新たな半導体工場に関するアトランティック(Atlantic)誌の記事は、読んでおく価値がある。

AI検知ツールが、ネット上のテキストや画像の作成者がAIか人間か、識別しようとしている。しかし、1つ問題がある。あまり上手く機能しないのだ。ニューヨーク・タイムズ紙の記者たちが、さまざまなツールをいじり回し、性能に応じてランク付けした。記者らの発見が、ハッとさせられる読み物になっている。

グーグルの広告ビジネスにとって厳しい1週間になっている。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙が発表した新たな調査報告で、グーグルの広告出稿の約80%が同社のポリシーに違反していると見られることがわかった。グーグルは反論している。

テック政策関連の注目研究

本誌のリアノン・ウィリアムズ記者が取り上げた新たな研究報告によると、私たちはAIが生成したデマを信じる傾向が強いようだ。チューリッヒ大学の研究者たちは、AIが生成した偽ツイートを人間が見破る確率は、人間が作成したツイートに比べて3%低いことを発見した。

たった1つの研究に過ぎないが、今後、さらなる研究によって裏付けられるとしたら、心配な研究結果である。リアノン記者が書いているように、「生成AI(ジェネレーティブAI)ブームによって、あらゆる人が、強力かつ簡単に利用できるAIツールを手にできるようになった。そこには悪意のある人間も含まれている。GPT-3のような言語モデルは、一見もっともらしく見えるが不正確な文章を生成できる。これらの文章は、陰謀論者やデマキャンペーンによって、虚偽のナラティブ(物語)をすばやく安価に広めるために利用される可能性がある」からだ。

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テイト・ライアン・モズリー [Tate Ryan-Mosley]米国版 テック政策担当上級記者
新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。
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