ロドリゴ・カマレナはこう考えた。スマートフォンで車を呼んだり、料理を注文したりできるのなら、権利の行使にも役立つのではないだろうか?
リクラモ(Reclamo)は、カマレナが理事長を務める非営利のイノベーション・インキュベーターである「ジャスティシア・ラボ(Justicia Lab)」が開発した新しいWebアプリだ。正当な賃金が支払われない、いわゆる賃金窃盗に直面している正規移民や不法移民の労働者を支援している。労働者支援者の助けを借りながら、英語またはスペイン語の質問にクリックして回答することで、ユーザーは状況を詳細に整理し、自身の権利を確認し、最終的にはすぐに申し立てられる法律的な申請書を作成できる。通常であれば弁護士と何度も打ち合わせが必要な手続きが、1時間以内に終わる。
このツールは2022年10月にニューヨークで、特に労働者の権利侵害が多いとされる建設業界に特化したベータ版でのテストを始めた。ベータ版では、開発コストの2倍以上となる100万ドルの未払い賃金の回収に貢献。2023年5月中旬には、製造業からハウス・クリーニング業に至るまで、労働者が雇用主に対してより大きな影響力を持てるように、サービス範囲を拡大した。
「独立した非営利の法的デジタル・ツールを構築し、支援者たちと一緒に使えるようにすることで、テクノロジーが不利に使われることが当たり前になっている人々に、本当に公平な競争環境を提供しようとしています」(カマレナ理事長)。
経済政策研究所(EPI)によると、雇用主が残業代や基本給をごまかしたり、時にはまったく支払わなかったりする賃金窃盗は、米国の労働者に年間約500億ドルの損害を与えているという。過重な負担を強いられている行政の代理人は、賃金窃盗を告発できないことが多い。賃金窃盗の多くが正規・不法を問わず移民をターゲットにしているのは、コミュニケーションの障壁や、移民には権利や法的手段がないと一部で認識されているからだ。リクラモが移民の正規・不法情報を収集しないのは、未払い賃金の回収には無関係だからだ。連邦公正労働基準法と多くの州法は、被害者のうち大きな割合を占める不法移民についても、他の労働者と同様の保護を主張できると定めている。
メキシコにルーツを持つオハイオ州立大学のミシェル・フランコ教授は、移民労働者が直面する不安定な状況は単なる偶然ではないと話す。同教授は、移民労働に大きく依存する造園業における人種と階級の問題を研究している。「これらの産業の実際の利益と機能性は、移民労働者の不安定さに完全に依存しています」(フランコ教授)。
リクラモは、トランプ前政権下の移民の扱いに対する不満から生まれ、発展した。ジャスティシア・ラボは連邦法を変える技術は生み出せなかったが、2017年に賃金窃盗に関する記事を目にしてから、支援する方法はほかにもあることに気づいた。ユーザー・テスト、コミュニティのリーダーや労働者へのインタビューなどの調査を通じて、アプリの形態と機能が固まった。労働者はリソース・センターや、コミュニティのリーダーと一緒に、Webアプリにアクセスするため、フォローアップや追加の法的指導といった支援を受けられる。このプロセスの最終的な結果として、法的な請求書と雇用主に送付する書簡の両方が完成する。この2つは、未払い賃金を回収する最速の方法であることが分かっている。
ロングアイランドにある移民サービス団体「メイク・ザ・ロード・ニューヨーク(Make the Road New York)」のリーダーであるロッドマン・セラーノは、今年初めにリクラモの利用を開始し、すでに複数の事案が審査されていることを確認している。不当な扱いを受けた労働者は以前、弁護士と会ったり、ホットラインに電話したり、適切な行政職員を特定したりするために、仕事を休んで時間を確保することは困難だったとセラーノは言う。移民の建設労働者は、低賃金、高い家賃や医療費、不法入国のため限られた仕事しか選択できないなど、非常に多くの経済的困難に直面しているため、収入が少しでも途絶えると壊滅的な打撃を受ける可能性があるからだ。
現在、リクラモを通じて未払い賃金の申請をしている労働者は、回収のための支援を得られるだけではなく、移民制度における一定の法的保護も受けられる。バイデン政権は2023年1月、他国から来た労働争議に関与する人を強制送還から一時的に保護し、国外強制退去の延期措置の対象とすると宣言した。
このアプリは、日常的に働く労働者が弁護士を介さずに苦情を申し立て、法的支援にアクセスできるようにすることで、重大な社会的格差に対処している。米国の低所得層の92%は、民事問題に関して十分な法的支援を受けていない。また、これは代替的な法的サービスを求める動きの一環でもあり、法曹界では自分の役割、ひいては自分の仕事に不安を感じている人もいる。
いわゆる司法アクセス運動は、一般市民が弁護士を探し、予約し、費用を支払う必要なく、法的支援を受けられるようにすることを目的としている。アラスカ州とニューヨーク州の裁判所は、パラリーガル、学生、支援団体、法律の学位を持たない人でも、費用が高額で人数が不足している弁護士を必要とする特定のサービスを提供できるという判決を下している。複雑な会話にも対応できるように進化を続ける人工知能(AI)やチャットボットを、法的サービスを拡大するもう1つの道筋と考える人もいる。擁護者や活動家たちは、最初の面談(インテーク面接)や情報収集にこのテクノロジーを活用したいと考えている。
カマレナ理事長の望みは、リクラモが最終的に法律的援助をより一般的なものにし、弁護士を過度な負担から解放し、複雑な訴訟や集団訴訟に専念できるようにすることだ。彼はまた、リクラモが収集するデータは、常習犯を摘発するのに役立ち、政策立案者に影響を与え、最終的にはより高度なテクノロジーの訓練用データセットとなり、アプリの適用範囲を拡大できると確信している。
「従来のサービス・モデルの枠にとらわれない発想を持たなければ、(司法アクセスの)格差を埋めることはできません」とカマレナ理事長は話す。「私たちが開発したロジックで、AIを訓練できない理由はありません」。