主要メディアの担当記者に聞く、AIについて語る7つのポイント
今や、世間の誰もが人工知能(AI)について語りたがっている。しかし、話が噛み合わないことも少なくない。そこで、AIのニュースを日々追いかけている記者に、自信を持ってAIについて語る秘訣を明かしてもらった。 by Melissa Heikkilä2023.08.06
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
今や、誰もが人工知能(AI)について語りたがっている。だが、話が噛み合わないことに困惑したり、いったい何の話をしているのか分からなくなったりすることはないだろうか。
そこで今回は、フィナンシャル・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ワイアードなどで活躍する、AI分野に詳しい複数の記者、ジャーナリストに、AIについて語る秘訣を明かしてもらった。記者たちは日々、AIテクノロジーを追いかけ、専門家の話を聞き、重要なコンテキストとともに読者が共感できる明確な言葉へ翻訳して届けている。だから、それぞれ気をつけているポイントがあるはずだ。
AIについて語る際に注意すべき7つのポイントを紹介する。
1.頭が悪いように思われても気にしない
「大規模言語モデルは世界を変える、と主張しているわりには、テック業界は自分たちのことを明確な言葉で説明するのが不得手です。あなたが苦労しているとしても、それはあなただけではありません」と話すのは、ワシントン・ポスト紙のテック・カルチャー担当であるニターシャ・ティク記者だ。さらに、AIを巡る会話に特有の言い回しが散りばめられていても、何の役に立たないとも付け加えた。「幻覚(Hallucination)」は、AIシステムが物事をでっち上げることを指す気取った表現だ。「プロンプト・エンジニア」は、望むものを手に入れるためにAIにどう話しかけたらよいかを知っている人たち、でしかない。
ティク記者は、ユーチューブでAIモデルやその概念の解説を視聴することを薦めている。「AIインフルエンサーの動画は無視して、コンピューターファイル(Computerphile)など、もっと控えめな人たちが制作している動画を選択すべきです」とティク記者は言う。「シンプルで短いものを探しているなら、IBMテクノロジー(IBM Technology)がおすすめですね。物事の表面しか見ない人向けには関係ないかもしれませんが、AIのプロセスを分かりやすく説明してくれます」。
AIについてどう語ったところで、誰かしら不満の声が上がるものだ。「ときどきAIの世界は、ばらばらなファン層に分裂しているように感じます。それぞれお互いに噛み合わない話をしていて、自分の好みの定義や信念に固執しています」。MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者であるウィル・ダグラス・ヘブンはこう話す。「自分にとってAIが何を意味するかを理解し、その点にこだわるべきです」。
2.どの種類のAIについて語っているのかをはっきりさせる
「AIという言葉は1つの単語として扱われていますが、実際には100種類の多種多様なものの集合体です」。こう指摘するのは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で中国のテクノロジーについて担当するカーレン・ハオ記者だ(ハオ記者は、MITテクノロジーレビューの元AI担当記者でもある)。
ハオ記者によると、AIのどの機能について話しているのか、意識的に区別できれば、より正確な会話をするのに役立つという。自然言語処理と言語モデルについて語っているのか、それともコンピューター・ビジョンのことなのか。あるいは、チャットボットや、がん検出のような応用例について話しているのか。よく分からない場合は、AIのさまざまな応用例に関する的確な定義をいくつか紹介しよう。
単一の存在としての「AI」について語ると、このテクノロジーの現実が曖昧になると、タイム誌の専属記者であるビリー・ペリーゴは話す。
「さまざまなモデルが存在し、それぞれできることは異なります。同じプロンプト(指示テキスト)に対して返ってくる回答も違いますし、それぞれが独自のバイアスを持っています」とペリーゴ記者は言う。
3.現実的であれ
「新しいAI製品に対する、最も重要な質問は2つ。単純に、何を、どのように実行するのか、ということです」。こう話すのは、ザ・ヴァージの上級編集者であるジェイムズ・ヴィンセントだ。
現状、AIコミュニティにはAIの長期的なリスクや可能性について語る傾向がある。仮定のシナリオに惑わされたまま、このテクノロジーが将来何を実現できるか、安直に思いを巡らすことはできる。だが、仮定の話をするのではなく、実用主義の立場をとり、現実に重点を置く方が、一般的にはAIについてのより優れた議論ができると、ヴィンセント上級編集者は言う。
テクノロジー業界には、自社製品の能力を大げさに宣伝する傾向がある。本誌のダグラス・ヘブン上級編集者いわく、「懐疑的であれ、皮肉屋であれ」。
汎用AI(AGI:Artificial General Intelligence)について語るときは、この指摘が特に重要になる。なお、汎用AIという概念は一般的に、人間と同じくらい賢いソフトウェアを指す(「人間と同じくらい」が何を意味するかは別として)。
「もし質の低いサイエンス・フィクションのように聞こえるなら、おそらく実際にそうなのでしょう」。ダグラス・ヘブン上級編集者は付け加えた。
4.期待値を調整する
チャットGPT(ChatGPT)などのAIチャットボットを動作させる言語モデルは、よく「幻覚」を起こしたり、物事をでっち上げたりする。これには苛立ち、驚かされることもあるかもしれないが、フィナンシャル・タイムズ紙のAI担当編集者であるマドゥミタ・ムルジャは、それらの仕組みが持つ本質的な部分なのだと言う。
言語モデルは「正しい」回答を検索して提供するように設計されている検索エンジンではないし、無限の知識を持っているわけでもない。そう覚えておくことが重要だ。与えられた質問とそれまでの訓練で得たあらゆるものを前提に、最もあり得そうな言葉を生成する予測システムなのだ。
「だからといって、独創性のあるものを何も書けないわけではありません。それでもなお、不正確であり、事実をねつ造するものだと、常に想定しておくべきです。そうすれば、誤りはそれほど問題ではなくなります。人間の側の使い方や応用例を調整できるからです」。
5.擬人化するな
AIチャットボットが人々の注目を集めたのは、人間が書いたかのような文章を生成し、コンピューター・プログラムではない何かとやりとりしているかような幻想を与えるためだ。だが、チャットボットは実際には単なるプログラムにすぎない。
このテクノロジーを擬人化したり、人間の特徴を備えているとみなしたりしないことがきわめて重要だと指摘するのは、マザーボード(Motherboard)誌のクロエ・シャン記者だ。「彼や彼女のような代名詞で表現してはいけません。そしてAIが、感じたり、考えたり、信じたりできると言ってはいけないのです」。
AIシステムが、現実よりも有能で、感受性があるものだと勘違いしかねないからだ。
私自身、本当にこの過ちを犯しやすいことに気づいた。私たちが日常使っている言語には、AIシステムが実行していることを描写する方法がまだないのだ。だから、疑問に思ったときは、「AI」という言葉を「コンピューター・プログラム」に置き換えるようにしている。すると突然、実にばかばかしく感じる。コンピューター・プログラムが誰かに「妻と離婚しろ」と言っているなんて!
6.すべては権力次第
ニュースの見出しには大げさな宣伝や悪夢のシナリオが踊っているが、AIについて語るときには権力の役割について考えることが極めて重要だと、ワイアード誌の上級専属ライターであるカリ・ジョンソンはいう。
「コンピューターやデータと同様に、権力はAIの構成材料の鍵となる存在です。AIの倫理的利用を議論する上での要諦であり、高度なコンピューター科学の学位を取得できる立場にあるのが誰で、AIモデルの設計プロセスの現場にいるのが誰かを理解する上での鍵となります」とジョンソンは言う。
WSJのハオ記者も同意する。AIの開発は非常に政治的であり、巨額の資金が必要で、利害の対立する多くの研究者派閥が関与することに留意することも有用だと言う。「AIを巡る話は時に、テクノロジーではなく人間に関するものになります」。
7.お願いだから、ロボットはやめて
AIを恐ろしいロボットや全知全能の機械として描写するのはやめよう。「AIは基本的に、人間が膨大なデータセットと莫大な量の計算能力、インテリジェントなアルゴリズムを組み合わせて作ったコンピューター・プログラムであることを忘れないでください」。ベンチャービート(VentureBeat)の上級記者であるシャロン・ゴールドマンはこう警告する。
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- メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
- MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。