「10年以内に10万量子ビット」 IBMが東大らに1億ドル投資する背景
IBMは広島で開催されたG7サミットで、東大とシカゴ大と連携して今後10年以内に10万量子ビットの量子コンピューターを構築すると発表した。だが、そこに至る道のりは平坦とは程遠い。 by Michael Brooks2023.06.02
2022年後半、IBMは433個の量子ビット(キュービット)を含むプロセッサーを搭載した史上最大の量子コンピューティング・システムを開発し、記録を打ち立てた。キュービットは、量子情報処理における基礎的な構成要素だ。現在、IBMは目標を大きく引き上げ、10年以内に10万キュービットの量子コンピューターを開発することを目指す。
5月22日、IBMは広島で開催されたG7サミットでこの発表をした。東京大学、シカゴ大学と提携し、1億ドルのイニシアチブにより量子コンピューティングの本格稼働を目指す。実現した場合、量子コンピューティングは標準的なスーパーコンピューターでは解決不能な差し迫った課題を解決する可能性を秘めている。
正確に言えば、量子コンピューターは単独で問題を解決することはできない。10万キュービットの量子コンピューターを最高性能の「従来型」スーパーコンピューターと連携させることで、創薬、肥料生産、電池性能などさまざまな用途において新たなブレークスルーを実現するという考え方だ。「私はこれを量子中心型スーパーコンピューティングと呼んでいます」。IBMの量子部門で副社長を務めるジェイ・ガンベッタは、5月中旬のロンドンでの対面インタビューでMITテクノロジーレビューに対してこう語った。
量子コンピューティングは、素粒子独自の性質を活かす形で、情報の保持と処理を実行する。電子、原子、小分子といった素粒子は、同時に複数のエネルギー状態で存在しうる。この現象は重ね合わせと呼ばれ、粒子の各状態は互いに連結あるいはもつれ合うことができる。この性質によって、新たな方法で情報のエンコードや操作が可能になり、従来では不可能だった様々なコンピューティング・タスクの可能性が開かれるのだ。
現時点ではまだ、量子コンピューターはスーパーコンピューターに不可能な領域において有益な成果を出せていない。これは主に、量子コンピューターのキュービットの数が足りていないこと、物理学者がノイズと呼ぶ環境内の微細な摂動によって、システムが簡単に乱されてしまうことが原因となっている。
研究者はノイズ混じりのシステムで間に合わせるための方法を探ってきた。だが、量子システムが真の意味で有益なものになるためには、ノイズによって誘発されるエラーの修正にキュービットの大部分を充てるために、大幅なスケールアップが必要だと見込む向きは多い。
大きな目標を掲げたのはIBMが初めてではない。グーグルは2020年代末までに100万キュービットの実現を目指すと発表しているが、エラー修正を差し引くと計算に使えるのはわずか1万ビットとなる。メリーランド州に拠点を置くアイオンQ(IonQ)は、1024「論理キュービット」の量子コンピューターを目標に掲げている。1つの論理キュービットは13の物理キュービットによるエラー修正回路で構成され、同社は2028年までに計算を実行させることを目指している。パロアルトに拠点を置くサイクォンタム(PsiQu …
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