FDAが初承認、「塗り薬」が開く遺伝子療法の新たな可能性
遺伝子療法では、改変した遺伝子をいかにして体内に導入するかが課題となる。米国のスタートアップ企業クリスタル・バイオテックは、米食品医薬局が初めて承認した塗り薬による遺伝子療法を、13歳の少年に適用していることを明らかにした。 by Antonio Regalado2023.05.30
13歳のアントニオ・ベントは小柄で、体に包帯を巻いており、歩くことはない。つい最近まで、視力も極めて低かった。皮膚が非常に脆弱になる栄養障害型表皮水疱症という遺伝疾患を患っている。この病気を持つアントニオのような子どもたちは「バタフライ・チルドレン」と呼ばれている。
しかし、最新の遺伝子療法を外用薬として目や皮膚に適用したおかげで、アントニオの症状は改善を見せている。傷は小さくなり、眼科医に診察してもらったところ、視力も劇的に良くなっていることが分かった。
「右目の視力は0.8あると言われました」と、電話でインタビューを受けたアントニオは嬉しそうにスペイン語で話した。「今では小さいものが見えるんです」。視力が良くなったおかげで、最近プレイし始めたマインクラフトも、ブロックやアイテムが視認できるようになった。
自分のことはアンソニーと呼んでほしいと、アントニオは言った。アンソニーという呼び名のほうが好きなのだという。
2023年5月19日、米国食品医薬品局(FDA)はアンソニーが受けた遺伝子置換療法を承認した。患者の体の表面に適用する遺伝子療法としては、初めて販売が承認されたものとなった。同じ患者に繰り返し適用することを意図した療法としても、初めてのものである。
アンソニーのような「バタフライ・チルドレン」は、体が皮膚の層を保持するために必要な種類のコラーゲンを生成しないという問題を抱えている。そのため、この病気を持つ子どもたちは慢性的に水ぶくれのような傷が皮膚のいたるところにできてしまう。さらに、喉の内部、そして時には目の表面にすら症状が発生する。
今回承認された治療法は、こうした子どもたちに欠けている遺伝子を皮膚の細胞へと届け、皮膚内でコラーゲンの生成を可能とする。また、こうした外用薬を用いた最新の遺伝子導入方法は、その他の稀な皮膚病の治療にも応用できないかと研究が進められている。嚢胞性線維症に対する吸入薬を用いた遺伝子療法の研究も進められている。
「Vyjuvek」と呼ばれるこの遺伝子療法は、ピッツバーグのスタートアップ企業であるクリスタル・バイオテック(Krystal Biotech)が開発したもので、栄養障害型表皮水疱症を患っている年齢6カ月以上の人なら誰でも使用してよいとの承認を受けている。これまで、この表皮水疱症に対する治療法はほとんど存在していなかった。
「アンソニーが生まれてから、私は包帯を取り換えて傷の手当てをすることにばかり追われていました」と、母親のユニエルキス・カラバハルは言う。カラバハルはアンソニーに治療を受けさせるため、2012年に人道的ビザを得てキューバから米国へと移住した。
2017年以降、FDAは稀な遺伝性疾患を対象とした5つの遺伝子療法を承認してきた(クリスタル・バイオテックのものを含めれば6つになる)。また、白血病のための遺伝子療法もいくつか承認されている。
しかし、そうした従来の遺伝子療法はいずれも、注射をするか、体外で免疫細胞を変化させるかして受けるものだった。クリスタル・バイオテックは塗り薬という形の遺伝子療法を生み出したことにより、「シンプルで、便利で、患者に優しいやり方で、欠けた遺伝子を患者たちに提供すること」を可能にしたと、同社CEO(最高経営責任者)のクリシュ・クリシュナンは述べる。
塗り薬による遺伝子の置き換えは、美容分野においてもいずれは多様な使い方で活用されるかもしれない。クリスタル・バイオテックが設立した子会社は、上述した塗り薬の別バージョンの実験を、志願した被験者を対象に実施している。加齢によって体内でのコラーゲンの生成量が減ると、目じりやその他の部位に皺ができる。この実験はそうした皺を遺伝子療法で消そうと試みるものだ。
このプロジェクトが成功したら、遺伝子療法は深刻な病状に対処するといった医療行為に用いられるだけでなく、特に病気を持たない成人の身体機能を向上させるためにも用いられるようになるだろう。ジューン(Jeune)と名付けられたクリスタル・ …
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