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中国テック事情:WeChatアカバン復旧「最後の砦」に行ってみた
Stephanie Arnett/MITTR | Getty
Inside Tencent’s weirdly secretive customer service center

中国テック事情:WeChatアカバン復旧「最後の砦」に行ってみた

ウィーチャットを運営するテンセントは、深センに実店舗型の「カスタマー・サービスセンター」を設けている。停止されたアカウントを復旧するため、同センターを訪れた記者が見た光景とは。 by Zeyi Yang2023.06.18

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

数週間にわたる中国滞在から米国に帰国した。パンデミック以降、初めての中国となったが、いくつかの変化に気がついた。上海の街を走る自動車の半数が電気自動車になっていたり、高速鉄道に乗るには顔をスキャンしなければならなかったり。あるいは、旅行中に硬貨やクレジットカードを一度も使わずに済み、デジタル・ウォレットが文字通りあらゆる場所で利用できるようになっていたことなどだ。

今回の滞在で、私はテンセント、ファーウェイ、DJIなど、中国のテック企業が集中する南部の都市である深センに足を伸ばした。深センを訪れる目的はいくつかあったが、そのうちの1つに私は不安な気持ちを抱いていた。 それは、テンセントのカスタマー・サービスセンターまで出向き、15年物のソーシャルメディア・アカウントを復旧させる、ということだった。

ご存知の方も多いと思うが、「テンセント帝国」のきっかけとなった最初のソフトウェアは、デスクトップ・インターネット全盛期の中国において、インスタント・メッセージング・プラットフォームとして人気を博した「QQ」だ。テンセントはQQを足がかりに、ブログやメールサービス、音楽・動画ストリーミング、ゲーム、そして最終的にはウィーチャット(WeChat)を提供する、強大なコングロマリットに成長した。ウィーチャットで成功するまで、長らくQQアカウントが事実上のデジタルIDとなっており、人々はこのアカウントを使って互いにつながり、テンセントのあらゆるサービスを利用してきた。

10年以上にわたって利用してきた私のQQアカウントには、日記やチャット履歴、仕事のメールなど、個人的な記録が残っている。しかし、2021年11月に突如としてアカウントが停止されて以降、アクセスできずにいたのだ。それまでの数カ月間、私はこのアカウントをLGBTQコンテンツに対するQQの検閲についての記事の取材や、他に執筆していた記事の情報提供者とつながるために使っていた。だが、そうした行為がアカウントの停止につながったのかどうかは定かではなかった。

私はアカウントの復旧を試みたが、暗礁に乗り上げていた。アカウント登録時に使用した携帯電話番号をかなり前に解約していたためだ。諦めかけていたところ、深センにカスタマー・サービスセンターがあると知って、希望を見出したのだ。

カスタマーサービスとのやり取りは、どんな内容でもあってストレスがたまるものだ。長い待ち時間、お決まりの回答、不親切な担当者はつきものといえる。テンセントは、最終手段として実店舗型のカスタマー・サービスセンターを設けている。深センまで足を運ぶ覚悟さえあれば、担当者と実際に会って、自らの主張を訴えることができるのだ。 

今年1月、中国の16歳の若者が、自宅から1200キロメートル以上も離れたテンセントのカスタマー・サービスセンターを一人で訪れたことで大きな話題となった。私と同じく、彼もQQアカウントの停止処分を受けていた。何カ月もテンセントとやり取りをし、正式にクレームを訴えても埒が明かなかったが、実際に足を運んだことでようやくアカウントを取り戻せたという。

4月のとあるジメジメした日、私はカスタマー・サービスセンターに到着した。センターはテンセントとは無関係のオフィスビルの1階にあったが、本社からはわずか数キロメートルの距離にある。外には看板もなく、妙に秘密めいた雰囲気を感じた。ドアの前には警備員が立っていて、通りがかった人全員にその場所にいる理由を尋問しそうな勢いだった。

受付を訪れると、私の前に6人が並んでおり、セキュリティ探知機をくぐって、手荷物や飲み物をすべて預けるよう指示された。壁には、センター内での録音・録画、写真撮影、大声での会話は禁止する、と記された貼り紙が貼られていた。私は取材のため録音を試みたが、3人いる警備員のうちの1人にすぐに気づかれてしまった。警備員は「お客様、ここでの録音は禁止されています」と言い、私が録音したデータを削除するのを見届けた。

セキュリティ検査を通過すると、待合室に通された。そこでは、白いシャツに黒いズボン姿の多くの警備員が訪問者を監視しつつ、サポートスタッフとして働いていた。スタッフは、正当なアカウント所有者であることを証明するための情報、たとえばQQアカウントの詳細といった内容をあらかじめ書類に記入するよう指示していた。

テンセントの担当者が私の案件を処理するのを待合室のソファで待っている間、他の訪問者たちの話に耳を澄ませてみた。ある女性は、夫が長期間の海外生活を終えて最近帰国し、デジタル・ウォレットを再有効化できずに困っていた。ある老人は、訛りの強い話し方をしていたため、自分の訴えを伝えるのに苦戦していた。別の女性は、代購、つまり転売業者として働いているが、模倣品を販売したとしてウィーチャット・アカウントが何度も停止されたと訴え、自身は潔白だと主張していた。母親に付き添われて訪れていた16歳の少年は、親の許可なくテンセントが運営するモバイルゲームに1万ドル以上もつぎ込んでいた。少年は、自らの非を自覚しているのか、床を見つめながら小声で話し続け、サポートスタッフから「ゲームの利用状況について正確な情報を伝えていない」ととがめられていた。

センターを訪れる人々を観察しているうちに、私は中国に住む人々の日常生活にとってテック企業がいかに重要な存在となっているかを実感した。私が住む米国では、グーグルやメタ(Meta)の製品を使わなくても比較的快適に生活できるだろう。 しかし、現在の中国でウィーチャットやテンセントのアプリに触れずに生活することは考えられない。

実際にテンセントのセンターを訪れたことで、ユーザーとテンセントの間の力の不均衡をより一層痛感することとなった。さまざまな手順に従うように指示された上、写真撮影や録音をしていないか、注意深く監視されたからだ。2020年には、私がいるまさにこのビルの屋上から飛び降りて自殺した男性もいる。テンセントは事件当日、男性と接触したことを否定したが、被害者の親族によると、男性のウィーチェット・アカウントが停止され、何度訴えても取り合ってもらえなかったため、センターに出向いたのだという。

センターでは1時間待たされ、テンセントが義務付けている顔認識ID認証システム向けの動画を撮影するなどの手続きを経て、私のQQアカウントは復旧した。

しかし、センターにいた全員が私のように幸運だったわけではない。息子と一緒に訪れた母親は、「未成年のユーザーを担当する専門部署」から1日以内に連絡があると伝えられた。「でも、今日は休みを取ってここまで来たので、明日には帰らないといけないんです。もう一度出直すことは難しいです」と母親は訴えた。テンセントのスタッフは、明日電話をかけると約束し、こう付け加えた。「ここで待っていても時間を無駄にするだけです」。

模倣品の販売でウィーチェット・アカウントを停止された女性は、担当者と言い争いになった。彼女は企業からの通報があったとの説明を信じず(担当者によると、ダイソンからテンセントに連絡があったという)、ライバル業者に密告されたと主張し、密告者が誰なのかを知りたがっていた。言い争いの末、女性はソファに倒れ込み、停止処分によって自身の生活が立ち行かなくなってしまったと号泣した。「私はこの商売を諦めたほうがいいのかもしれません」と彼女は嘆いた。「すでに苦しい状況に陥っているのですから」。

その日、私は望んでいたすべての答えを得ることはできなかった。「テンセント:すべてはお客様のために」との標語が掲げられた壁の前に立っていたカスタマーサービス担当者は、私のアカウントがそもそも停止された理由を明確には教えてくれなかった。私が取材対象者を見つけるためにグループチャットを頻繁に利用していたと説明すると、おそらく私があまりにも多くのグループチャットに自分の連絡先を登録したのが原因だろうと述べた。「どの程度のグループチャットだと多すぎるのですか?」と私が尋ねると、「これといった具体的な数は決まっていません」と担当者は答えた。

センターを出ようとすると、警備員はまだ入口の前に立っていて、誰かが近づいてくる度に警戒していた。白いシャツを着た男性が通りかかると、警備員はすぐさま何をしに来たのかを尋ねた。「トイレを探しているんです」と男性は気まずそうに答えた。数歩離れたところで、私は振り返ってカスタマーサービス・センターの入るビルの写真を1枚撮った。もう二度と来る必要がないように祈っている。

A photo I took of the Tencent customer services center.

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OPPOの半導体部門が突然の閉鎖に

中国の大手通信機器メーカーのオッポ(OPPO、世界におけるスマホの8%を製造)は5月12日、同社のマイクロチップ事業「Zeku(哲庫)」を突如として閉鎖し、3300人の従業員を解雇した。中国のテック系メディアによると、この発表は、Zekuのほとんどの従業員にとって衝撃的なものだったという。というのも、同社は深刻な財務問題を抱えていたわけではなかったからだ。

2019年に設立されたZekuはかつて、クアルコムなどの海外企業に頼らず、中国のスマホメーカーが自前でチップを製造する数少ない希望の1つとされていた。閉鎖前、同事業ではOPPOのスマホに採用されている2種類のハイエンドチップ製品の開発に成功し、3番目の製品の量産試験をTSMCの工場で進めていた。今回の突然の決定は、中国の半導体業界を困惑させている。妥当な説明としては、世界のスマホ市場が長期的な縮小傾向にある中、研究開発コストの高騰が懸念されることが挙げられるだろう。

中国の他のチップメーカーは、Zekuから流出する優秀な人材を獲得しようと競い合っているが、解雇された従業員全員を受け入れるには、長い時間がかかるかもしれない。

あともう1つ

中国メディアの報道によると、中国における最新のバイラルマーケティングの手口は、タイムズスクエアの広告塔に登場することだという。昨年設置されたこの約1670平方メートルもあるLEDスクリーンは、ニューヨーク市の中心部で、わずか40ドルで15秒のビデオクリップが放映可能だ。中国の企業やインフルエンサー、あるいは友人への斬新な誕生日プレゼントを悩んでいる一般の人たちが、それにすぐさま目をつけた。もちろん、ほとんどの通行人は、こうした映像にあまり注意を払わない。中国のソーシャルメディアで自慢できるか否かがポイントなのだ。

 

 

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MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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