小惑星の地球衝突、今後1000年間は安全か
約6600万年前、恐竜は小惑星の衝突の影響で絶滅し、衝突からわずか数時間のうちにほとんどの陸上生物が死滅したと考えられている。こうした事態が今後1000年の間に起こる可能性は低そうだ。 by Jonathan O'Callaghan2023.05.23
これから1000年間は、気を楽にして過ごせそうだ。それは、今後1000年の間に地球に衝突する可能性のある大型小惑星の数を追跡した新しい研究に基づく知見だ。その数は、ゼロだった。
アストロノミカル・ジャーナル(Astronomical Journal)への掲載が認められたこの研究を率いた米国のコロラド大学ボルダー校のオスカー・フエンテス・ムニョス博士は、「これは良いニュースです」と話す。「私たちが知る限り、今後1000年間は衝突は起こらないでしょう」。
約6600万年前、恐竜は幅10キロメートルの小惑星の衝突の影響などで絶滅し、溶けた岩石が降り注ぐ中、衝突からわずか数時間のうちにほとんどの陸上生物が死滅したと考えられている。さらに、衝突により、地球は煤塵に覆われ、太陽の光が遮られ、数十年にわたる冬が到来した。
幸いなことに、このような衝突はまれであることが分かっている。米国航空宇宙局(NASA)は以前、大きさが1キロメートル以上の小惑星によって文明を滅ぼすような出来事がもたらされるのは、数百万年に一度しか地球に降りかからないと推定した。ただ問題は、当面それが起きる可能性を完全に否定できないことだった。
しかし、フエンテス・ムニョス博士と同僚らは、その問題を解決できたと考えている。NASAが作成した地球近傍にある大きさ1キロメートル以上の小惑星のカタログは、現在95%完成していると考えられており、そのような小惑星は約1000個存在することが知られている。木星の重力などを考慮してそうした小惑星の軌道を追跡することで、天文学者は今後約100年先までの小惑星の進路を予測できる。
今回の研究では、研究チームは別の方法を用いて、小惑星が軌道上でいつ地球に近づくと予想されるかをモデル化し、予測期間を1000年先まで延長することに成功した。
この研究の共著者で、カリフォルニア州にあるジェット推進研究所のNASA地球近傍天体研究センター(Center for Near Earth Object Studies)のダヴィデ・ファルノッキア博士は、「より長い時間間隔で予測をするため、計算量の少ない方法を考案しました」と話す。「小惑星を地球に近づけることができる軌道の断片」を特定することで、研究チームは、他の方法では予測不可能だったはるか未来の衝突リスクをモデル化できた。
研究チームがモデル化した小惑星のうち、最も衝突の危険性が高いのは「1994 PC1」と呼ばれる天体である。1994 PC1は幅約1キロメートルの石質の小惑星で、今後1000年以内に月の軌道内を通過する確率が0.00151% であることが判明した。信じられないほど小さい確率だが、これは他の小惑星がもたらすリスクの10倍だった。
フエンテス・ムニョス博士は、「それでも、衝突する可能性は低いです」と話す。「しかし、この巨大な小惑星は地球に非常に接近するため、科学者にとって素晴らしい機会になるでしょう」。
この研究は、米連邦議会が1998年にNASAに対して、大きさ1キロメートル以上の地球近傍小惑星の90%をカタログ化するよう求めた要請に端を発している。「一般的に、地球に大きな損害を与える可能性のある小惑星の衝突は、極めてまれです」とファルノッキア博士は話す。「私たちは念のために、デューデリジェンス(しかるべきリスク評価)をしているのです」。
飛来する隕石を追跡する惑星科学者で、この研究には関与していないグラスゴー大学の大学院生であるアーニェ・オブライエンは、100年以上先の大型小惑星の衝突を予測するシミュレーションを見られるのは喜ばしいことだと言う。「予測期間を延長できるようになったことは、良いことだと思います」。
しかし、より小さな小惑星ははるかに多く存在し、依然として地球にリスクをもたらす。たとえば、2013年、ロシアのチェリャビンスク上空で幅20メートルの隕石が爆発し、小さいながらも、1000人以上が負傷し、窓ガラスが粉々に割れるなどの被害を出した。「小さな天体でも大きな被害をもたらします」とオブライエンは話す。
より小さな小惑星を追跡するための取り組みが進められている。フエンテス・ムニョス博士によると、都市を破壊する可能性のある幅140メートル以上の小惑星については、NASAのカタログは約40%完成していると言う。「しかし、いくつあるのか次第であり、実に不確かなものです。どれだけあるのか、よくわかっていません。しかし、新しい天文観測によって、もっと高い完成度を達成できるという希望があります」。チリのヴェラ・ルービン天文台は、来年、太陽系の広範なサーベイ調査を開始することになっており、重要な発見に貢献するだろう。
しかしながら、当面は文明全体は安泰のようだ。「ある時点で、何かがこちらに向かってくるはずです」とオブライエンは言うが、ともあれ、西暦3000年までに来る可能性は低そうだ。
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- ジョナサン・オカラガン [Jonathan O'Callaghan]米国版 寄稿者
- フリー宇宙ジャーナリスト