幹線道路沿いのデジタル・サイネージで車種のターゲティング広告
ビジネス・インパクト

Targeted Ads Along the Highway 幹線道路沿いのデジタル・サイネージで車種のターゲティング広告

走行中の車種を機械学習で識別し、適切な広告を表示する道路広告をロシアのアドテク企業が開発した。高級車の広告を年式の古い高級車のドライバーに表示する、といったWeb広告の方法を、現実世界で実現する。 by Nanette Byrnes2017.03.03

昨年11月にモスクワ環状道路をBMW x5かボルボXC60で走っていたら、道路脇のデジタル広告板(デジタル・サイネージ)に接近するとジャガーの新型SUVの広告が表示されるのに気づいたかもしれない。

夕方なら、広告の背景は暗闇で車が際立って見え、悪天気だったら、雪の中で巧みに走っている内容だったはずだ。

ターゲティング広告とはインターネットの利用履歴に基づき、ユーザー別に表示される広告のことだ。スタートアップ企業のシナプス・ラボ(Synaps Labs)は、広告板の手前(約180m)に設置した高速カメラで車の画像を撮影することで、ターゲティング広告を現実世界に実現した。画像内の自動車を機械学習システムで認識し、広告のターゲット車種が通過すると、入札システムが広告板に表示する広告を選択する仕組みだ。

道路脇の広告板を自動車の宣伝に使うのは合理的だ。では、その種の広告にはどんなバリエーションがあり得るだろうか? 運転している車種から、広告主はドライバーのさまざまな属性を読み取れる、とシナプスはいう。実際、スタンフォード大学が取りまとめた大学研究者グループの最近の報告によれば、マシン・ビジョンや深層学習でグーグル・ストリート・ビュー内の車種や年式を分析すると、その地域の住民の収入や人種、教育レベル、民主党寄りか共和党寄りかまで正確に判定できるという。

https://s3.amazonaws.com/files.technologyreview.com/p/pub/files/jaguar.v4.mp4
カメラが左から二番目の車線にBMW X5、その後BMW X6とボルボXC60を一番左の車線に捉えると、広告板の表示が3台の自動車のドライバーをターゲットに、ジャガーの新型SUVに切り替わる

サービスをデジタル広告版の所有者に販売するのがシナプスのビジネス・モデルだ。デジタル広告版の内容は順次入れ替わり、ターゲットを絞れば絞るほど、入れ替わりの頻度が高まり、広告版の運営会社は広告をより多く販売できる。シナプスによると、1カ月にターゲティング広告を8500回表示すると、5万5000回表示(約50秒に1回)される従来型の広告と同じ人数のターゲットのドライバー(約2万2000人)に届く。ジャガーの広告キャンペーンでは、Web広告と同様、インプレッション数に基づいて看板の運営会社に広告代が支払われた。なお、従来のデジタル広告版の料金は、テレビ広告と同様、表示時間で決まる。

シナプスは今年ロシアで20~50カ所の広告版を運用する見込みだ。また、今夏には米国での試験を計画しており、シナプスによると、米国には約7000基のデジタル広告版があり、毎年15%増加しているという(昔ながらの広告版は37万基)。シナプスの共同創業者アレックス・プストフは、道路沿いに並んだデジタル広告版は、自動車が通り過ぎるのに同期して広告を表示でき、テレビやインターネットのようにストーリー性のある広告スタイルにできる、という。

シナプスがカメラを使う用途は規制対象だ。シナプスはカメラで捉えた個々のドライバーの属性データを広告主に販売するつもりはないが、集計した交通パターンを、交通予想分析や、地域の通勤者と住民に関する社会人口学的分析、交通による排気ガスの追跡等の用途に使えるのではないか、という関心は抱いている。

プライバシーの配慮でナンバープレートのデータは暗号化されており、この種のデータを蓄積できる時間を制限する各国の法令も遵守する、とシナプスはいう。

「オフライン版のクッキーみたいなものです」と共同創設者のアレクセイ・ウートキンはいう。