ヒトゲノム計画について、このようなジョークがある。「一体何度、完了したことだろう。しかも実際にはまだ終わっていない」。
最初は2000年だった。ホワイトハウスでのセレモニーでビル・クリントン大統領が、「全ヒトゲノムの初めてのサーベイ調査」を発表し、「人類が生み出した最も価値のある、最もすばらしい地図です」と形容した。
ただし、作業は完了していなかった。1年後、再び勝利宣言が出た。今度は、「人類の遺伝子の設計図」の「下図」が正式に発表されたというものだ。2003年にも、研究者はゴールに到達しようと新たに試み、正確度が増したとして、プロジェクトの「成功裏の完了」を主張。その19年後の2022年にまたもや勝利を叫んだ。今度は、端から端までを網羅し、いっさい脱落のない、1つのゲノムの本当に本物の「全」配列であるという(指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます)。
2023年5月、研究者はまたまた新たなヒトゲノム地図を発表した。アフリカ人、アメリカ先住民、アジア人などを含む47人の多様な人々の全DNAを1つの巨大な遺伝子地図帳にまとめたもので、人類の驚くべき遺伝的多様性をより巧みに捕捉したものだという。
「パンゲノム」と呼ばれるこの新たな地図は、作成に10年かかった。研究チームによると、地図は今後大きくなる一方で、世界各地の300人のDNAが追加され、ゲノムの眺望が拡大していくという。研究論文は、ネイチャー(Nature)誌に2023年5月10日付で掲載された。
「今では、一人の人間のゲノムから作成された地図が存在しても、全人類を代表するのに十分ではないことが分かっています」と、この新プロジェクトに参加しているカリフォルニア大学サンタクルーズ校のカレン・ミガ助教授は言う。
多様性を詳細に
人々のゲノムは大部分似通っているが、その多くがたった1つの塩基の違いに過ぎない、数十万個の違いが私たち一人ひとりをユニークな存在にしている。新たなパンゲノムによって、この多様性をこれまで以上に詳細に観察できるようになると、研究チームは語る。従来の研究では観察できなかった、いわゆる進化のホットスポットや、遺伝子の欠失、逆位、重複などの、驚くほど大きな何千もの違いに光を当てているという。
パンゲノムは、グラフという数学の概念に依拠している。グラフは、巨大な点つなぎパズルのようなもので、それぞれの点がDNAのセグメントに相当する。特定の人のゲノムを描くには、数字が振られた点をつないでいく必要がある。個々の人間のDNAは、ほんの少し違う経路をとり、いく …