KADOKAWA Technology Review
×
ヒトの多様性を説明、新たなゲノム地図「パンゲノム」が発表
Stephanie Arnett/MITTR | Getty
生物工学/医療 無料会員限定
This new genome map tries to capture all human genetic variation

ヒトの多様性を説明、新たなゲノム地図「パンゲノム」が発表

カリフォルニア大学などの研究チームが、47人の多様な人々のDNAを1つの巨大な遺伝子地図帳にまとめた「パンゲノム」を発表した。私たち一人ひとりをユニークな存在にするDNAを解き明かすかもしれない。 by Antonio Regalado2023.05.17

ヒトゲノム計画について、このようなジョークがある。「一体何度、完了したことだろう。しかも実際にはまだ終わっていない」。

最初は2000年だった。ホワイトハウスでのセレモニーでビル・クリントン大統領が、「全ヒトゲノムの初めてのサーベイ調査」を発表し、「人類が生み出した最も価値のある、最もすばらしい地図です」と形容した。

ただし、作業は完了していなかった。1年後、再び勝利宣言が出た。今度は、「人類の遺伝子の設計図」の「下図」が正式に発表されたというものだ。2003年にも、研究者はゴールに到達しようと新たに試み、正確度が増したとして、プロジェクトの「成功裏の完了」を主張。その19年後の2022年にまたもや勝利を叫んだ。今度は、端から端までを網羅し、いっさい脱落のない、1つのゲノムの本当に本物の「全」配列であるという(指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます)。

2023年5月、研究者はまたまた新たなヒトゲノム地図を発表した。アフリカ人、アメリカ先住民、アジア人などを含む47人の多様な人々の全DNAを1つの巨大な遺伝子地図帳にまとめたもので、人類の驚くべき遺伝的多様性をより巧みに捕捉したものだという。

「パンゲノム」と呼ばれるこの新たな地図は、作成に10年かかった。研究チームによると、地図は今後大きくなる一方で、世界各地の300人のDNAが追加され、ゲノムの眺望が拡大していくという。研究論文は、ネイチャー(Nature)誌に2023年5月10日付で掲載された。

「今では、一人の人間のゲノムから作成された地図が存在しても、全人類を代表するのに十分ではないことが分かっています」と、この新プロジェクトに参加しているカリフォルニア大学サンタクルーズ校のカレン・ミガ助教授は言う。

多様性を詳細に

人々のゲノムは大部分似通っているが、その多くがたった1つの塩基の違いに過ぎない、数十万個の違いが私たち一人ひとりをユニークな存在にしている。新たなパンゲノムによって、この多様性をこれまで以上に詳細に観察できるようになると、研究チームは語る。従来の研究では観察できなかった、いわゆる進化のホットスポットや、遺伝子の欠失、逆位、重複などの、驚くほど大きな何千もの違いに光を当てているという。

パンゲノムは、グラフという数学の概念に依拠している。グラフは、巨大な点つなぎパズルのようなもので、それぞれの点がDNAのセグメントに相当する。特定の人のゲノムを描くには、数字が振られた点をつないでいく必要がある。個々の人間のDNAは、ほんの少し違う経路をとり、いく …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. The winners of Innovators under 35 Japan 2024 have been announced MITTRが選ぶ、 日本発U35イノベーター 2024年版
  2. Kids are learning how to make their own little language models 作って学ぶ生成AIモデルの仕組み、MITが子ども向け新アプリ
  3. The race to find new materials with AI needs more data. Meta is giving massive amounts away for free. メタ、材料科学向けの最大規模のデータセットとAIモデルを無償公開
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る