ウーバーにとって長すぎる2月がやっと終わった。配車事業を手掛ける巨大企業ウーバーのビジネスの実態が、圧倒的な成功と大きくかけ離れていることが露呈した1カ月だった。
ウーバーにとっての悲惨な4週間の締めくくりは、ウーバーのドライバーを務めるファウジ・カメルとの議論に巻き込まれた動画に映されたトラビス・カラニク最高経営責任者(CEO)の姿だ。根本的には、ウーバーの料金体系に関する議論で、ドライバーの報酬に話が及び、カラニクCEOは怒りを露に、カメルに向かって「自分のやったことに責任を取りたくない奴だっているんだ」と大声を上げてしまった。
カラニクCEOはその後謝罪し、ウーバーの従業員に送ったメールで自分は「リーダーとして根本的に変わり、成長しなければならない」と述べた。さらにリーダーシップを養うためのサポートが必要であり、模索していくつもりだ、という。ここ最近、ウーバーの対処すべき問題を指摘するニュースが多くあり、カラニクCEOが受けるサポートは相当幅広くなりそうだ。
ウーバーを退社した元エンジニアのスーザン・ファウラーは2月初め、ウーバーで経験した非常に奇妙な1年間についてブログに投稿し、性的差別にあふれた社内の様子を書き綴った。ファウラーのブログ記事の公開後、数々の同様の訴えが明らかになり、上級エンジニアのひとりは性的嫌がらせの苦情を受けて退職した。ウーバーの「強引で抑制のない」社風は大きな批判を浴びており、同社はセクハラ被害を社内で調査中だ。
ウーバーが研究開発を進める自律自動車もトラブルを抱えている。アルファベット(グーグル)の自律自動車会社ウェイモ(Waymo)が、知的財産権を侵害しているとしてウーバーを提訴したのだ。ウェイモによると、エンジニアとしてカリスマ的存在だったアンソニー・レバンドウスキー元社員が、グーグルの退社前にファイルをこっそり持ち出し、新たなハードウェアのデザインや設計にウーバーで流用したというのだ。
自律自動車の実用化を急ぐウーバーは、他にも問題を抱えている。ウーバーが予定していたサンフランシスコでの試験走行は昨年、必要な許可なしで始められたため、即刻中止させられた。しかし、今週のザ・バージの記事によれば、試験走行には許可申請が必要だとサンフランシスコの車両管理局がウーバーに何度も警告していたことがわかった(1週間の試験走行中、自律自動車が赤信号を無視して走行した件について、ウーバーはドライバーの人為的ミスだと主張したが、先週のニューヨーク・タイムズ紙の記事は、信号を無視した車は自律運転中だったと伝えた)。
カラニクCEOの話題に戻ろう。移民の最初の仕事ともいえるニューヨークのタクシー・ドライバーが、トランプ政権の移民政策に反対しようとストライキを起こしたとき、ウーバーはJFK国際空港で営業を続けた。ウーバーのシステムでは、配車の需要が増すと料金が上がるが、顧客にアピールしようと、スト中は割増料金を適用しないことにしたのが裏目に出てボイコットにつながり「#DeleteUber(ウーバーを削除しろ)」という抗議が起きたのだ。その後カラニクCEOはトランプ大統領の経済諮問委員を辞任した。
すべて2月の出来事だ。1年で一番短い月なのに、ウーバーは次々と騒動を起こし、大きく報道された。安全性に対する懸念、人種的差別問題、疑わしい労働慣行など、未解決の問題とともに、今後もウーバーを批判する際に持ち出されるだろう。
この状況をよくいえば、ウーバーは成長期の苦しみを味わっている、とも捉えられる。ブルームバーグの今週初めの記事によれば、シリコンバレーにある多くのスタートアップ企業は、商品開発に集中しすぎて、組織内に発生している別の問題に気が付けないという。そういう事情で問題が発生しているのだとしても、シリコンバレー企業だからで済む話ではない。
とはいえ、ウーバーは創業8年、企業価値は690億ドル、世界528都市で事業を展開している。もはやまとまりのないスタートアップ企業であってよいはずはなく、運輸業界の世界市場で活躍するプレーヤーなのだ。成長期にあるウーバーは、自信に満ち溢れた肉食系「ブラグラマー」(「オタク」「キモイ」と呼ばれた大昔のプログラマーとは異なり、社交的で貪欲なプログラマー。仲間内でBro.と呼び合うことから)の域を脱し、真面目な企業に成長する展望から大きく外れている。仕事熱心で商品開発が最優先といった考え方が定着しており、性的差別や法令・規則の軽視、戦略的に意思を決定する意識の欠如を取り繕うような事態が発生しているようだ。
ウーバーが引き起こす問題は、今まで以上に大きく報道されており、問題の多くは、ウーバーが変わらない限りはなくならないだろう。ウーバーはそうした問題をなくす必要がある。#DeleteUber(ウーバーを削除しろ)の抗議活動は、ファウラーが性的差別の苦情を発表した後、再び盛り上がりを見せた。最初の抗議活動が起きたとき、利用者は同様の配車事業を展開するライバルのリフトに流れ込んだ。利用者にとっては、配車のしやすさ以外でウーバーとリフトを明確に区別する違いがほとんどない。否定的な報道が続けば、利用者と同じく、ドライバーもリフトに乗り換えてしまうだろう。
カラニックCEOは会社を成長させたいのだ。しかし事態を真剣に捉えて、成長する必要があるのはウーバーとカラニックCEOの両方だ。
(関連記事:Bloomberg, New York Times, Verge, Guardian, “ウーバー対グーグル、自動運転テクノロジーの盗用巡り訴訟,” “ウーバー、無人タクシー実験をサンフランシスコに拡大,” “ウーバー、リフトは、配車サービスの人種差別に対処すべきか?”)