スポティファイ、「反実仮想」で因果関係を推論するAIを開発
スポティファイの研究チームが、「反実仮想分析」の手法をベースにして、物事の因果関係を推論する新たな種類の機械学習モデルを構築した。意思決定の精度向上に役立つ可能性がある。 by Will Douglas Heaven2023.04.10
音楽ストリーミング配信会社であるスポティファイ(Spotify)の研究チームが、「反実仮想分析」という精密な手法の背景にある複雑な数学を初めて取り入れた新たな機械学習モデルを構築した。このモデルは、過去の事象の原因を特定し、将来の事象への影響を予測するのに用いることができる。
この機械学習モデルは2023年2月に科学雑誌「ネイチャー・マシン・インテリジェンス(Nature Machine Intelligence)」で発表された。金融からヘルスケアまでの幅広い用途で意思決定を自動化でき、特にパーソナライズされたおすすめの精度を向上させられる。
反実仮想の基本的な考え方とは、ある状況において、何かが異なっていた場合にどうなっていたかを問うというものだ。世界を巻き戻し、決定的な細部にいくつかの変更を加えて、再生し、何が起こるかを確認するようなものである。適切に調整すれば、真の因果関係を、相関関係や偶然の事象と区別できるようになる。
このモデルを共同開発したスポティファイの因果推論研究室長であるシアラン・ギリガン・リーは、「原因と結果を理解することは、意思決定にとって極めて重要です」と言う。「現在のあなたの選択が、未来にどのような影響を与えるかを理解したいですよね」。
スポティファイの場合、その選択とは、ユーザーにどの曲を表示するか、あるいはアーティストが新アルバムを発表すべき時期はいつにすべきかということかもしれない。ギリガン・リー室長によると、スポティファイはまだ反実仮想を利用していないが、「私たちが毎日対応している問題に答えるうえで役立つ可能性があります」と言う。
反実仮想は直感的なものである。人はしばしば、これではなくあれが起こっていたらどうなっただろうと想像することで、この世界を理解することがある。だが、これを数学で表そうとすると、とんでもないことになる。
ギリガン・リー室長は、「反実仮想は、非常に奇妙に見える統計学的対象です」と言う。「考察の対象としては奇妙なものです。何らかの事象が生じなかったと仮定して、何かが生じる可能性を問うのですから」。
ギリガン・リー室長と論文の共同執筆者らは、MITテクノロジーレビューの記事でお互いの取り組みを知って共同研究を開始した。彼らは、ツインネットワークと呼ばれる反実仮想の理論的枠組みに基づいてモデルを作成した。
ツインネットワークは、1990年代にコンピュータ科学者のアンドリュー・バルケおよびジュデア・パールによって発明された。2011年にパールは、因果推論および人工知能(AI)の研究に対してコンピューター科学のノーベル賞といわれるチューリング賞を受賞した。
ギリアン・リー室長は、パールとバルケはツインネットワークを用いて、いくつかの単純な例題を処理したと言う。しかし、 …
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