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「空飛ぶクルマ」はいつ離陸できるか?
Archer Aviation
These aircraft could change how we fly

「空飛ぶクルマ」はいつ離陸できるか?

「空飛ぶクルマ」とも呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)の商用運航開始に向けて、複数のスタートアップがテスト飛行を繰り返している。 だが、商用化への課題は決して少なくない。 by Casey Crownhart2023.05.05

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

最近、私は少しばかり沼にハマってしまい、空飛ぶクルマにやや執着を持つようになった。空飛ぶクルマは、シリコンバレーで今話題になっているものだ。

いくつかの企業は航空産業は変革の時を迎えていると考えており、その多くは「eVTOL(electric Vertical Takeoff and Landing:電動垂直離着陸機)」という形でやってくると確信している。eVTOLとは、ヘリコプターのように離着陸し、飛行機のように飛ぶ小型航空機を表す言葉だ(ひどい頭字語だが、発音が気になる人のために補足すると、通常イーヴィートールと読む)。

eVTOLが実現して規制当局から承認を得た場合、フライトに対する私たちの考え方は大きく変わるかもしれない。だが、これは大きな「もしも」であり、この新たな空飛ぶクルマを実現するには、航空産業が答えを出さなければならない問いがいくつもある。それでは、eVTOLとは何なのか、どれほど実現に迫っているのか、気候変動対策として良いものなのか、見ていこう。

eVTOLとは何か、多くの企業がeVTOLの製造に取り組んでいる理由は?

新型の電動航空機にはさまざまな可能性があるが、基本的にeVTOLというカテゴリーには、垂直に離着陸するものならなんでも含まれる。その大半は私にとって、虫型ロボット、あるいは『007』シリーズの映画で悪役が乗っていそうな空飛ぶ何かのように見える。

eVTOLを既存の航空機と比べるのは難しい。一部では「空飛ぶクルマ」と呼ばれているが、eVTOLは通常、地上を走り回るようには設計されていない。空を飛ぶための機構は異なるが、電動ヘリコプターというのが一番近いのかもしれない。

呼び方はどうあれ、文字どおり数百社もの企業がeVTOLを空に飛ばすために動いている。

この空飛ぶクルマが航空便の新たな活用法を切り拓く可能性があるという点に、多くの熱い視線が注がれている。新たな活用法の例としては、地方への配送のラストワンマイルでの利用や、人や臓器の病院への輸送、あるいは大都市部での渋滞回避などがある。

おそらくこうしたニーズの中には、しっかりした公共交通機関があれば満たせるものもあるだろう(あるeVTOL企業がサービスの提供を計画しているようだが、ニューアーク・リバティー国際空港からマンハッタンの中心街まで空路で楽に移動する必要などないはずだ)。だが現在のインフラ、特に米国の状況を考えると、eVTOL企業は人々の移動の高速化に好機があると見ているのだ。

こうしたeVTOLの現在の状況は? 

航空産業における次の大変革を起こそうと動いている、資金豊富なeVTOLスタートアップは複数存在する。二大巨頭のジョビー・アビエーション(Joby Aviation)アーチャー・アビエーション(Archer Aviation)は、米国に拠点を置いている。ドイツのリリウム(Lilium)をはじめ、欧州を拠点とするスタートアップもいくつかある。

今のところ、商業運航しているeVTOLは存在しないが、複数の企業が2025年に商用サービスに参入する計画を発表している。 

現時点では、各社はプロトタイプを試験し、何ができるかをアピールしている段階だ。2月には中国のオートフライト(Autoflight)という企業が、eVTOLの最長航行距離の世界記録を更新したばかりだ。オートフライトのeVTOLは、これまでジョビー・アビエーション(Joby Aviation)が保持していた記録を1マイル(約1.6キロメートル)更新し、250キロメートルの距離を航行した。

だが、試験飛行ですばらしい結果が出ているにもかかわらず、商用eVTOLの就航が、実際にはどれだけ実現に近づいているのかという疑問は残っている。

規制当局から承認を得ることが、大きな障害となる可能性がある。米国およびEU(欧州連合)の規制当局は、eVTOLを特殊航空機に分類する予定で、従来の航空機とは異なる要件を満たさなければならない。とりわけ米国では、そのプロセス全体がどのように進んでいくのか、依然として不透明な点がある。

それでも一部の企業は、先を見据えて突き進んでいる。アーチャー・アビエーションは今年に入ってジョージア州に製造施設の建設を始めており、早ければ2024年には製造を開始し、最大で年間650機の航空機を製造できるという。

eVTOLの気候への影響は? 

化石燃料を動力源とする航空機を電動の航空機に入れ替えれば、気候に好影響を与えられる可能性がある。

従来型の航空機に関して言えば、平均的な送電網を利用して充電した電動飛行機は、化石燃料で駆動する飛行機に比べて二酸化炭素排出量をおよそ50%削減できる可能性がある。仮に再生可能エネルギーで発電した電力で充電した場合、二酸化炭素排出量の削減率は最大で88%まで跳ね上がる。残りの二酸化炭素排出量の大半は電池製造によるものだ。電動航空機はおそらく頻繁に航行と充電を繰り返すことになるため、1年程度で電池の交換が必要になるだろう。

だがeVTOLの気候への影響に関しては、eVTOLが化石燃料を動力源とする従来の航空機に取って代わるものではない、という点が重要だ。eVTOLの狙いは航空便の拡張なので、列車や自動車のような地上を走る車両と比較する必要があるかもしれない。

それほど多くの分析があるわけではないが、ある研究によると、100キロメートル移動する場合、eVTOLはガソリン車よりも二酸化炭素排出量が30%少ないことが明らかになったという。だが、eVTOLの二酸化炭素排出量は電気自動車に比べて約30%多いようだ。

関連記事

  • eVTOLのさらに詳しい情報について、より従来型に近い航空機から着手すると決めたある企業に注目したこちらの記事をお読みいただきたい。
  • 水素燃料の航空機は、今年の「ブレークスルー・テクノロジー10」の読者投票で11位にランクインしている。詳しくはこちら

サマータイムをやめよう

恐れずに言うと、サマータイムはくだらないと思う(いや、時間の変更は私の気分に少しばかり影響を与えているのかもしれない)。

秋に時計を1時間戻し、春に1時間進めるサマータイムは、省エネ策として始まった。だが、サマータイムは私たちの健康に悪影響を与えている上、省エネにもあまり効果を発揮していない。

人為的に時間を変更することは、人間の行動にそれほど影響していないようだ。電力を追跡調査した分析の大半が、電力消費量の節約にはごくわずかな効果しかないことを明らかにしている。2017年の分析によると削減率はおよそ0.34%、米国エネルギー省による2008年の議会への報告では、電力消費量削減効果はおよそ0.5%とまとめられている。

私たちは皆で代替案に合意し、この狂気の沙汰を止める必要がある。それでは、このあたりで私の演説は終わりにしよう。

気候変動関連の最近の話題

  • 新たな政策が、米国の採掘業界と鉱物精製業界の急成長に拍車を掛けるかもしれない。本誌のジェームス・テンプル編集者が、米国エネルギー省のデイヴィッド・ターク副長官に、米国にとっての重要鉱物の未来について話を聞いた。(MITテクノロジーレビュー
  • バイデン政権が、アラスカでの新たな大規模石油採掘計画を承認。活動家たちは、化石燃料の増産は気候目標に合致しないと指摘。(AP通信
  • 米国エネルギー省、重工業の二酸化炭素排出量削減に向けた60億ドルの計画を発表。この予算が、米国の二酸化炭素排出量の約4分の1を占める産業にとって重要な支援となるかもしれない。(キャナリー・メディア
    → 昨年私は、電気で製鉄の改革に取り組むスタートアップについて書いた。(MITテクノロジーレビュー
  • 微生物ミルク。一部の企業が、牛や植物のミルクと張り合えるような、酵母や真菌を設計して作った製品に期待を寄せている。(ワシントンポスト紙
  • ユタ州のグレートソルト湖がトラブルに見舞われている。気候変動と水需要の増加により、「有害なゴミ爆弾」へと変わってしまう恐れがある。だが、カリフォルニア州のある湖が、破滅を避けるための見通しを与えてくれるかもしれない。(グリッド・ニュース
  • 私はこのフロートヴォルタイクス(水面に浮かぶ太陽光パネル)の写真が気に入った。これは土地利用において予想される懸念を解決する1つの方法だ。(ブルームバーグ
  • アップルが、アイフォーンの充電を再生可能エネルギーの供給力に合わせて調整する設定を新たに追加した(日本語版注:2023年3月時点では、この機能は米国内でのみ利用可能)この機能は小規模ながらもデマンドレスポンスの興味深い一例であり、よりエネルギー消費の大きい電気自動車などにも有効かもしれない。(ワシントンポスト紙
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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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