スポンサー付き「メタバース・ウェディング」、新トレンドになるか?
コロナ禍で落ち込んでいた結婚式の開催件数が回復する一方で、バーチャル空間で結婚式を挙げる「メタバース・ウェディング」が一部で人気だ。スポンサーが付くことで費用を抑えられる場合もあるが、式を挙げたカップルはどう感じているのだろうか。 by Tanya Basu2023.03.19
シール・モーノットとアムルタ・ゴッドボールは2月に結婚した。しかし、普通の結婚式ではなかった。大手ファーストフード・チェーンのタコベル(Taco Bell)がスポンサーになって、バーチャル・プラットフォームであるディセントラランド(Decentraland)で開催されたのだ。
私も出席しようとした。バーチャル空間を取材する記者として、また同じインド系米国人として興味をそそられたからだ。インドの文化では結婚式がとても重要であり、それがデジタルでどう展開されるのか見てみたかったのだ。
だが残念ながら最初のサインインを完了できず、画面が何度もクラッシュしてしまった。あまりに不具合が多く、数分後には式を見るのを諦めざるを得なかった。ただし、公正な立場で言えば、そうなったのは私だけだったのかもしれない。インドにいるモーノットの祖母をはじめ、他の人たちは最後まで見ることができたのだから。
それにしても不思議に思った。なぜメタバースで結婚式を挙げようと思う人がいるのだろう。このような結婚式、とりわけスポンサー付きの結婚式は定着するのだろうか。それとも、実質現実(VR)が宣伝効果に見合わなければ消えてしまうのだろうか。
「ぶっ飛んでいるし、私たちが考えていた式とは明らかに違いました」とモーノットは言う。しかし2人は、普通と違うことをしたかったのだそうだ。目新しさだけでない。モーノットとゴッドボールの狙いは単純明快で、無料で結婚式を挙げることだった。モーノットはタコベルの大ファンであり、2人はアバターや演出など、バーチャル・ウェディングの技術的な部分を同社に負担してもらうためのコンテストに参加した。そして見事当選したのだ。交換条件として、タコベルは自社のブランドロゴをあちこちに貼り付けた。
タコベルにとってこの式は、マーケティングのチャンスであっただけでなく、ファンが求めていたものだった。ラスベガスにある同社のレストラン「タコベル・カンティーナ(Taco Bell Cantina)」のチャペルでは、これまでに800組のカップルが結婚式を挙げている。真似してバーチャル・ウエディングを実施した人々もいる。「タコベルは、自社のファンがメタバースで交流しているのを見て、彼らがいる場所で文字どおり開催することにしたのです」と同社の広報担当者は話す。そう、ホットソースの袋が踊り、タコベルをテーマにしたダンスフロア、モーノットのためのターバン、そして有名なベルのブランドマークがいたるところにある場所でだ。
デジタルプラットフォームの構築やカスタマイズを企業に手伝ってもらう見返りとして派手なブランディングをさせることに目をつむれば、バーチャル・ウェディングでは、通常の結婚式ではできないようなことができる。例えば、モーノットは象に乗ったアバターの姿で式場に乗り込んで新郎のための婚前の行進「バラート(Baraat)」に参加した。楽しい儀式だが、特に2人が住むサンフランシスコでは、現実の式で実施しようとすると手配が相当に困難だろう。
しかし、結婚式を効力のあるものにするのは簡単ではなかった。ユーチューブ(YouTube)で自分たちのライブストリーミングを同時配信することで、素顔が見えるという法的要件を満たす必要があったからだ。というのも、この式の司式者がいるユタ州を含むいくつかの管轄区域では、リモートでの結婚式は、参加者がビデオで視聴できる場合にのみ法的拘束力があると認められているのだ。
多くのカップルは、そんな面倒なことはしたくないと思うだろう。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響でバーチャル・ウェディングが急務となったが、2022年は従来の対面式のウェディングが復活した。ウェディング・レポートによると、2020年に開かれた結婚式は130万件だったが、2022年にはおよそ250万件だったという。
では、なぜメタバースで結婚式を挙げるのだろうか。ハワイで「ジャスト・マウイ・ウェディング(Just Maui Weddings)」を経営するクラウス・バンディッシュによれば、コストの安さに魅力を感じている人もいるという。現実世界での結婚式も主催している同社には、メタバースでの挙式も数カ月前から予約が入っているという。
「120人待ちで、週に少なくとも2回のメタバース・ウェディングをしています」とバンディッシュは言う。「通常、当社のバウ・リニューアル・プランは約1000ドルで、お2人がアバターをご希望の場合、それぞれ300ドルずつをお支払いいただいております」。
これは、米国で開かれる標準的な結婚式と比べると非常に手頃な価格だ。ウェディング企業のザ・ノット(The Knot)によると、2022年の挙式には平均3万ドルかかっているという。
そしてもちろんバーチャル・ウェディングなら、ブランドがスポンサーになっていれば、さらに手ごろな価格となる。モーノットとゴッドボール以外にも、そのことに気づいたカップルはたくさんいる。デジタルプラットフォーム企業のヴァ―ベラ(Virbela)は2021年に、2人の従業員、ガニョン夫妻(デイヴとトレイシー)のためにバーチャル・ウェディングを開催した。メタバースにオフィスを構える法律事務所、ローズ・ロー・グループ(Rose Law Group)がスポンサーとなって、バウ・リニューアルのセレモニーをしたカップルもいる。インドに住むまた別のカップルは、メタバース・ウェディングに向けて、コカ・コーラをはじめとする一連のスポンサーシップを獲得した。
メタバース・ウェディングでは、親しい人たちに家にいながら参加してもらうことも可能だ。トレイシー・ガニョンにとって、バーチャル・ウェディングで特に感動的だったのは、末期がんで移動できない親しい友人にバージンロードを歩いてもらったことだ。「彼女は一晩中踊っていました」とガニョンは言う。「とても楽しく、美しいものでした」。
しかし、メタバース・ウェディングの明確な欠点は、現実味のなさだ。花の香り、音楽の音色、ハグやキス、笑いや涙など、結婚式は深い感覚を伴う体験となる。その多くはバーチャルな環境では再現不可能だ。メタバース・ウェディングは、結婚式というよりも、インタラクティブなテレビゲームのように感じてしまうかもしれない。
しかし私が話を聞いたカップルは、親しい人たちが「そこにいる」だけで、この欠点を打ち消すことができたと言う。トレイシー・ガニョンは、物理的に同じ空間を共有していないにもかかわらず、ゲストとのつながりを感じることができたと詳細に語ってくれた。
ゴッドボールとモーノットは、VRの煩わしい部分さえも愛おしく感じたという。「式の最中に子どもがスクリーン上を走り回るようなこともありましたが、気になりませんでした」とゴッドボールは言う。「普通の結婚式よりインタラクティブでした。普通は黙って座っているだけで何も起こりません。バーチャル・ウェディングの場合、アバターを通して自分の感情を同時に表現することができます。何にも邪魔されることはありません」。
メタバース・ウェディングを検討する前に、多くのカップルや家族が悩むであろう残された問題は、感情面だ。バーチャルのアバターが誓いの言葉を交わし、キスをして、本当に結婚したと思えるのだろうか。
モーノットとゴッドボールは、バーチャル・ウェディングを終えた後の自分たちの感情の高まりに驚いたと言う。「バーチャル・ウェディングは、楽しくてちょっと変わった、ユニークな体験の一部にしかならないだろうと思っていました」とゴッドボールは言う。「でも、私が期待していたよりもずっと実感の湧くものでした」。
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- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。