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「3人の遺伝的親」療法では
ミトコンドリア病は防げない
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Three-parent baby technique could create babies at risk of severe disease

「3人の遺伝的親」療法では
ミトコンドリア病は防げない

「ミトコンドリア病」という重篤な遺伝疾患を防ぐ手段としての「3人の親」から子どもを作る手法は、完全な対策にはならないことが明らかになりつつある。 by Jessica Hamzelou2023.03.30

遺伝的に「3人の親」を持つという、議論を呼ぶ手段を使い、2016年に最初の赤ちゃんが生まれたとき、大きな話題になった。その男の子が受け継いだDNAは、ほとんどが父親と母親からのものだったが、そこにはわずかに第三者からのDNAも含まれていた。

それは、赤ちゃんに致死的なミトコンドリア病を遺伝させないための処置だった。彼の母親は、ミトコンドリア内に病気の遺伝子を持っていたのだ。その遺伝子をドナー(第3の遺伝的な親)のものと交換すれば、赤ちゃんが病気を発症するのを予防できる可能性があった。この方法は、うまくいったように見えた。現在では、英国、ギリシャ、ウクライナなどの病院でも同じ治療法が提供されている。オーストラリアでは2022年、この治療法が合法化された。

しかし、この治療法は必ずしも成功するとは限らない。MITテクノロジーレビューは、この手段で授かった赤ちゃんに、科学者たちが「リバーション(Reversion)」と呼ぶ症状が現れた2つの事例を把握している。どちらの事例においても、子どもが母親から受け継いだミトコンドリア遺伝子の割合が時間の経過とともに増加した。胚の状態では1%未満だったのが、一方の赤ちゃんでは約50%に、もう一方では72%になったのだ。

幸いにも、赤ちゃんは2人ともミトコンドリア病の遺伝子を持たない両親のもとに生まれていた。2人の両親は、不妊治療のためにこの手法を利用したのだ。しかし、この研究に携わっている科学者たちは、3人の親を持つ方法で生まれた赤ちゃんのおよそ5人に1人が、最終的には母親のミトコンドリア遺伝子を高い割合で受け継ぐ可能性があると考えている。疾患を引き起こす突然変異を持つ人から誕生する赤ちゃんにとって、この事実は大きな災難だ。悲惨な、致死的になりうる病気を持って生まれる可能性が残るからだ。

この知見により、一部の病院は、少なくともリバージョンが起こっている理由が判明するまで、ミトコンドリア病に対するこの技術の使用を再考しようとしている。ベルギーのゲント大学に所属し、長年にわたってこの治療法を研究しているビョルン・ヘンドリック教授は、「ミトコンドリア病は破滅的な結果をもたらします」と話す。「この治療法を継続すべきではありません」。

「(ミトコンドリア病に対して)この方法を提供するのは危険です」と話すのは、ウクライナのキーウにあるナディア不妊治療院(Nadiya Clinic of Reproductive Medicine)に勤めるパブロ・マズール胚培養士だ。マズール胚培養士は、リバージョンが起こってしまった例の1つを直接目にしたことがある。

3人の親を持つ赤ちゃんたち

ミトコンドリアは、ヒトの細胞内にある細胞質で浮遊する小さな「エネルギー工場」である。私たちのDNAのほとんどは細胞の核内に収まっているが、ミトコンドリアの中にもごく一部が存在する。このミトコンドリアDNA(mtDNA)は、母親のものだけが子どもに受け継がれる。

そのため、mtDNAに病気を引き起こす突然変異がある場合は問題になる。ミトコンドリア病は、米国ではおよそ4300人に1人が発症する珍しい病気だ。ミトコンドリア病の症例のうち、どれほどがmtDNAの突然変異によって起こるもので、他の遺伝的変異によるものではないのかということについて、研究者たちは解明に取り組んでいる最中だ。ミトコンドリア病は、失明、貧血、心臓病や聴覚障害などの深刻な症状を引き起こすことがあり、中には死に至るケースもある。

そこで科学者たちは、母親と父親からのDNAに加えてドナーからのmtDNAも使用する手法を開発し、ミトコンドリア病の発症を防ごうとした。この手法は一般的に、ミトコンドリア置換法(MRT:Mitochondrial Replacement Therapies)と呼ばれている。

ミトコンドリア置換法にはいくつかの異なるやり方があるが、ほとんどのチームは2つの手法のいずれかを採用する。1つは、親になる人物の卵子と、ドナーの卵子からそれぞれ核を抜き取る方法だ。そして親になる人物の核を、細胞質が満ちている状態にあるドナーの卵子に入れる。細胞質は核の外側の液体で、ミトコンドリアを含んでいる。こうして準備した卵子を精子で受精させると、厳密には3人の遺伝的な親を持つ胚を作ることができる。

もう1つの方法では、まず接合子と呼ばれる受精卵を作る。次に、この接合子からDNAごと核を抜き取り、核を取り除いておいたもう一方の受精卵に移植する。こうして作られる接合子にも、3人の遺伝的な親が存在する。

ミトコンドリア置換法によって生まれている赤ちゃんの正確な数は、誰も把握していない。主に学術会議の場で、複数の医療機関がわずかな症例を報告している。英国にあるニューカッスル不妊治療センター(Newcastle Fertility Centre)で臨床試験が公式に始まったのは、2017年のことだ。

以来、英国の監督機関である受精・胚研究認可庁(HFEA:Human Fertilisation & Embryology Authority)の承認委員会が公開した議事録によると、ニューカッスル不妊治療センターは、ミトコンドリア病を子供に遺伝させてしまう可能性のあるカップル30組に対して、ミトコンドリア置換法を実行するための管理当局の承認を取得している。しかし、研究チームは固く口を閉ざしており、同じ分野の他の研究者と研究結果を共有することも避けている。

他のいくつかのチームは、この治療法が不妊症治療として有効かどうかを解き明かそうとしている。多くのカップルが原因不明の不妊症に苦しんでいる。そして、卵子の細胞質中のタンパク質の組み合わせが、何らかの形で不妊に影響しているのではないかと考えられている。ミトコンドリア置換法では、卵子の細胞質を別の卵子の細胞質と交換することになる。そのため、この手法が一部の不妊の治療に役立ち、体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)の成功率を高めるかもしれないとの意見がある。

オックスフォード大学で生殖生物学を研究しているデイガン・ウェルズ教授は、そう考えているチームの一員である。ウェルズ教授とその同僚は、この手法がどれほど安全なのかについても調べようとしている。シャーレ内の細胞やサルの細胞での研究結果は、ミトコンドリア病を防ぐ方法としてミトコンドリア置換法が必ずしも有効とは限らないことが示されている。これがヒトにも当てはまれば、深刻な結果を招きかねない。

細胞の交換

核DNAを抜き取るとき、mtDNAを含む細胞質の一部も一緒に採取してしまう。これを完全に避けることは難しい。胚培養士は、細胞質の一部も採取してしまういわゆる「キャリーオーバー」を、胚のmtDNA全体に対して1%未満に抑えることに成功した。オレゴン健康科学大学の胚生物学者で、ウェルズ教授との共同研究に取り組んでいるシュークラト・ミタリポフ教授は、「残りの99%が健康なので、普通ならその1%について心配する必要はありません」と言う。

だがミタリポフ教授らの研究は、この数値が時間の経過とともに増加する可能性を明らかにした。科学者たちはこの現象を「リバージョン」と呼ぶ。リバージョンは、母 …

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