青木俊介:完全自動運転EVで「テスラ越え」目指す起業家
「テスラを追い越す」を標語に掲げる自動運転スタートアップのチューリング(TURING)。最高技術責任者(CTO)の青木俊介は、実際に自動運転自動車をゼロから丸ごと製造して、ユーザーの手元まで届けることを目指している。 by Kazumichi Moriyama2023.03.14
「遅くとも2030年には完全自動運転はできる」。そう語る⻘木俊介が案内するオフィスに入ると、メンバーがみんな若いことに軽い驚きを覚えた。スタートアップは若いメンバーから構成されていることが多いものだが、その中でも、ズバ抜けて若い印象だ。インターンかとも思ったがそうではなく「新卒で入ったメンバーもいる」という。彼らの意識は高く、「人類のためにこの技術は大事だと考えて」参画しているという。
- この記事はマガジン「世界を変えるU35イノベーター2022年版」に収録されています。 マガジンの紹介
チューリング(TURING)は、「完全自動運転EVの量産メーカー」を目指すスタートアップ。最高経営責任者(CEO)は、機械学習を使った将棋AI「ポナンザ(Ponanza)」の開発者として知られ、名古屋大学特任准教授でもある山本一成。そして最高技術責任者(CTO)を務めるのは、カーネギーメロン大学(CMU)で自動運転を研究していた⻘木俊介。この2人が2021年8月に共同設立した企業だ。
2022年7月にはシードラウンドで10億円の資金を調達。9月末から10月初頭には自動運転で北海道を1周する実験に取り組み、総距離1480キロメートルのうち約95パーセントを人工知能(AI)による自動運転で走破した。同社は高価なライダー(LiDAR:レーザーによる画像検出・測距)やミリ波レーダーにはこだわっていない。カメラのみを用いている。
「カメラは情報量がものすごく多いんですよね。視覚情報は人間の脳も十分に処理できていないと言われているくらいです。ライダーを触っていた時期もありますが、カメラに比べると扱われる範囲が限られていて、プレーヤーが圧倒的に多いカメラのほうが分野としての発展も速い。カメラに関わる人たちがもっと入ってこられる自動運転の会社を作ってあげれば、ビジョンで勝てると思っています」
本記事でインタビューした青木氏が登壇するイベントが2024年4月24日に開催されます。詳しくはこちら。
カメラからの情報を入力、ハンドル角度や経路などを出力とした訓練データを使って大規模基盤モデル(大量かつ多様なデータで訓練され、高い汎化性を持つネットワーク)を作り、それを使った自動運転技術を開発をしている。
「自動運転はレベル1から4、そして5へと徐々に進むと思っている人が多いがそうではありません」と⻘木は語る。目標は「レベル5」、すなわち一切の条件なく、事前に製作された高精度3次元地図などもない状態で、どこででも自律走行できるクルマの実現だ。
チューリングは、自動運転システムの要素開発や、作り込まれたテストコースでデモ走行するのではなく、実際に自動運転自動車をゼロから丸ごと製造して、ユーザーの手元まで届けることを目指している。ここが他の自動運転スタートアップとは大きく異なる点だ。
Webサイトには「We Overtake Tesla(テスラを追い越す)」という文言が掲げられている。「この領域でナンバーワンの企業はテスラだ。だったらテスラを越えるしかない」と考え、山本の指示のもと、⻘木が考えた標語である。チューリングの社名を決める前にテスラの年表を作って分析し、ステップを描いた。完成車メーカーになることを目指し、2025年に100台、2030年には1万台の生産と販売をマイルストーンに置いている。
自動運転技術にスタートアップとして取り組むメリットは「なぜやっているのですか?」と誰も質問しないことだと⻘木は言う。
「2015年くらいから8年間くらい取り組んでいますが、『なぜ自動運転を研究しているのですか?』と、誰も聞かないんですよね。これはすごいことだと思います。『できるとうれしい』とみんな勝手に思ってくれる。これはエンジニアにとってすごく幸せなことです。論文で言うと、1ページ目の『研究の目的』を書く必要がありません。『自動運転をやります』と言えば、みんな話を聞きに来てくれるのです」
つまり、自動運転が普及すれば社会に大きなインパクトを与えられることは自明というわけだ。その自動運転自動車をユーザーに届け、産業規模に拡大できる次世代の国産自動運転メーカーを作る。それがチューリング、そして⻘木自身の目標だ。
所有欲を刺激する自動運転自動車を開発するために
チューリングは2022年4月から、千葉県柏市にある「柏の葉スマートシティ」に拠点を構えている。ドローンやモビリティ開発用のテストフィールドがあるからだ。自動車は …
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