KADOKAWA Technology Review
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カルティエ、ティファニーが「AR試着」に取り組む理由
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Cartier and Tiffany are getting into AR to sell luxury to Gen Z

カルティエ、ティファニーが「AR試着」に取り組む理由

カルティエとティファニーは、Z世代のユーザーが多いデジタルプラットフォームで、高級品を試着する拡張現実(AR)キャンペーンを実施している。将来における購入に結びつけるのが狙いだ。 by Tanya Basu2023.03.23

最近、ほのかな明かりの中で金属とダイヤモンドが輝くのを見ながら、カルティエの腕時計「タンク」とティファニーのブレスレットをたくさん試着した。店に行ったわけではない。私がいたのはベッドの中だ。裸足でスウェットパンツを履いたまま、スナップ(Snap)の拡張現実(AR)体験を利用して、手首にジュエリーを着けた様子を確認したのだ。

カルティエとティファニーのARキャンペーンは、スナップがバーチャル試着体験を使って両ブランドと実施しているコラボレーション・シリーズの最新作である。Z世代に高級品の購入を促すのが狙いだ。ちなみに、カルティエのタンクは2790ドルから、ティファニーは最安値の「ロック」バングルが6900ドルである。

カルティエやティファニーは、スナップのARと提携した最初のブランドではない。ルイ・ヴィトンは、アーティストの草間彌生とコラボレーションしたばかりだ。草間のトレードマークになっている水玉で、世界中のランドマークを覆うことができるフィルターを共同で作成した。スナップはすでに、ディオール、グッチ、プラダとも、バーチャル試着テクノロジーを使ったコラボレーションをしている。

「ブランドは、世の中をもう少しインタラクティブで楽しいものにするために、Z世代が大部分を占めるスナップチャット(Snapchat)のコミュニティを活用しているのです」と、スナップのラグジュアリー部門で責任者を務めるジョフリー・ペレツは言う。

カルティエのタンク試着体験は、拡張現実フィルターを使って、ユーザーをパリにあるアレクサンドル3世橋へと転送する。バーチャル体験では、過去106年間のさまざまな時代の時計4種類を見て、橋の周囲や近くの歩行者を眺めながらそれぞれの年代を感じ取ることができる。

一方で、ティファニーはレイトレーシング・テクノロジーを使う。これはビデオゲームのテクノロジーで、ARオブジェクト上の光の動きをよりリアルに捉えるものだ。ジュエリーメーカーの場合、金属やダイヤモンドの独特な輝きをARの世界で実現できるようになる。カルティエもティファニーも、コメントの求めには応じなかった。

ジョージア大学の博士課程に在籍しているジヨウ・ジアンは2022年の衣料品カンファレンスで、ARがZ世代に与える影響について論文を発表した。ジアンはZ世代の134人を対象に、ARが購入決定に影響を与えるかどうか、そしてどのように影響しているのかを調査した。その結果、ARで遭遇した製品を買いたいと思わせる要因が2つあることを発見した。インタラクティブ性とバーチャル体験である。

カルティエが演出するタイムトラベル体験は、インタラクティブ性の一例である。ジアンによると、Z世代は広告で製品を見せられることを必ずしも望んでおらず、それよりも大きなストーリーや活動の中で、製品がどのようにフィットするのかを見たいのだという。それはARが得意とする独特の分野である。

それに対し、ティファニーの試着が示すのは、バーチャル体験の重要性だ。「AR内の製品は、店舗で見る本物と同じように見えることが求められています」とジアンは言う。ジュエリーなら、宝石の輝きを可能な限りリアルにする必要がある。

ジアンは、高級品がARによってインタラクティブ性とバーチャル体験を作ることができれば、購入意思を生み出すことを見い出した。もっとも、人々が実際に、すぐさま製品を買うわけではない。現時点では金銭的な余裕がないかもしれないし、意見をもらおうと友人や家族に画像を共有したいと思うだけかもしれない。だが、AR体験が印象的なものであれば、Z世代の消費者は将来的にはそれを購入しようと心に留めておくだろうとジアンは言う。

スナップの広報担当者は、ティファニーやカルティエの体験ユーザーのうち、何人がブランドのジュエリーを実際に購入したかの情報は開示していない。しかしジアンの調査結果は、実際の購入傾向によって裏付けられている。経営コンサルティング会社のベインが2023年1月に公開した報告書によると、経済の減速にもかかわらず、高級品市場は堅調に成長しているという。またそれだけでなく、2010年から2020年の間に生まれたZ世代とアルファ世代が、2030年までに高級品市場の顧客の3分の1を占めることが予測されている。Z世代の消費者はまた、15歳で最初の高級品を購入している。これは他の世代よりも早く、ミレニアル世代と比べれば5年早い購入時期だ。

高級ブランドがAR体験を強化しているのは、これが理由かもしれない。店舗訪問や製品に触れる機会は、顧客のブランド品購入意欲に大きく作用する。そのため、パンデミックはブランドにとって厳しいものだったとジアンは言う。ARはその問題を解決し、高級品へのアクセスをこれまでよりも容易にする。あなたが、スウェットパンツを履いたままであってもだ。

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人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。
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