世界初の太陽地球工学実験、英国で2022年に実施か
持続可能エネルギー

Researchers launched a solar geoengineering test flight in the UK last fall 世界初の太陽地球工学実験、英国で2022年に実施か

英国で2022年9月に実施された太陽地球工学の野外実験は、世界初の科学実験だった可能性がある。機器の試験が目的とされるが、実験が強行された背景には、太陽地球工学者の焦りと不満があるのかもしれない。 by James Temple2023.03.15

2022年9月、英国のある研究者が高高度気象観測気球を飛ばし、数百グラムの二酸化硫黄を成層圏に放出したことが、MITテクノロジーレビューの調査によってこのほど明らかになった。太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)分野における、初の科学実験だった可能性がある。

太陽地球工学とは、地球が宇宙に跳ね返す太陽光を意図的に増やすことで、地球温暖化を緩和できるという理論だ。具体的には、成層圏への二酸化硫黄の放出が手段の1つとして考えられている。大規模な火山噴火後に地球が寒冷化する冷却効果のメカニズムを真似たものだ。ただし、意図せぬ結果になる可能性が懸念されるなど、さまざまな問題が指摘されているため、物議を醸している分野でもある。

今回明らかになった英国での取り組みは、地球工学自体の試験や実験ではなかった。MITテクノロジーレビューが入手した詳細情報によると、表向きの目的は、低コストで制御かつ回収が可能な気球システムの評価だった。 こうした気球システムが実現すれば、小規模の地球工学研究、または最終的には多数の気球を分散型の地球工学の展開にも使えるかもしれない。

今回の気球システムは「成層圏エアロゾル輸送・核生成(Stratospheric Aerosol Transport and Nucleation)」、略してSATANと呼ばれている。愛好家向けに市販されている部品で作られており、ハードウェアの費用は1000ドルに満たない。

昨年のこの取り組みを主導したのは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・ロックリー研究員だ。ユーロピアン・アストロテック(European Astrotech Ltd.)という、高高度気球や宇宙機の推進装置のエンジニアリング・設計企業が協力した。

研究成果は論文として学術誌に提出されているが、まだ掲載されていない。ロックリー研究員は、掲載前の論文の内容についての議論を拒否したが、科学的なプロセスが正しく守られていないとして苛立ちを露わにした。

「漏洩者は地獄に落ちろ!」。ロックリー研究員は、MITテクノロジーレビュー宛のメールにそう綴っている。「私は正式かつ厳しい手順に従って、査読結果を待っていました。しかし、同僚が悪魔の囁きに負けて内容を漏らしてしまったようです」。

「地獄には、同僚の研究を漏洩した研究者専門の場所があります。燃え続ける硫黄で悶え苦しむ場所です」。ロックリー研究員はこう書き添えている。「でも、私は沈黙の誓いを立てています。だから、私からはっきりお伝えできるのは、私たちの気球が意図した通りに天空に舞い上がったということだけです。この試験が、気候変動という地獄の炎から人類を救うのに少しでも貢献できることを願うばかりです」。

ユーロピアン・アストロテックにも問い合わせたが、回答はまだない。

試験飛行

実験で使われたのは、ヘリウムまたは水素を満たして上昇する気球だ。この気球には、ある程度の二酸化硫黄を上空に運ぶために、バスケットボール大のペイロード気球が取り付けられていた。MITテクノロジーレビューが入手した詳細情報によると、今回の取り組みに先立つ2021年10月の飛行においても、成層圏に微量の二酸化硫黄が放出された可能性がある。しかし、搭載されていた機器に問題が発生したためシステムを回収できず、実際に放出されたかどうかは確認できなかったようだ。

2回目となる今回の試験飛行では、ペイロード気球は上昇に伴って気圧が下がるため膨張し、地上約24キロメートルで破裂。約400グラムの二酸化硫黄を成層圏に放出した。これは、地球工学関連の取り組みで、測定された気体が成層圏に放出されたことを確認できた、初めての事例かもしれない。2021年と今回の気球は、イングランド南東部のバッキンガムシャーの発射基地から打ち上げられた。

二酸化硫黄を成層圏に放出する試みは、ほかにもある。メイク・サンセッツ(Make Sunsets)というスタートアップの共同創業者は2022年4月、メキシコで2回、原始的な気球を打ち上げ、二酸化硫黄を放出しようとしたという。この件については、MITテクノロジーレビューでも2022年末に報じたとおりだ。し …

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