解説:ビットコインはなぜ、プルーフ・オブ・ワークを捨てられないか
暗号通貨のビットコインが大量の電力を消費する理由は、プルーフ・オブ・ワークという仕組みにある。イーサリアムは異なる仕組みに移行することに成功したが、ビットコインはどうか。 by Amy Castor2023.05.31
2022年、イーサリアム(Ethereum)はグリーンになった。数ある暗号通貨プラットフォームの中でも2番目に大きな人気を誇るイーサリアムが、プルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake)に移行したのだ。プルーフ・オブ・ステークとは、新たなトランザクション、NFT、およびその他の情報のブロックをブロックチェーンに追加する処理を担う、エネルギー効率が高いフレームワークのことだ。イーサリアムが9月に完了させたこの更新は、「ザ・マージ」と呼ばれている。更新後、イーサリアムによる直接的なエネルギー消費量は、99%も減少した。それに対して、ビットコインは依然として多くのエネルギーを消費し続けている。その消費量は、フィリピン全体のエネルギー消費量に等しい。
ビットコインは、採掘(マイニング)というプロセスを経て生み出されて管理される。ビットコインの採掘は計算負荷が高く、世界的に懸念を集めるようになっている。中国は、2021年にビットコインの採掘を禁止した。その後採掘者(マイナー)たちは、エネルギーを安価で入手できる地域を探した。そのような地域で利用できるエネルギーは、クリーンなものばかりではなかった。カザフスタンなどの地域では、採掘者の流入で送電網に負荷がかかり、地域によっては停電が発生して社会不安を増大させている。そして、その送電網に流れている電力の多くは、二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電所からのものだ。アップステート・ニューヨーク(ニューヨーク州の北部、中部、西部)では、採掘者が閉鎖された工場や空の倉庫に居座っている。近隣の人々からは、エネルギー価格が高騰している、そしてデータセンターのファンの回転音が甲高くて耳障りだという苦情が出ているほか、採掘による環境への負荷を懸念する声も増えている。現在のビットコインの全採掘活動の38%は米国だ。
ビットコインの1回のトランザクションは、米国の1世帯が1カ月近くかけて消費するエネルギーと同じ量のエネルギーを食い潰す。これほどエネルギー効率が悪い方法しかないのだろうか。ビットコインのコミュニティはこれまで、変革を強く拒んできた。しかし、ビットコインの巨大な二酸化炭素排出量を問題視する規制当局や、環境活動家の働きかけによって、こうした頑迷な姿勢を見直さなければならない状況に追い込まれる可能性がある。
中国に限らず、カザフスタン、イラン、シンガポールなど様々な国が暗号通貨の採掘に上限を設定している。2023年4月には、欧州議会が画期的な暗号通貨規制法案となる暗号資産市場法(MiCA:Markets in crypto-assets)を可決した。この法律は暗号通貨企業に、環境関連の情報を開示することを義務付けている。暗号資産市場(MiCA)法は、2024年中に施行される見込みだ。
欧州連合では、その後も規制の動きが続く可能性がある。欧州中央銀行(European Central Bank)は、政府が電気自動車の普及を目的にガソリン車を禁止する世界において、ビットコインが二酸化炭素を引き続き垂れ流している現状を放置するのは想像できないと、以前発表している。暗号通貨によるエネルギー消費を追跡しているWebサイトであるデジコノミスト(Digiconomist)を運営しているデータ科学者のアレックス・デ・フリースは、「一部の欧州議会議員の間では、なぜビットコインがイーサリアムと同じように変革しないのかと、すでに疑問が広がっています」と、MITテクノロジーレビューに語っている。
ビットコインによる二酸化炭素排出量を規制しようとする取り組みは、米国でも加速しつつある。11月には、ニューヨーク州が米国で初めて、化石燃料火力発電所からの電力を利用して暗号通貨を採掘しようとする活動に新たに許可を出すことを一時的に禁じる法律を制定した。また、この新たに制定された法律は、ニューヨーク州に対して、暗号通貨の採掘がニューヨーク州による温室効果ガス排出量削減の取り組みにどのような影響を与えているかを調査することも義務付けている。
では、ビットコインがプルーフ・オブ・ステークに移行するには、何が必要なのだろうか。
プルーフ・オブ・ワークとプルーフ・オブ・ステーク
暗号通貨には、銀行のように公開台帳を監視する中央集権的な管理者は存在しない。公開台帳とは、ブロックチェーン上のすべてのトランザクションの共有デジタル記録のことだ。暗号通貨はその代わりに、公開台帳の更新に、合意メカニズムを採用している。ビットコインが採用しているアプローチである「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)」では、世界各地の「採掘者」と呼ばれるコンピューターのネットワークが、宝くじを当てようと試みるような作業をし、その過程で電力を消費する。当選した採掘者は、公開台帳に次のブロックを追加して、その過程で新たなコインを獲得できるのだ。当選確率は、採掘者による計算量に直接比例する。そのため、ビットコインの宝くじに当選することを唯一の目的とする巨大なサーバーファームが世界各地で整備された。
イーサリアムが新たに採用したアプローチであるプルーフ・オブ・ステークでは、大量のエネルギー消費という問題が解決されている。プルーフ・オブ・ステークのシステムでは、採掘者の代わりに、大量の「検証者(バリデーター)」を採用している。検証者になるに …
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