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万引き通報で出動・追跡も、
米で「ドローン警察」が浸透
プライバシーは置き去り
Bing Guan/Bloomberg via Getty Images
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Welcome to Chula Vista, where police drones respond to 911 calls

万引き通報で出動・追跡も、
米で「ドローン警察」が浸透
プライバシーは置き去り

米国の一部の都市の警察で、ドローンの導入が急速に進んでいる。警察官の代わりに、事件現場に最初に到着するケースもあるという。プライバシーの議論は置き去りにされたままだが、10年前とは市民の意識も変化しているようだ。 by Patrick Sisson2023.03.17

カリフォルニア州チュラビスタ市では、1日10時間・週7日間にわたって、警察が市内の4つの拠点からドローンを飛ばしている。この街では、無人航空機が空を横切る光景はめずしいものではない。かつては警察官にとって、ドローンを現場の情報収集に使うことは滅多にないことだったが、今では日常になっている。容疑者が潜んでいる民家に警察官が立ち入る際には、「UAS(Unmanned Aerial Systems:無人航空システム)を派遣してください」と無線で依頼すれば、警察が保有する29機のUAS、つまりドローンのうちの1機がまもなく上空に到着する仕組みだ。警察が慎重に動かなければならない事案では、ほぼ常にドローンを使用している。飛行高度は、現場のおよそ60〜120メートル上空だ。ほとんどの人は、その存在に気づかないだろう。

チュラビスタ警察署では、こうしたドローンが警察官をさまざまな面から支援している。通信指令係はしばしば、警察官をどの現場に出動させるか、決断を迫られることがある。たとえば、1人の警察官しか出動できない状況で、2件の通報が入ったとしよう。1件目の通報は武装した容疑者に関するもので、2件目の通報は万引きに関するものだ。この場合、警察官は1件目の通報があった場所に出動する。だが、チュラビスタ警察署のアンソニー・モリーナ広報官によると、今では通信指令係は、ドローンを出動させることで万引きの容疑者も上空から密かに追跡できるようになっているという。

モリーナ広報官は、「ドローンが危険にさらされることは決してありません」と話す。さらに、ドローンを操縦している警察官の身が危険にさらされることもないと、モリーナ広報官は付け加える。「屋内から操縦するわけですから」。

警察署へのドローンの配備は米国では新しいものではない。現在では、全米各地の1500を超える警察署がドローンを活用している。主な用途は、捜索救難活動、事件現場の記録、それに容疑者の追跡だ。ほとんどの場合、米国連邦航空局 (FAA)の規制によって、ドローンの用途は限られている。規制のため、警察は操縦士が目視できる範囲でしかドローンを飛ばせないのだ。だが、2019年から米国連邦航空局は、BVLOS(Beyond Visual Line Of Sight:目視外)飛行の特別許可を出すようになった。特別許可を得ることにより、より長い距離を飛行させたり、遠隔操作で飛行させたりなど、ドローンをより効率的かつ広範囲に活用できる道が開かれた。

その特別許可を受けた最初の警察署が、チュラビスタ警察署である。今では、全米でおよそ225の警察署が特別許可を受けており、そのうちチュラビスタ警察署をはじめとする数十の警察署は、ドローンを第一出動部隊として運用するプログラムを取り入れている。操縦士が911番通報をリアルタイムで聴きながらドローンを操縦し、カメラを搭載したドローンが事故現場、非常事態に陥っている現場、事件現場に最初に到着することもある。

米国連邦航空局は、今後数年以内に目視外飛行を完全に合法化するだろうと多くの関係者が予測している。そうなれば、ほかの警察署でも類似のプログラムを導入しやすくなる。実際に、ネバダ州ラスベガスの次期保安官は、数百機のドローンをラスベガス市全域に配備して、犯罪や銃撃事件に対して迅速に対応できるようにする計画をすでに発表している。新たなテクノロジーもそう遠くないうちに実現される見込みだ。自律飛行技術のような新技術を取り入れるのも遠い将来の話ではない。自律飛行技術を利用すると、ドローンが事前にプログラムされた経路を飛行したり、人間の操縦士がいなくても指令に対応したりすることが可能になる。

アトランタに拠点を置いて司法当局機関にドローンの使用方法の研修を提供しているスカイファイア・コンサルティング(Skyfire Consulting)の創業者兼最高経営責任者(CEO)を務めるマット・スローンは、「警察がドローンを導入する動きは急加速しています」と言う。「警察署は、ドローン技術に投じる予算をどんどんと増やしています。2〜3年以内に自律飛行のドローンが現場に向かう時代が来ると思います」。

一方で、警察はドローンの導入を急ぎ過ぎているのではないか、と主張する人も多い。監視ツールとして、そして第一出動部隊としてドローンを導入すれば、警察業務が根幹的に変わっていくことになる。それも、プライバシー規制、有効な用途、そしてドローン技術の限界について、十分な情報に基づいた公の議論がないままにだ。

ドローンを導入すると警察業務の効率が高まることを示す証拠は、まだほとんどない。本稿を執筆するに当たって、米国で最も長くドローン・プログラムを運用していることで知られるチュラビスタ警察署の複数の警察官、それにメーカーや研究者など、複数の専門家に取材した。しかし、その中でドローンによって犯罪を減らせることを示す第三者による研究を提示できた者はいなかった。また、ドローン技術を使うことによって初めて、逮捕や有罪判決につながった事件の件数を挙げられる者もいなかった。犯罪件数が減少すれば、そのときたまたま使っていた技術が有効だったと警察が主張するのが、典型的なパターンだ。だが、ドローンの投入と犯罪件数の減少を結びつける具体的な統計や分析を欠いたままでは、相関関係を示すことはできても因果関係を示すことはできないだろう。

ドローン技術の導入がますます広がる中で、プライバシー保護団体や人権擁護団体からは、ナンバー・プレート読み取り装置や、据え付け型監視カメラのネットワーク、そして証拠映像を収集分析する新たなリアルタイム指令センターをドローンと併用すると何が起こるのか、疑問の声が上がっている。このようなデジタル捜査網が出来上がると監視能力が劇的に高まり、歴史的に警察の過剰な取り締まりを受けてきた人々を、警察 …

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