原子力エネルギースタートアップ企業のトランスアトミック・パワーは、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授陣の非公式調査を受け、見積もりに重大な間違いがあることが判明し、自社の先端原子炉テクノロジーに関する大胆な主張を取り下げていたことをMIT Technology Review編集部は掴んだ。
トランスアトミック・パワー(本社マサチューセッツ州ケンブリッジ)は、2011年にMITの原子力科学・工学部の学生2人が設立した企業だ。自社設計の溶融塩原子炉は、従来型原子炉の使用済み核燃料を再利用でき、はるかに効率よくエネルギーを生産できるしていた。2014年3月に公表したホワイトペーパーによれば、トランスアトミックの原子炉を利用すれば「軽水炉と比べて採掘ウラン1トン当たりで最大75倍の発電が可能になる」と公表していた。
こういった非常に高い技術力が効を奏し、ベンチャーキャピタルから何百万ドルもの資金調達に成功し、 相次いでメディアから高い注目を浴びた(本誌を含む)。さらにはロックスター級の技術顧問団の協力も得られた。だが2016年11月にトランスアトミックのWebサイトに掲載された文書では「75倍」という数値が「2倍以上」まで下げられた。さらに、現在ではトランスアトミックが開発中の原子炉は「蓄積された使用済み核燃料の量は減らせず」、燃料源としても使用できない、と書き改められた。保管に細心の注意が必要で、できるだけ増やすべきではない核のゴミをリサイクルできる希望は、トランスアトミックが設立当初、相当な世間の衆目を集めるうえで大きな役割を果たした。
「2016年初め、弊社の初期の分析に問題があることを把握し、誤りを修正する作業を始めました」とレスリー・デワン共同創業者はMIT Technology Review編集部の問い合わせに、メールで応じた。
今回の大幅修正は2015年末にMITのコード・スミス教授(原子力科学・工学部)による分析を受けたものだ。スミス教授は原子炉の物理特性を専門としている。
2015年末の時点で、トランスアトミックの主張に対して原子力科学工学の分野で疑念が高まり、トランスアトミックとの関係が密接である(初期の報道発表資料には、3年間の共同研究協定をMITの原子力科学部と結んでいると掲載され …