検索を生業とするスタートアップ企業にとって、絶好の時代がやってきた。2月上旬、筆者がユー・ドット・コム(You.com)の最高経営責任者(CEO)であるリチャード・ソッハーと話したとき、ソッハーCEOは興奮して声高に言った。「まったく、なんてエキサイティングな時代なんだろう。また新たな記録を達成したよ。こんなにも多いユーザー数は初めてだ。本当に目まぐるしい毎日だよ」。その様子からは、世界最大級の2つの企業がユー・ドット・コムのライバル製品を発表したばかりだとは思いもよらないだろう。
2月上旬、マイクロソフトとグーグルは相次いで発表し、検索の未来について各々の見解を示した。従来のリンクを羅列したリストではなく、流暢な文章で問い合わせに回答するチャットボットをお披露目したのだ。マイクロソフトは自社の検索エンジン「ビング」をアップグレードし、サンフランシスコに本社を置くオープンAI(OpenAI)が昨年リリースした話題のチャットボット「チャットGPT(ChatGPT)」の機能を搭載した。対してグーグルは、チャットGPTの対抗馬とすべく「バード(Bard)」の開発に取り組んでいる。
2社による発表は、検索業界の今後を垣間見せてくれるものではあったが、全体像を把握するにはマイクロソフトやグーグルの枠を超えた所まで目を向ける必要がある。これらの巨大企業は今後も検索業界を支配し続けるだろうが、それに代わる存在を探している人にとっては、検索はより複雑で多様なものになることが予想される。
この数カ月間、スタートアップの新勢力が水面下で同様のチャットボット強化型検索ツールをリリースし、さまざまな試みをしてきたことがその理由だ。ユー・ドット・コムは2022年12月に検索チャットボットを立ち上げ、それ以来アップデートを繰り返している。パープレキシティ(Perplexity)、アンディ(Andi)、メタファー(Metaphor)といった他の多くの企業も、チャットボットにアップグレードを加え、画像検索機能、他人が立てた検索スレッドを保存または続行できるソーシャル機能、数秒前の情報を検索する機能といったサービスと組み合わせている。
チャットGPTの成功は、巨大テック企業もスタートアップ企業も関係なく、熾烈な動きを生み出している。それは、人々が望んでいるものを、彼ら自身さえ思いもよらなかった形で提供する方法を探ろうというものだ。
古参企業と斬新な発想
グーグルは何年にもわたって検索市場を支配してきた。「長年の間、こうした状況がずっと続いていました」とワシントン大学で検索テクノロジーを研究するチラグ・シャー准教授は語る。「数多くのイノベーションがあったものの、目立った変化は見られませんでした」。
だが、2022年11月にチャットGPTが登場してこうした状況は一変し、バラバラの単語を並べて検索するというやり方がある日突然、一気に時代遅れに感じられるようになった。自分の知りたいことを直接聞けばいいだけの話になったのだ。
誰もがチャットボットと検索を組み合わせるというアイデアに夢中になっている。そう語るのは、かつてアマゾンのAIラボを率い、現在は検索エンジン用データベースを作る企業、パインコーン(Pinecone)のCEOを務めるエド・リバティだ。「まさに最高の組み合わせです。ピーナッツバターとジャムを合わせたサンドイッチくらい最高です」。
グーグルでは以前から、チャットGPTやバードといったチャットボットの原動力となるテクノロジーである「大規模言語モデル」を利用するというアイデアについて検討を重ねていた。そうした中、チャットGPTがメインストリームに躍り出たことで、グーグルとマイクロソフトが動き出した。
他社も追随した。現在では、大手企業と競合する中小企業がいくつも存在する、とリバティCEOは言う。「ほんの5年前なら、そのようなことは無謀だと考えられていたでしょう。まともな神経の持ち主なら、あんな巨城に攻め込もうとはしませんから」。
巨城を攻める
今では、既製のソフトウェアを使って検索エンジンを構築し、大規模言語モデルと連携させることが、従来に比べて容易となってきた。リバティCEOは、「何千人ものエンジニアが10年かけて築き上げたテクノロジーの塊を、ほんの数人のエンジニアが数カ月で模倣できるようになったのです」と語る。
ソッハーCEOは、まさにその具現者だ。セールスフォースの最高AI科学者を退職し、2020年にユー・ドット・コムを共同創業した。同社の検索サイトは、グーグルに代わるWeb検索 …