欧米の冷暖房事情に異変、ヒートポンプの時代がやってきた
ヒートポンプは、気候変動への対処と消費者のコスト削減に役立つ可能性がある。その仕組み、テクノロジー、将来性を概観してみよう。 by Casey Crownhart2023.05.09
これから、ヒートポンプの時代に突入する。
ヒートポンプのコンセプトは単純だ。電気の力を使って熱を移動させ、建物を冷やしたり暖めたりするのだ。ヒートポンプの概念は新しいものではない。1850年代に発明され、1960年代からは一般家庭で使われている。しかし、消費者のコスト削減や気候変動への影響に対する意識、また近年の政策的な後押しもあり、ヒートポンプは突如、最もホットな家電製品として脚光を浴びるようになった。
基本的な原理はシンプルだが、ヒートポンプの仕組みは興味深い。室温をコントロールするという名目で、物理学の法則を無視している機器のように感じる人もいるかもしれない。ヒートポンプの性能自体も向上してきており、新しい機種はより効率的で、寒冷地にも対応できる。
では、ヒートポンプの動作原理を詳しく見ていこう。
※日本版編注:日本の家庭で普及しているエアコン(ヒートポンプを使った局所式冷暖房機器)とは異なり、米国や欧州ではガスや灯油を使って空気や水を暖め、各部屋に送るセントラル方式が普及している。この記事は主にそうした欧米の事情を踏まえて執筆されている。
ヒートポンプの仕組み
ヒートポンプは大まかに言うと、ある場所から熱を集めて別の場所に運ぶものだ。ヒートポンプというと暖房のことを思い浮かべがちだが、エアコンのように室内から熱を集めて外に出す冷房にも利用できる。実際のところ多くのヒートポンプは逆運転、つまり、必要に応じて暖房と冷房を使い分けられる。
ヒートポンプで重要な役割を担っているのは冷媒だ。冷媒とは、熱を吸収・放出しながら循環する物質のことだ。冷媒は、電気を動力とするシステムによって循環する。
冷媒はヒートポンプ内を移動しながら圧縮されて膨張し、液体・気体とその様態を切り替え、循環して移動する中でさまざまな場所から熱を集めたり放出したりする(これぐらいの説明で十分なら、以下は飛ばしてその次の項目へ。もっと知りたい場合は、ヒートポンプの仕組みを理解するために、一緒にヒートポンプの内部を旅してみよう)。
想像してほしい。冬の寒い日で、気温は-5℃。あなたはリビングのソファに座って面白い本を読んでいて、近くで猫が丸くなっている。サーモスタットに目をやると、20℃に設定されている。賢い温度設定だが、少し肌寒い。あなたは立ち上がり、設定温度を少し上げて21℃にする。
この間、ヒートポンプは見えないところで静かに作動し続けている。設定温度を上げると、ヒートポンプ内部のファンとコンプレッサーはスピードアップし、冷媒がより速く動き出し、外から内へより多くの熱を伝えるようになる。
外はとても寒いのに、外から熱を集めるのは奇妙に感じるかもしれない。冷媒がどのように機能するのか、冷媒の循環を追いかけてみよう。ほとんどのヒートポンプでは、冷媒が1回循環するのにかかる時間は数分程度だ。
ヒートポンプの冷媒は沸点が非常に低く、通常は-25℃未満だ。つまり、スタート地点では冷媒はその温度付近で液状になっている。どんなに寒いところでも通常、この状態の冷媒は外気よりかなり冷たい(つまり、今回のケースでは室温から考えると40℃以上低くなっていることになる)。
第1段階で冷媒は熱交換器の中を流れ、外気を通過して温まり、沸騰し始める。そして、液体から気体へと変化する。
第2段階は、コンプレッサーの中の移動だ。コンプレッサーは冷媒をより小さな体積に圧縮し、圧力と沸点を上昇させる(すぐにこの点が重要になる)。すると、冷媒はさらに温められ、コンプレッサーを通過する頃には、室温よりも高い温度になっている。
第3段階で冷媒は、第1段階とは別の熱交換器を通過する。しかし、この時点で冷媒は38℃以上の温かい気体であり、比較的温度の低い空間を流れている。その熱の一部をファンで室内に送ると、冷媒は再び液体に戻り始める。
最後の第4段階で、液体に戻った冷媒は膨張弁を通り、圧力が解放される …
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