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難しい航空産業の脱炭素、「水素」は本命になるか?
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How new technologies could clean up air travel

難しい航空産業の脱炭素、「水素」は本命になるか?

世界の温室効果ガス排出量のうちおよそ3%は航空機によるものだ。この割合は決して小さなものではない。世界の航空業界は、温室効果ガス排出量を抑えた代替燃料を採用することで、2050年の気候変動の目標を達成しようとしているが、排出量が完全にゼロになるわけではない。 by Casey Crownhart2023.02.16

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

気候変動問題の記者として、時々告白するのをためらうのだが、そろそろ白状してもいい頃だろう。私は飛行機が大好きなのだ。旅をして新しい場所を訪れるのが好き、というだけではない。空港のターミナルで腰を下ろす瞬間から窓際の席に座るまで、その過程を心から楽しんでいる。空港のセキュリティをスムーズに通過する優越感さえも心地良い。

飛行機好きでありながら仕事で気候変動について記事を書くというのは変な感じがする。というのも、世界の温室効果ガス排出量の約3%が航空機によって排出されているからだ。2019年の排出量はおよそ1ギガトンにもなる。航空旅客数は2050年までに現在の倍以上になる可能性もある。

しかも人類は、それに対してどうしたら良いのか見当もつかない。

航空部門は、「脱炭素化が難しい」産業セクターとして知られており、排出量削減のための技術的課題は特に大きい。特に飛行機用の燃料は軽量かつコンパクトでなければならない。飛行機を飛ばした上で、人や貨物を乗せるスペースを確保する必要があるからだ。

この業界にも排出量を削減するための技術的アイデアがいくつかあり、試験飛行にこぎ着けているものもある。1月19日にはあるスタートアップが、水素を燃料とする史上最大の飛行機の試験飛行に成功した。そこで今回は、航空業界を変える可能性のある技術、それが影響を及ぼすまでにかかる時間、そして今回の試験飛行がどう次に繋がるかについて見ていく。

航空機からの排出量を削減するのに(そして私の罪悪感を軽減するのに)役立つ可能性のある技術を、いくつか紹介していこう。

持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuels)は、ジェット燃料の暫定的な代替燃料であり、非化石資源から作られる。廃油や廃脂を利用したものやバイオマス由来のもの、それに完全人工合成の燃料など、実にさまざまな種類のSAFが存在する。

それぞれの燃料には長所と短所がある。廃油は比較的進んだ技術であり、現在では商業用燃料にも少量配合されている。だが、おそらくすべての航空機に供給できるほどの規模にはならない。また、人工合成燃料はいまだ実証されていない技術であり、莫大なコストがかかる可能性がある。

航空機の脱炭素化戦略においては、いずれかのSAFが大きな役目を果たすことになりそうだ。国際航空運送協会(International Air Transport Association)の2050年脱炭素化計画では、予定排出削減量の約65%をSAFで実現するとしている。しかし、ほとんどのSAFは炭素排出をゼロにすることはできず、燃やすと大気汚染につながる可能性がある。

電池なら、少なくとも短距離であれば飛行機を飛ばせる。いくつかの企業がこの手の航空機の試験飛行を実施しているが、ほとんどは数人しか乗れない小型のeVTOL(電動垂直離着陸機)である。電気飛行機は、燃料を燃やして飛ぶ飛行機と違って空気を汚さないし、再生可能エネルギーで充電すればゼロ・エミッションの実現も可能だ。

バッテリーは、すでに電気自動車で広く使われている利点があり、数十年の進化を経て格段に進歩している。しかし、電気飛行機で大勢の人間を長距離輸送するには、飛躍的に改善し続けなければならないだろう(詳しくは、昨年の電気飛行機に関する記事をご覧いただきたい)。

水素は将来、航空用の燃料として幅広く使われるようになるかもしれない。航空機における水素の利用方法は2つ考えられる。1つは現在のジェット燃料と同じように、内燃機関で燃焼させる方法。もう1つは、化学反応によって電気を発生させる、燃料電池に利用する方法だ。選択肢があるのはすばらしい。

水素が環境に与える影響や実現可能性は、水素の使い方によって異なる。燃焼の際に排出される排気ガスもあるが、ほとんどは水だ。水素電気飛行機は、電池で動く飛行機と同様に、水素の製造方法次第では大気汚染とは無縁になる可能性を秘めている。

いずれにせよ水素は、バッテリーと違って重すぎず、大きなエネルギーを含むことが重要なポイントだ。9000メートル上空まで動力源を運ばなければならないとき、その動力源はとにかく軽い方がいい。周期表の中でも最も軽い元素である水素は、この条件にぴったり当てはまる。

問題は、水素は軽い反面、場所をとるということだ。飛行機に載せられるほど容積を小さくするには、水素を極低温(-250℃以下)まで冷却する必要がある。このようなシステムを設計し、飛行機に搭載するのは困難だ。また、再生可能エネルギーで製造した水素を大量に調達し、供給することも難しい。さらに、ここ数年で水素を動力源とした飛行機を飛ばす実験は何度かあったが、まだ課題がある。航空産業のあり方を変えるのは難しい。水素の実用化に数十年を要する中、暫定的な解決策であるSAFが近い将来採用される可能性が高いのは、このためだ。

ところがここ数年で、水素の航空利用について興味深い動きがあった。エアバスのような大手企業も参入し、試験飛行の計画を発表している。先月には、新興企業のゼロアヴィア(ZeroAvia)が、19人乗りのドルニエ228の試験飛行に成功したと発表し、再び話題となった。ドルニエ228は、部分的に水素燃料電池で飛行する航空機としては最大だ。この試験飛行の前にゼロアヴィアは、よりコンパクトな9人乗りの飛行機をテストしている。

この発表にはいくつか補足事項がある。とりわけ重要なのは、この飛行機の動力のほとんどはバッテリーと化石燃料の組み合わせだったということだ。また、試験飛行はわずか10分程度にとどまった。だがゼロアヴィアによれば、これは同社のシステムをより大型の飛行機で使用し、商業飛行に参入するための第一歩であり、10年後に達成する予定の商業飛行へ向けたマイルストーンになるという。

試験飛行の詳細や、水素飛行機が普及するために必要なことに関しては、発表に関する記事をご覧いただきたい。また、航空技術についてもっと知りたい読者に向けて、MITテクノロジーレビューの過去1年間のアーカイブから、いくつか記事を紹介しよう。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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