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中国テック事情:「コロナ治療薬」求めネット詐欺が横行
Fabian Sommer/picture-alliance/dpa/AP Images
China’s Paxlovid cyber scams are everywhere

中国テック事情:「コロナ治療薬」求めネット詐欺が横行

ゼロコロナ政策に固執していた中国が、その姿勢を突然転換した結果、新型コロナウイルスの感染者が急増している。重症化を防ぐ効果が高いとされる治療薬「パキロビッド」をめぐって、ネット詐欺師も急増している。 by Zeyi Yang2023.01.19

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

隔離政策の開始から3年近く経った1月8日、中国は入国者に対する隔離措置を公式に撤廃した。もっと違ったタイミングだったら、はるかに大きなニュースになっていたかもしれない。現在、中国国内では、新型コロナウイルスの感染者が前例がないほど急増している。中国で人口が3番目に多い省である河南省の当局者は、現在までに住民の90%近くが新型コロナウイルスに感染しているとの推計を発表した。当然のことながら医療体制は逼迫しており、数え切れないほどの人々が治療を求めている。多くの人は自分だけでなく家族を、そして高齢者や基礎疾患のある人を心配している。

このような状況に、詐欺師は新たなチャンスを見出している。残念なことに、詐欺師は中国を襲うこの不安と恐怖の波につけ込んで、ソーシャル・メディアで新型コロナウイルス感染症の治療薬、特に「パキロビッド(Paxlovid)」を販売すると吹聴しているのだ。ファイザーが開発したパキロビッドは、現在のところ重症化を防ぐ効果が最も高い治療薬である。

中国政府も2022年2月にパキロビッドの輸入を緊急承認している。だが、実際の需要は長らく低迷していた。厳しいゼロコロナ政策によって、中国国内での感染の広がりが抑え込まれていたからだ。その後、中国は突然方針を転換し、何百万人もの人々が発症した。当然、パキロビッドの在庫は中国各地で瞬く間に底をついた。患者がパキロビッドを手にするには、エリート層とのコネを使うか、数少ないオンライン薬局がその日の在庫を販売開始するのを、他の多くの人々と競いながら待つしかなくなった。入手できなかった人がネット上に可能性を求めて、ウェイボー(Weibo)や小紅書(Xiaohongshu)などの中国のソーシャル・メディア・プラットフォームや、ツイッターなどの国際的なソーシャル・メディア・プラットフォームで、助けを求めるのも無理はない。

そうした人々をカモにする詐欺がいま横行しているのだ。

先日、「ブーン・ジン」と名乗る正体不明のアカウントが私のツイッター・アカウントをフォローし始めた。アイコンにはアジア系の風貌の女医の写真を使っており、自己紹介欄には明らかに機械翻訳を利用した中国語で「中国にパキロビッドを販売している」と書かれていた。

ウィーチャット(WeChat)で「ジン」に連絡すると、ジンは5錠入り1箱のパキロビッドを2500人民元(370ドル)で売るという。当初ジンは、中国のフィンテック・アプリであるアリペイ(Alipay)または銀行振込で代金を受け取れると言っていたが、後になって暗号通貨のテザー(USDT)で支払う(これが最も都合がいいらしい)か、ニュー・ジャージー州在住のペイパル・ユーザーに送金するよう求めてきた。指定してきたペイパル・ユーザーは、名前も写真も明らかに偽物だった。

このツイッター・アカウントは、1週間後に消えた。本人が自分でアカウントを無効化したのか、ツイッターが無効化したのかは分からない。しかし、同じようなアカウントは現在も複数存在している。「ジャッキー・ウォン」「リー・ハイタオ」、そして「ユン・リン・シャン」だ。これらのアカウントも、アジア系の風貌をした医師の写真をアイコンに使っており、拙い中国語でパキロビッドを売ろうとしている。アカウントのコメントを見て回ると、少なくとも2人が「数百ドルを支払ったのに何も届かなかった」と訴えていた。

中国とは関係がない詐欺師が、中国にパキロビッドを送る方法を探している可能性がある海外在住の中国人を標的にする。かなり原始的な手口だ。しかし、治療を必死に求めている人にとっては、明らかに怪しい点があっても見逃したり無視したりすることがあるということを、この手口から私は思い出した。

同様の詐欺行為は中国国内でも信じられないほど横行している。私は、ジンとメッセージを交わした後に、ソーシャル・メディアでパキロビッドを探して詐欺に遭った数人の中国人から話を聞くことができた。

深圳市在住のリャオという中国人女性(本人の希望により姓のみ記載)は、基礎疾患のある54歳の父親が12月28日に新型コロナウイルス感染症で入院し、翌日に意識を失いかけたことで、死に物狂いになった。医師はパキロビッドの投与を提案したが、病院には在庫がまったく残っていないと明かした。そこでリャオは、人気のソーシャル・メディア・プラットフォームである小紅書に、助けを求める内容をした。

するとすぐに、パキロビッドを売るという人からのメッセージが続々と届いた。あるアカウントは、(他国で作られているジェネリック薬ではなく)ファイザー製の薬を持っており、即日発送できると言った。リャオは提示額の3600元(約530ドル)をためらうことなく支払った。

しかし、約束のパキロビッドはまったく届かず、支払先のアカウントはその後無効化された。リャオは警察に通報したが、払ったお金が戻ってくる可能性は低いと言われた。ただ幸いなことに、リャオの父親は容体が安定し、パキロビッドが必要な状態を脱した。

被害に遭ったのはリャオだけではない。湖北省在住の他の女性は、ウェイボーで男性詐欺師に出くわし、その後この詐欺師が少なくとも30人から合計3万ドル近くをだまし取っていたことが分かったと話した。被害者らは、対策を話し合うためのグループ・チャットを立ち上げた。この詐欺師のアカウントは、繰り返し通報されているにもかかわらず、ウェイボーで依然としてアクティブな状態だ。このアカウントは、今でもパキロビッドの写真を投稿し、新たな標的を探している。

「現在パキロビッドがあまり残っていない。必要ならDMを送ってほしい。#パンデミックと戦おう# #パキロビッド#

幸運にも詐欺師ではなく、本当に売ってくれる人を見つけられた人も、他の形の詐欺行為に警戒しなければならない。やっと手に入れたパキロビッドが偽物である可能性もある。パキロビットを盗まれてしまう(パッケージにパキロビッドの名前が印字されていることから)可能性もあるのだ。また、パキロビッドの代わりにジェネリック薬を求めた人もいる。インドの製薬企業が作るプリモビル(Primovir)やパキスタ(Paxista)などだ。しかし、これらは効果が疑問視されている。中国のいくつかの研究機関がこれらのジェネリック医薬品のサンプルを検査したところ、有効成分が全く検出されなかったのだ

このような詐欺行為がいまだに横行している理由としては、そもそもパキロビッドの入手が極めて困難だという事実が挙げられる。中国人の多くは恐怖と不安を感じており、一部の人々はおそらくパキロビッドの効果に期待しすぎている。多くの人は、誰がパキロビッドを服用すべきなのか、どうすればリスクなく服用できるかといった知識を持っていない。少しでも効く可能性があるものなら、何でも手に入れようとしているだけなのだ。

もちろん、詐欺師が藁にもすがる思いの人々を標的にしたのは今回が初めてではない。中国でも他の国でも、ネット上で活動する詐欺師は恐怖や緊急事態から利益を生み出そうといつでも準備を整えている。しかし、ツイッターやウェイボーなどのソーシャルメディア・プラットフォームが、こうした詐欺行為を防いでユーザーの信頼を取り戻すための十分な対策を取っているかどうかは、依然として疑問だ。

抜本的な解決策は、中国で安定的かつ安価に治療薬を入手できるようにすることだ。しかし、それにはもう少し時間がかかるかもしれない。ファイザーと中国の保健当局との間で合意が成立せず、パキロビッドを公的保険の対象にできなかった。北京や上海の病院ではパキロビッドを入手しやすくなったと報じられているが、その他のほとんどの場所では依然として入手困難なままだ。供給不足が解消されるまでは、詐欺師は詐欺行為を続け、さらに多くの人々が最悪の時間を過ごす中で傷つくことになる。

中国関連の最新ニュース

1.これもファイザー関連のニュースだが、先日ファイザーがパキロビッドのジェネリック薬を中国で作るためのライセンスを付与することについて中国政府と協議していると報じられたが、ファイザーはこれを否定した。(ロイター

2.習近平国家主席が中国のゼロコロナ政策について考えを変えるに至った舞台裏が、珍しく記事になっている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

3.中国のテック界の巨人ジャック・マーは、アリババ(Alibaba)からスピンオフしたフィンテック企業であるアント・グループ(Ant Group)の支配権を、50%超からわずか6%まで減らすことになった。マーは、2020年に金融規制当局を批判したことでアント・グループの新規株式公開(IPO)が失敗して以来、自身の役割を狭め続けている。(BBCニュース

4.米国のコンピューター・メーカーであるデルは、サプライヤーに対して、2024年までに中国製チップの使用をやめることを目指していると発表した。HPも同様の対応が可能か検討している。(日経アジア

5.一部のユーチューバーにとっては、中国経済の崩壊を(何度も何度も)予測することが、再生回数急上昇の秘訣となっている。(セマフォー

6.中国は、2028年までに月面基地を建設する計画を立てている。そして、その月面基地では核エネルギーを利用する可能性がある。(ブルームバーグ

  • 米国航空宇宙局(NASA)のビル・ネルソン長官は、米国は中国の月面探査に警戒すべきだと考えている。(ポリティコ

7.中国の研究者が、量子暗号を解読する方法を発見したと主張している。他の研究者たちは、完全には納得していない。(フィナンシャル・タイムズ紙

8.自動車メーカーであるテスラのトム・チュー中国支社長は、イーロン・マスクに次ぐ社内で2番目の地位に昇進した。チューは、テスラの世界的な製造と配送を統括することになる。(ロイター通信 $

  • 確定情報ではないが、ある中国のメディアが先月、チューがマスクに代わってテスラのグローバル最高経営責任者(CEO)に就任すると報じている。(ピングウェスト

9.よりよい生活を求めて米国に移住した中国人女性たちが、異国の地で家庭内暴力に苦しみ、声を上げられない状況に追いやられている。(ザ・チャイナ・プロジェクト

ボランティアが農村部のコロナ支援で活躍

中国では、農村部でも新型コロナウイルスの感染が大規模に広がっている。中国の農村部では、基本的な風邪薬や解熱剤すら入手が難しい。中国メディアの上観新聞の報道によると、都市部の住民は電子商取引プラットフォームやネット上の自助グループに頼っているが、人里離れた村に住む高齢者は、こうした人々のつながりを取り持つ技術に頼れることを知らない上、頼ろうにも地理的に離れていて頼れない状態だ。

そこでボランティア・グループがスプレッドシートを使って、それぞれの村でどれくらい必要か記録し、解熱剤の配送を手配し始めた。解熱剤は企業からの寄付、感染の急拡大に向けて準備ができている都市の薬局、そして余分に解熱剤を持っている人から集めている。初回のプロジェクトでは、3000錠の解熱剤と2000箱の風邪薬を、陝西省西部のある村に送ることができた。1月5日までに、中国各地の110の村に住む1万3000人の高齢者がこのプログラムの支援を受けられたと推定されている。

あともう1つ

ブレイクアウト13という新たなビデオ・ゲームが、中国のインディー・ゲーム・スタジオによって発売された。舞台は、中国のインターネット中毒治療施設。身体的虐待や電気ショック療法で、ビデオ・ゲームをプレイしすぎている子どもや、両親の「手に負えない」子どもを「治療」していることで悪名高い施設だ。映画や音楽といった文化作品で取り上げればすぐに検閲される可能性が高い繊細なトピックだが、インディー・ゲームは近年、こうしたトピックを取り上げる方法としてますます人気が高まっている。ブレイクアウト13は、中国語でも英語でもプレイできる。

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MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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