「クリプト」のバグを探す、Web3時代のセキュリティ監査人
コネクティビティ

The computer scientist who hunts for costly bugs in crypto code 「クリプト」のバグを探す、Web3時代のセキュリティ監査人

ブロックチェーン上で稼働するコードにエラーがあると、一瞬にして大金が失われる可能性がある。コロンビア大学のグ・ロンフー助教授は、スマート・コントラクトのコードを監査する企業を立ち上げ、暗号通貨業界で脚光を浴びている。 by Clive Thompson2023.01.05

2022年春、その年に暗号業界の世界を襲ったとりわけ不穏ないくつかの事件が起こる前の出来事だ。マイカ・ジョンソンというNFT(非代替性トークン)アーティストが、彼の作品の新たなオークションの開催に乗り出した。ジョンソンは暗号業界において、宇宙飛行士になることを夢見る黒人少年のキャラクター「アク(Aku)」の画像で知られている。コレクターたちは彼の新作の発売を待ちわびていた。オークション当日、 ジョンソンのNFTの作品群は3400万ドルの値が付いた。

そのとき、悲劇(考えようによっては喜劇)が起こった。NFTオークションを運営するジョンソンのソフトウェアチームが作成した「スマート・コントラクト」のコードに重大なバグが含まれていたのだ。ジョンソンの3400万ドル相当の売上は全額、イーサリアム・ブロックチェーンにロックされてしまった。ジョンソンは資金を引き出すことも、NFTに入札して落札できなかった参加者に返金することもできなくなった。暗号通貨は凍結され、触れることができない、いわゆる「チェーン上にロックされた」状態となった。

グ・ロンフー助教授を雇っておけばよかった、とジョンソンは思っているかもしれない。

グ助教授は、活気に溢れるが不安定で予測のつかない暗号通貨とWeb3の世界におけるスマート・コントラクト監査企業最大手、サーティック(CertiK)の共同創業者だ。コロンビア大学のコンピューター科学者であるグ助教授は、人当たりが良くて冗舌で、250人を超えるチームを率いている。彼のチームは、クリプト(暗号)コードにバグが含まれることがないように入念なチェックをしているのだ。

サーティックの仕事は、暗号通貨が崩壊した際にカネを失うのを防いでくれるというものではない。暗号通貨取引所がユーザーの資金を不適切な形で利用するのを止めてくれるわけでもない。だが、見過ごされたソフトウェアの問題によってり返しのつかない損害が発生するのを防いでくれる可能性はある。サーティックのクライアントには、ボアード・アペ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club、類人猿をモチーフとしたNFT)や、いろいろなゲーム内で利用されているブロックチェーンを運営するローニ …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。