ソーラーパネルを設置している屋根の数が増えているが、ソーラーパネルが最初に開発されてから数十年たっているに、シリコン板は分厚いままだし、高価で非効率だ。従来の太陽光発電には材料的な制約があり、太陽光からわずかなエネルギーしか吸収できない。
しかし、MITの科学者は、より多くの太陽エネルギーを獲得できる、従来とは異なる種類の太陽光エネルギー機器を開発した。この機器は独創的な工学技術と材料科学の進歩のたまものだ。従来の研究開発では太陽電池が利用できる光の波長(スペクトラム)が注目されていたが、MITが開発した機器は、太陽光をまず熱に変換し、その後もう一度熱を光に変換する仕組みだ。長年、さまざまな研究者が「太陽熱光起電力(solar thermophotovoltaics)」に取り組んできたが、MITの新しい機器は、太陽熱光起電力式の太陽電池だけを使うより多くのエネルギーを吸収する初の機器でなり、この機器の手法が効率性を劇的に上昇させることを示した。
一般的な太陽電池は、おもに紫から赤までの可視光線を吸収する。この仕組みと他の要因から、一般的な太陽電池は、約32%以上の太陽光エネルギーを電力に変換できない。MITの機器は未完成の試作品であり、動作中の変換効率はたったの6.8%だ。しかし、今後効率をさまざまな方法で向上させれば、従来の太陽光発電と比べて2倍ほどの効率性を実現できる。
- 熱太陽電池
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- ブレイクスルー 理論的に従来の太陽電池よりも効率性が倍になる太陽光発電
- なぜ重要か MITが発明した機器の設計は、日が沈んだ後でも発電し続ける安価な太陽光発電の開発につながる
- キー・プレーヤー デビッド・ビーマーマン、マリン・ソルジャシック、エブリン・ワン(以上、MIT)、ウラジミール・シャラエフ( パデュー大学)
- 実現時期 10~15年後
MITの機器の開発に重要だったのは「吸収・放出層」の開発だった。吸収・放出層は本質的に光の「じょうご」のような働きがあり、太陽電池の上の層になる。黒一色のカーボン・ナノチューブ製の吸収層は、太陽光の全てのエネルギーを取り入れ、大部分を熱に変換する。吸収層に隣接する放出層がセ氏1000度に達すると、放出層は熱エネルギーを光として放出する。その際、光のほとんどは太陽電池が吸収可能な可視光の波長まで下げられている。放出層はフォトニック結晶から作られており、フォトニック結晶の構造はナノスケールレベルで設計可能で、光のどの波長がこの構造の中を伝わるかを制御できる。もうひとつの重要な進歩は、非常に特殊な光学フィルターを追加したことだ。光学フィルターは未使用光子のほとんど全てを反射し、調整した光を伝える。この「光子リサイクル」によってより多くの熱が生成され、太陽電池が吸収可能な光をこの熱がより多く生み出すことで、システムの効率性が向上した。
MITの研究チームの手法には、特定の部品が比較的高価であるなど、いくつかの短所がある。また、開発中の装置は現段階では真空中でしか稼働しない。しかし、効率が上昇すれば経済性も向上するはずだ。また、MITの研究者には現在、この装置の実現に向けた明確な計画がある。MITの研究の指導を助けたエブリン・ワン准教授は「より優れた効率を達成するのに必要な理解を深めました。今では、装置の部品をさらに調整できます」という。
MITの研究者は、太陽熱光起電力の他の強みを利用する方法を模索してもいる。熱を貯蔵するのは電気よりも簡単であり、装置が作り出した余分な熱を蓄熱システムに貯蔵できるはずだ。そうすれば、太陽が出ていない時でも、貯蔵した熱で電力を生成できる。MITの研究者が貯蔵装置を機器に組み込み、効率を徐々に高められれば、このシステムはいつの日か、クリーンで安価な、しかも常にエネルギーを供給する太陽光発電になるだろう。